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走り込みを始めて小一時間。夏であれば、まだまだ太陽は高いところにあるのだが、冬の今はもう辺りは真っ暗だ。吐き出す息が白い。河川敷に人気はなく、横の道路を走る車の音だけが遠く聞こえる。空は雲一つなく高く、星々が澄んだ空気の中で輝いている。走り込みは好きだ。何も考えず、無になれる。一人でも寂しいということはない。日々の悩みとか、ちっぽけな私の劣等感とか、全て身体の熱となって放出されていく感覚。もう少し走ろう。私は夕飯の時刻も忘れて、走るのを続けようとした時。向かい側から自転車のライトが走ってきて、私の手前で止まった。
「いつまで走ってんだよ。もう暗いだろうが」
「まだ18時前だけど」
「それと暗いのは関係ねぇだろうよ」
話しかけてきた幼なじみを、無視して通り過ぎる。後ろでため息が聞こえて、雅人は自転車を折り返し私の横を並走した。
「お前のおばさん、心配性過ぎだろ。迎えに行ってくれってうるせえんだよ」
「そうだね。悪かった」
「そう言うなら、さっさと帰んぞ」
「嫌。まだ走る」
「お前、本当にそういうとこ頑固な」
雅人はもう一度ため息を吐いた。白い息が寒空に立ち上る。そこから、お互い無言で河川敷を走った。時折、雅人はゆっくり自転車を漕ぐのが疲れたのか、私を追い越してまた戻って来る。
「…………腹減った」
「帰ってもいいよ」
「それじゃ、俺が寒い中出てきた意味ねぇだろうが」
それでも、前を見続けて走っていると、雅人は自転車を止めた。嫌な予感がして、走るスピードを上げる。が、瞬発力のある雅人には敵わずに襟首を捕まれてしまった。持続力なら絶対負けないのに。
「おら、もう帰んぞ! 送ってやっから、さっさと後ろに乗れ」
「送ってやるって、家が隣同士なんだから当たり前でしょ!」
「当たり前じゃねーよ、なんで好き好んで俺がお前と2ケツしなきゃなんねーんだよ」
「私だって、好き好んであんたに迎えに来られてるわけじゃないわよ!」
ぎゃーぎゃー言い合いながら、抵抗してみるけれど雅人の力には敵わず、ズルズルと自転車の前まで連行された。私が逃げないように、しっかりと雅人は私の手首を握り離さない。今度は私がため息を吐いて、諦める番だ。
「分かったよ……もう帰る」
「おう、早くしろ」
私が自転車の後ろに乗ると、雅人は真っ直ぐに自転車を漕ぎ出した。街の明かりが視界を通り過ぎる中、揺れるので雅人の身体に捕まった。ダウンを着込んでるから、人の温もりなんてちっとも感じない。ただ、ダウンの表面はとても冷たくなっていて、寒いのが苦手な雅人には堪えるだろうと感じた。
「そうやって、後から気遣うくれえなら、初めっから大人しく連れ帰られろってんだ」
「…………うるさい」
口下手な私の気持ちを、勝手に拾う雅人には、これでも苦労している。知られたくないことまで踏み込んできて、いつだってこうやって迎えに来られてしまう。こんな幼なじみ、厄介なだけだ。
「礼くらい、ちゃんと言葉にして言えよなあ」
ほら、また。勝手に私の気持ちを拾って、言う前に分かってくれてしまう。ますます、私は素直でいられなくなる。そんな自分が好きじゃない。私の嫌なところまで包んでしまう、雅人なんて、嫌いだ。……大嫌い。
「ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ、痒いだろーが」
「…………悪かったわね」
「俺だって、こんな手のかかる幼なじみはゴメンだっつーの」
幼い頃から平行線を辿る、私達の青春。交わらなくても、横に君がいるという安心。ぬるま湯のような距離と関係に、溺れて呼吸を忘れる私達。そんな日々を、いつまで続けていられるだろうか。流れ星に問いかけたって、答えなんてくれないだろう。
「いつまで走ってんだよ。もう暗いだろうが」
「まだ18時前だけど」
「それと暗いのは関係ねぇだろうよ」
話しかけてきた幼なじみを、無視して通り過ぎる。後ろでため息が聞こえて、雅人は自転車を折り返し私の横を並走した。
「お前のおばさん、心配性過ぎだろ。迎えに行ってくれってうるせえんだよ」
「そうだね。悪かった」
「そう言うなら、さっさと帰んぞ」
「嫌。まだ走る」
「お前、本当にそういうとこ頑固な」
雅人はもう一度ため息を吐いた。白い息が寒空に立ち上る。そこから、お互い無言で河川敷を走った。時折、雅人はゆっくり自転車を漕ぐのが疲れたのか、私を追い越してまた戻って来る。
「…………腹減った」
「帰ってもいいよ」
「それじゃ、俺が寒い中出てきた意味ねぇだろうが」
それでも、前を見続けて走っていると、雅人は自転車を止めた。嫌な予感がして、走るスピードを上げる。が、瞬発力のある雅人には敵わずに襟首を捕まれてしまった。持続力なら絶対負けないのに。
「おら、もう帰んぞ! 送ってやっから、さっさと後ろに乗れ」
「送ってやるって、家が隣同士なんだから当たり前でしょ!」
「当たり前じゃねーよ、なんで好き好んで俺がお前と2ケツしなきゃなんねーんだよ」
「私だって、好き好んであんたに迎えに来られてるわけじゃないわよ!」
ぎゃーぎゃー言い合いながら、抵抗してみるけれど雅人の力には敵わず、ズルズルと自転車の前まで連行された。私が逃げないように、しっかりと雅人は私の手首を握り離さない。今度は私がため息を吐いて、諦める番だ。
「分かったよ……もう帰る」
「おう、早くしろ」
私が自転車の後ろに乗ると、雅人は真っ直ぐに自転車を漕ぎ出した。街の明かりが視界を通り過ぎる中、揺れるので雅人の身体に捕まった。ダウンを着込んでるから、人の温もりなんてちっとも感じない。ただ、ダウンの表面はとても冷たくなっていて、寒いのが苦手な雅人には堪えるだろうと感じた。
「そうやって、後から気遣うくれえなら、初めっから大人しく連れ帰られろってんだ」
「…………うるさい」
口下手な私の気持ちを、勝手に拾う雅人には、これでも苦労している。知られたくないことまで踏み込んできて、いつだってこうやって迎えに来られてしまう。こんな幼なじみ、厄介なだけだ。
「礼くらい、ちゃんと言葉にして言えよなあ」
ほら、また。勝手に私の気持ちを拾って、言う前に分かってくれてしまう。ますます、私は素直でいられなくなる。そんな自分が好きじゃない。私の嫌なところまで包んでしまう、雅人なんて、嫌いだ。……大嫌い。
「ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ、痒いだろーが」
「…………悪かったわね」
「俺だって、こんな手のかかる幼なじみはゴメンだっつーの」
幼い頃から平行線を辿る、私達の青春。交わらなくても、横に君がいるという安心。ぬるま湯のような距離と関係に、溺れて呼吸を忘れる私達。そんな日々を、いつまで続けていられるだろうか。流れ星に問いかけたって、答えなんてくれないだろう。