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意味不明なことが多い。意味不明なことばかりだ。例えば、勉強が出来なくても大学に上がれたり。例えば、罪もない子供が異世界に拐われたり。例えば、チョコが好きな友人が、街を壊すモンスターだったり。例えば、例えば…………。
「意味不明。なんで俺怒られてるの?」
なんにも分かってない顔が、荒々しく脳裏に焼き付いた。そのせいで天羽くんを許すことが出来ずにいる。
天羽くんと出会ったのは、学校の花壇の整備をしていた時だった。
「それ、面白い?」
美化委員だからやっているだけで、別に面白いからやっているわけではなかったが、つい
「面白いよ」
と答えてしまった。その返答が気に入ったのかなんなのか、天羽くんはあれこれと聞いてきた。
「その花はなんて名前? どれくらいで育つの? 枯れたあとはどうするの?」
「えーっと…………」
言葉に詰まっていると、飽きたのか、もういい、と離れていってしまった。なので、私の天羽くんの第一印象は「よく分からない人」だった。
次に出会ったのは、ボーダーのロビーで板チョコを齧っていた時だ。チョコレートが大好物な私は、常に何かしらのチョコを持ち歩いている。甘い至福の時を味わっていたら、通りがかりの天羽くんが目の前で足を止めた。
「えーっと?」
「チョコ、美味しい?」
「美味しいけど…………」
「そう、俺も好きなんだよねチョコ」
物欲しそうに言うもんだから、板チョコを割って分けてあげた。ちなみに、この時天羽くんは花壇でのやり取りは忘れていたらしいので、天羽くんの私の第一印象は「チョコレートをくれた人」だろう。
それからは、見かけると声をかけ合う仲になった。今日は学校の終わり、一緒にボーダーへ向かっている。
「君はつまらない色をしてるよね」
「天羽くんて結構失礼だよね?」
彼は強さが色で分かるサイドエフェクト持ちだそうだ。そんなのありなのかと思うけど、実際に私の実力は大したことはないので言い返せない。
「でも、目が離せないんだよ。なんでだろ?」
「そんなの、私に訊かれても……」
照れ臭くて顔を背けた。天羽くんはマイペースで、季節外れの蝶々が飛んでいるのを目で追っている。枯れかけの花に止まり、必死に蜜を吸う様を。ついに天羽くんは足を止めた。私も仕方なく、立ち止まる。
「……天羽くんは、花が好きなの?」
しばらく返事はなかったが、思い出したようなタイミングで、
「別に。考えたことないな」
と答えてくれた。蝶々がひらひらと飛んでいく。その方角を確認し、私は帰れなくなった家を思い出した。
「……ねぇ、聞いてる?」
「えっ、はい! ごめんなに」
天羽くんは話を聞いていないと、すぐに拗ねる。自分のことは棚にあげて。
「君は? 花は好きなの」
「まぁ、嫌いじゃないけど……詳しくは知らないよ」
「そっか、つまらないね」
「天羽くんは私のこと、好きなの嫌いなの!?」
あ、しまった。どう転んでも困る質問をしてしまった。天羽くんは瞬きをしたあと、さも当然というように。
「そりゃ、好きなんじゃない?」
天羽くんの瞳は不思議な力がある。背けることが出来なかった。
「でなきゃ、つまらない君に構う意味、ないから」
何も言えず立ち尽くす私を置いて、今度は歩き出してしまう。どこまでもマイペースで、私は振り回されてばっかり。
「あ、チョコ食べたい。頂戴?」
「あーもう!」
こんなだから絆されてしまったんだ。こんなだから彼が魔物だと知らないでいたんだ。
三門市は二回目の大規模侵攻を受けた。C級の子達が拐われて、本部では死人が出るほどの大惨事となった。けれど、それよりもなによりも、私が胸を痛めたのは。
「北西地区が……真っ新に……」
自分の生まれ育った、旧家が失われたことだった。亡くなった祖母と過ごした、大切な思い出の場所。その風景は無惨にも更地となり、欠片も面影を残さない。そして、それは近界民の手で行われたものではなく、天羽月彦ーーS級隊員の手によるものだった。その事実に、私は目の前が真っ暗になった。すぐに天羽くんを探し出して、問いただした。なぜ、なんであんな、酷いことをするのかと。他に方法はなかったのかと。激昂する私を不思議そうな、いつもと変わらない瞳で見ながら、彼はこう言った。
「意味不明。なんで俺怒られてるの?」
その後、彼とは話していない。そのせいか、私の世界から色は消えた気がする。自分の無力さに打ちひしがれながら、失くしたものを数える時間が増えた。学校の休み時間に、ぼんやりと天井を眺める。
「ねぇ、ちょっといいかな」
話しかけてきたのは、同じクラスの時枝くんだった。正直、あまり接点はない。ボーダー入隊の時に、お世話になったくらいだ。
