布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

『ちゃんと飯食ってるか?』
どこから嗅ぎつけるのか、国領からそんな連絡が来る。柴崎がなんか言ったのか、柴崎見てたら俺が心配になったのか。どちらでもいいが、時間はあるのに心に余裕がなくてしばらくスルーした。ベッドの上で寝返りを打つ。ちゃんと飯食うって、どんなレベル。一昨日はドカ食いした、反動で昨日は一食しか食べてない。今日はというと。朝に野菜ジュース飲んだっきりだわ。うん、これはちゃんと飯食ってるとは言えなさそうだ。一応、報告するためにスマホを開く。
『食ってないっぽい』
『何故に疑問形?』
『忘れてたんだよ』
『そっか、うん』
まだなにか言ってくるだろうが、一度目を離す。天井を見上げる。実は午後から彼女と出かける予定があるが、着替える気にもならない。動けないだろな、これ。もう一度スマホを開き、彼女に『具合が悪いから、今日はごめん』とだけ打って、放る。目を閉じて、意識を手放す。頭が痛い、遠く母の声がして。膝を抱え、縮こまって眠る。腹が鳴るのは無視をした。

目が覚めたのは、15時過ぎだった。ぼやけた頭で、反射のようにスマホを見る。彼女からの連絡は無視して、国領からの連絡を確認する。『大丈夫か?』のあとに時間を空けて、『無理するなよ、なんか返事くれ』と残されていた。文字を打つのがめんどくさくなり、電話をかけた。3コールほどして、出てくれる。
「もしもし?大丈夫か?」
「……多分?」
「よし大丈夫じゃない時だなそれ。そうか……」
国領はあーとかうーとか、声にならない声を出して、俺のために言葉を探しているようだ。そんな時間は、居た堪れなくて好きじゃない。
「国領?」
急かすように、少し苛立った声で名前を呼ぶ。電話の向こう、きっとお前は肩を揺らしただろう。
「わ、悪ぃ。えっとな」
それはこちらのセリフ。
「その、酒が結構冷蔵庫に残っててさ。つまみも、それなりに作れるからさ。持って行ってもいいんだけど、彼女さんとかさ」
「夕香なら今日いないよ」
「そ、そうか。ごめん、柴崎捕まらなくて多分仕事だと思うんだけど、その……」
「……それのどこが謝ることなのか、分かんないけど?」
「あ、ごめん……」
この男はいったいなにに謝っているんだか。バカなやつ。どうせおせっかい焼くなら、元気そうに堂々としててくれよ。
「ありがとう、国領」
「……おう。で、どうする?どうしたい?」
「俺の部屋来なよ。片付けとくから」
着替えて出かける気力はないが、片付けくらいなら頑張れそうだ。朝飲んだきりで放り出された紙パックを、ゴミ箱に放り込む。
「分かった。酒と材料と持ってく。キッチン貸してくれ」
「うん」
「なに食いたい」
「卵焼き」
「お前もか……」
大体察しがつく。まぁ俺も柴崎も国領の卵焼きは好き。甘くなくていい。国領が作るつまみはだいたい全部美味いけど。お腹空いてきたな。
「お腹空いたから、早くして」
「はいはい」
じゃああとでな、と電話が切れる。あくびをひとつ溢す。顔くらい洗っておくか。あとテーブルの上を片付けて。夕香がほっぽっていったもの、適当にどかして。掃除機はめんどくさいや。椅子に座って、窓からの夕暮れをぼんやり眺める。頭の中が、斜陽に照らされて洗い出されるような気がする。今日は寝過ごしたけど、明日も日曜だし。夜は少しくらい、はしゃいだって大丈夫だろう。
ピンポーン
インターホンが鳴る。足取り軽く、すぐに玄関を開ける。
「物騒な奴だな……確認くらいしろよ」
「来るの分かってるし」
「まあそうだけど」
でかい保冷バッグだけ、国領は俺の部屋に上がる。ポロシャツの胸元のボタンが、ほつれているのを見つける。
「ボタン、取れそう」
「あ?マジか」
国領がポロシャツを見つめる。ほんとだ、と頭を掻く。
「つけといてあげる。貸して」
裁縫箱、どこにやったっけ。夕香が変なとこ仕舞ってなきゃいいけど。
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