布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

やべ、寝坊したわ。布団から身体を起こし、頭を掻く。時計を確認すると、10時を過ぎていた。やっぱ寝坊してたわ。布団を雑に畳み、部屋を出る。リビングに目玉焼きとサラダが、皿に盛り付けて置いてある。食パン齧りながら、フォークを持ってきて食べる。サラダに醤油ドレッシング、目玉焼きに塩。食べ終わって一服。連絡確認して、一度部屋に戻って着替える。リビング戻ってきてもう一服。ウエストポーチにタバコとタブレット、スマホに財布。それだけ詰めて家を出る。
「いってきまーす」
父も母ももう出勤していないが、そう呟いて家を出る。施錠して、アパートの駐車場に降りる。202と掠れた白線で示されたスペース、愛車が停めてある。ぽんぽんとボンネットを叩いて、今日も頼むぞと伝えてやる。愛車は勢いよくエンジンを鳴らして答えた。タバコを吸いながら、環状線を走っていく。自宅からおよそ30分ほど、オジキの事務所兼自宅に到着。重々しい日本家屋の玄関を潜って、右側の手前の部屋に入る。そこが事務所になってる。オジキは1番奥に腕を組んで座って待ってた。いつものこと。
「重役出勤か、翔悟」
「重役じゃないのか?」
「ほんに、減らず口が」
ハッ、とオジキは鼻で笑い、葉巻に火をつける。オジキの後ろの窓を換気のために開ける。
「飯食ったか」
「朝は食ってきた。14時に新橋行けばいいんだっけ?」
「葉巻買いたいんだ」
「新宿寄るのな」
オジキの身の回り、特に足元に物が落ちてないか確認する。昼飯、買いに行って戻って食って。そこから新宿寄って14時に新橋。結構タイトなスケジュールになってしまった。
「遅刻してごめんオジキ」
「今更か。あれだ、昼は蕎麦食いたいから宗寿庵にしよう」
あのたっけぇ手打ち蕎麦の店か。
「分かった。もう出る?」
オジキが頷くので、杖を取ってやって渡す。オジキは足を震わせながら立ち上がり、右足を引き摺りながらゆっくり歩く。先を歩いてドアや玄関を全部広く開け、オジキが玄関に腰掛けるのを手伝って、靴を履いている間に車を持ってくる。オジキが1人で立とうとしていたので、慌てて手を貸す。そのまま、車の助手席に座ってもらい発進する。
「安いタバコの臭いだ」
オジキが顔を顰めて言う。いつもの小言だ。
「俺は気に入ってんだよ」
換気がてら、窓を全開にして走る。80年代のフォークソングを流しながら。俺が鼻唄で歌うのを、オジキは目を細めて聞いていた。大通りからひとつふたつ路地を入って、ひっそりと佇む宗寿庵に着く。オジキが降りるのを手伝い、車を停めてくる。店に入ると、奥の座敷に案内される。
「お前、天ざるだろ」
「そうだな」
「頼んでおいた」
天ざる、多分ランクがあるんだけども。おそらく、1番いいやつ頼んでくれたんだろな。メニュー見ることが少ないから分からんが。少し身体を小さくする。やがてお膳が運ばれてきて、天ぷらとざるそばが並ぶ。オジキを見れば、蕎麦だけだった。オジキも食が細くなったよな。
「いただきます」
「ん」
一緒に食い出す。食べ終わるのは同じくらいだが、量が違うんだから俺が食うの早いんだろう。天ぷらは、油が違うのか随分上品な味がして、しつこくなくて食べやすかった。すごく美味しかった。
「ごちそうさまでした」
「ん」
オジキの手をレジまで引いてやり、会計は見ずに外で待つ。
「ごちそうさまでした」
「おう」
「車、持ってくるから待ってて」
駆け足で車を持ってきて、そのまま新宿へ。新宿のタバコ屋で葉巻を買う。オジキを車に残して、言われたものを言われた通りに、持たされた金で買う。葉巻ってめちゃくちゃ高く感じる。おつかいを済ませたらまっすぐ車に戻り、葉巻とおつり、レシートを渡す。オジキはしげしげと見た後、ポケットに全部突っ込んだ。
「新橋のどこだって?」
オジキはカーナビに指を伸ばすと、慣れない手つきだがしっかりと行き先を入力した。ナビに従って走行する。予定到着時刻が14時ジャストくらい。
「飛ばせんのか」
「オジキ乗せてて飛ばせねぇよ」
「年寄り扱いしやがって」
「そういうことじゃねぇって」
ぽつぽつ会話をしながら、14時ギリギリで目的地に着く。車を降りて中まで誘導しようとすると、ここでいいと手で制される。
「16時頃に迎えに来い」
「うい」
オジキはゆっくりと確かな足取りで、ビルの中に入りエレベーターに乗った。見届けて、その場を離れる。とりあえず適当に移動して。16時までなにすっか。
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