プロトタイプ/落書き

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スマホの連絡を気にする時間が明らかに増えた。原因は明白で、瑠璃さんから連絡が来ないかずっとそわそわしている。馬鹿みたいだ。連絡が来ないから、自分から毎日挨拶のように声をかけてしまって、それに返信がないと落胆してしまう。俺は冷静じゃない。自分でも分かるのに、やめられない。恋とか言うらしいが、どうにも厄介で始末に負えない。なんで俺がこんなことに。まとまらない思考のまま練習を終えて、休憩時間。スペインでのお昼休憩はシエスタ制度が設けられていて、長い。今から17時頃まで、なにをして過ごそう。朝の挨拶に返信もないのに、瑠璃さんを誘おうとしている。絶対失敗するだろ、それ。恋愛初心者でも分かることだ。でも誘わなければ、会うことは出来ないし。一緒に昼寝がしたいだなんて思って、なにを浮かれたことを考えているんだと頭を振った。まともに連絡もくれない相手に、どうしてここまで入り込めるのか。自分でも理解不能で。ただ、あの人の手の上で転がされてるだけだと理解るのに。人にいいように遊ばれるのなんて、死んでもごめんなはずなのに。それでも、会いたくて仕方がないのだ。
(家まで会いに行っていいですか?)
そう送って、返事は待たずに動き出して。気持ちが悪い、誰がこんなしつこい男に惚れるというのか。でもだって、つれなく気のないそぶりをしていたら、そのまま何処かへ行ってしまうから。こうする他ない、他に有効な手段が浮かばない。瑠璃さんのアパートの前まで来て、高鳴る心臓を感じる。試合でもこんなに意識したことはない。自分がどうなってしまうのか、末恐ろしなってしばらく立ち尽くした。深呼吸をして、階段をあがる。306号室の前、震える指でチャイムを鳴らす。ドアが開いて、あくびをして眠たそうな瑠璃さんがいる。瑠璃さんはなにも言わずに首を傾げた。俺は慌てて、弁明をする。
「あ、その。ごめんなさい急に。連絡はしたんですけど、」
「昼寝してたの」
「そう、ですよね。はは」
舌の根が乾いていく。なにも言葉が浮かばない。瑠璃さんはスマホを見て、俺のメッセージを確認した。俺の顔を見て薄く笑う。冷や汗が出る。そんな俺の様子を楽しんでいるようで、腹が立つ。腹が立つけど、そんなことはどうでもいいくらいには好きだ。
「冴くん、家に来てどうするつもりだったの?」
「え……シエスタを一緒に過ごせればと、思って」
「それだけ?」
「…………はぃ」
消え入るみたいな声で返事をする。瑠璃さんは表情を変えない。何かを期待してるような、試すような眼差しに射抜かれて、身動きが出来ない。情けない、こんなに情けない男だったのか自分は。
「あの、」
このままでは終われない。こんな調子が狂ったような自分を、好きになってもらっても仕方がない。背筋を伸ばした。目は離さなかった。心臓が張り付いて動かなくなるような感覚があった。息を吸い込んだ。
「好きです、自分でもよく分からないくらい。説明出来ないんです、馬鹿馬鹿しくて自分でも笑ってしまう。毎日連絡なんかしてごめんなさい……抑えきれなかったんだ」
気づけば自分の拳を握っていた。瑠璃さんは少し目元を緩めて、優しい雰囲気になった。感情の吐露は止められなかった。
「好きだから、もっと一緒にいたい。いさせてくれ」
「……必死だね?」
「こんな恋しか知らない、貴方が初恋だ」
そう告げたら、瑠璃さんは今まで見た中で1番嬉しそうに笑って。そんな表情、するんだ。心臓が潰されたかと思った。痛かった、痛くて苦しいのに逃れられなかった。瑠璃さんが俺の手を引いて、部屋に招く。頭の中が焼き切れる感覚がする。
「じゃあ、今日は夜まで一緒にいてあげるわ」
「!!うん」
「なにをする?なにが知りたい?」
「俺のこと好きですか?」
反射的に声に出していた。まずはともかく、それが知りたくて。瑠璃さんは、また嬉しそうに笑う。
「内緒!!」
甘い罠から、逃れる術がないことを知った。それでも構わないから、全てを知りたくなった。
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