「うん、なに?」
「最近元気ないよね。僕の知り合いもなんだけど。なにかあった?」
知り合い、というのは天羽くんのことだろう。話すかどうか迷ったが、時枝くんは真面目そうなので話してみることにした。
「私の育った家、北西地区にあったんだけど。それをこないだの大規模侵攻で壊されちゃって……」
「うん」
「天羽くんがやったって聞いたから、問い詰めたんだけど、相手にされなく
て。意味不明だって。だから……」
話してみたら、どんどんと涙声になっていった。時枝くんは、何も言わずに続きを促す。
「なんで分かってくれないのかなって、嫌に、なって。せめて家だけでも、守りたかったのに、私」
「うん、そうだね」
「私、やっぱり強くなくて。でも、天羽くんは許せなくて」
「そっか。うん」
時枝くんは言葉を選びながら、私にひとつ問いかけた。
「確かに天羽のやり方は間違ってたかもしれないけれど、その先には君がいたんでしょ? それでも、やっぱり彼を許せないかな」
その先には、私が。そのフレーズを聞いたら、天羽くんの言葉を思い出した。
『そりゃ、好きなんじゃない?』
マイペースで、めちゃくちゃで、意味不明だけど。確かに彼は、私を好きと言った。その想いと、私が大切にしていた想いの、どちらが重いかなんて比べようもないだろう。
「君が許せないのは、天羽じゃなくて君自身なんじゃないかな」
時枝くんの言葉を待たずに、私は教室を飛び出した。隣のクラスの天羽くんの元へ、走る、走る。
「天羽くん!」
私の声を聞き、振り返った天羽くんは目を丸くしていた。駆け寄り、頭を下
げる。
「ごめんなさい、私が悪かったです」
「なんのこと?」
「なんのことって…………」
とぼける天羽くんにじれったい思いをする。君は珍しく私から目を離すから、不安になる。なったけど。
「いいよ、忘れた。そんなことより、君が元気ならそれでいい」
こちらに覗く耳が赤く染まっていたから。私まで頬が熱くなる。言葉を探しても見つからなくて、気がつけばさっきも流した涙がまた顔を出した。
「!? なに泣いてんの」
「いや、なんか……私、ちっぽけだなぁって」
本当に大事なものを守った君に、私はなんて身勝手なことをしたんだろう。
「はぁ、馬鹿だね君」
「……やっぱりつまらない?」
「いいや」
天羽くんは呆れたような顔で笑う。
「千年後でも、見ていたいと思うね」
天羽くんには私が何色に見えている? 何色でもいいから、君のそばで輝いていたいと思ったよ。言葉に出来ないけれど。千年後でも、君の意味不明に付き合ってみせるよ。
「意味不明。なんで俺怒られてるの?」
なんにも分かってない顔が、荒々しく脳裏に焼き付いた。そのせいで天羽くんを許すことが出来ずにいる。
天羽くんと出会ったのは、学校の花壇の整備をしていた時だった。
「それ、面白い?」
美化委員だからやっているだけで、別に面白いからやっているわけではなかったが、つい
「面白いよ」
と答えてしまった。その返答が気に入ったのかなんなのか、天羽くんはあれこれと聞いてきた。
「その花はなんて名前? どれくらいで育つの? 枯れたあとはどうするの?」
「えーっと…………」
言葉に詰まっていると、飽きたのか、もういい、と離れていってしまった。なので、私の天羽くんの第一印象は「よく分からない人」だった。
次に出会ったのは、ボーダーのロビーで板チョコを齧っていた時だ。チョコレートが大好物な私は、常に何かしらのチョコを持ち歩いている。甘い至福の時を味わっていたら、通りがかりの天羽くんが目の前で足を止めた。
「えーっと?」
「チョコ、美味しい?」
「美味しいけど…………」
「そう、俺も好きなんだよねチョコ」
物欲しそうに言うもんだから、板チョコを割って分けてあげた。ちなみに、この時天羽くんは花壇でのやり取りは忘れていたらしいので、天羽くんの私の第一印象は「チョコレートをくれた人」だろう。
それからは、見かけると声をかけ合う仲になった。今日は学校の終わり、一緒にボーダーへ向かっている。
「君はつまらない色をしてるよね」
「天羽くんて結構失礼だよね?」
彼は強さが色で分かるサイドエフェクト持ちだそうだ。そんなのありなのかと思うけど、実際に私の実力は大したことはないので言い返せない。
「でも、目が離せないんだよ。なんでだろ?」
「そんなの、私に訊かれても……」
照れ臭くて顔を背けた。天羽くんはマイペースで、季節外れの蝶々が飛んでいるのを目で追っている。枯れかけの花に止まり、必死に蜜を吸う様を。ついに天羽くんは足を止めた。私も仕方なく、立ち止まる。
「……天羽くんは、花が好きなの?」
しばらく返事はなかったが、思い出したようなタイミングで、
「別に。考えたことないな」
と答えてくれた。蝶々がひらひらと飛んでいく。その方角を確認し、私は帰れなくなった家を思い出した。
「……ねぇ、聞いてる?」
「えっ、はい! ごめんなに」
天羽くんは話を聞いていないと、すぐに拗ねる。自分のことは棚にあげて。
「君は? 花は好きなの」
「まぁ、嫌いじゃないけど……詳しくは知らないよ」
「そっか、つまらないね」
「天羽くんは私のこと、好きなの嫌いなの!?」
あ、しまった。どう転んでも困る質問をしてしまった。天羽くんは瞬きをしたあと、さも当然というように。
「そりゃ、好きなんじゃない?」
天羽くんの瞳は不思議な力がある。背けることが出来なかった。
「でなきゃ、つまらない君に構う意味、ないから」
何も言えず立ち尽くす私を置いて、今度は歩き出してしまう。どこまでもマイペースで、私は振り回されてばっかり。
「あ、チョコ食べたい。頂戴?」
「あーもう!」
こんなだから絆されてしまったんだ。こんなだから彼が魔物だと知らないでいたんだ。
三門市は二回目の大規模侵攻を受けた。C級の子達が拐われて、本部では死人が出るほどの大惨事となった。けれど、それよりもなによりも、私が胸を痛めたのは。
「北西地区が……真っ新に……」
自分の生まれ育った、旧家が失われたことだった。亡くなった祖母と過ごした、大切な思い出の場所。その風景は無惨にも更地となり、欠片も面影を残さない。そして、それは近界民の手で行われたものではなく、天羽月彦ーーS級隊員の手によるものだった。その事実に、私は目の前が真っ暗になった。すぐに天羽くんを探し出して、問いただした。なぜ、なんであんな、酷いことをするのかと。他に方法はなかったのかと。激昂する私を不思議そうな、いつもと変わらない瞳で見ながら、彼はこう言った。
「意味不明。なんで俺怒られてるの?」
その後、彼とは話していない。そのせいか、私の世界から色は消えた気がする。自分の無力さに打ちひしがれながら、失くしたものを数える時間が増えた。学校の休み時間に、ぼんやりと天井を眺める。
「ねぇ、ちょっといいかな」
話しかけてきたのは、同じクラスの時枝くんだった。正直、あまり接点はない。ボーダー入隊の時に、お世話になったくらいだ。
「うん、なに?」
「最近元気ないよね。僕の知り合いもなんだけど。なにかあった?」
知り合い、というのは天羽くんのことだろう。話すかどうか迷ったが、時枝くんは真面目そうなので話してみることにした。
「私の育った家、北西地区にあったんだけど。それをこないだの大規模侵攻で壊されちゃって……」
「うん」
「天羽くんがやったって聞いたから、問い詰めたんだけど、相手にされなく
て。意味不明だって。だから……」
話してみたら、どんどんと涙声になっていった。時枝くんは、何も言わずに続きを促す。
「なんで分かってくれないのかなって、嫌に、なって。せめて家だけでも、守りたかったのに、私」
「うん、そうだね」
「私、やっぱり強くなくて。でも、天羽くんは許せなくて」
「そっか。うん」
時枝くんは言葉を選びながら、私にひとつ問いかけた。
「確かに天羽のやり方は間違ってたかもしれないけれど、その先には君がいたんでしょ? それでも、やっぱり彼を許せないかな」
その先には、私が。そのフレーズを聞いたら、天羽くんの言葉を思い出した。
『そりゃ、好きなんじゃない?』
マイペースで、めちゃくちゃで、意味不明だけど。確かに彼は、私を好きと言った。その想いと、私が大切にしていた想いの、どちらが重いかなんて比べようもないだろう。
「君が許せないのは、天羽じゃなくて君自身なんじゃないかな」
時枝くんの言葉を待たずに、私は教室を飛び出した。隣のクラスの天羽くんの元へ、走る、走る。
「天羽くん!」
私の声を聞き、振り返った天羽くんは目を丸くしていた。駆け寄り、頭を下
げる。
「ごめんなさい、私が悪かったです」
「なんのこと?」
「なんのことって…………」
とぼける天羽くんにじれったい思いをする。君は珍しく私から目を離すから、不安になる。なったけど。
「いいよ、忘れた。そんなことより、君が元気ならそれでいい」
こちらに覗く耳が赤く染まっていたから。私まで頬が熱くなる。言葉を探しても見つからなくて、気がつけばさっきも流した涙がまた顔を出した。
「!? なに泣いてんの」
「いや、なんか……私、ちっぽけだなぁって」
本当に大事なものを守った君に、私はなんて身勝手なことをしたんだろう。
「はぁ、馬鹿だね君」
「……やっぱりつまらない?」
「いいや」
天羽くんは呆れたような顔で笑う。
「千年後でも、見ていたいと思うね」
天羽くんには私が何色に見えている? 何色でもいいから、君のそばで輝いていたいと思ったよ。言葉に出来ないけれど。千年後でも、君の意味不明に付き合ってみせるよ。