布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

「あ゙ぁ〜」
疲れた。なんとか残業は免れたけど。伸びをして肩を回し、同僚や上司にちゃんと挨拶をして、エレベーターに乗って退社。会社のエントランスに出ると、めちゃくちゃ見覚えのある柄シャツ男がいて、目を擦る。
「おせぇよ国領!」
「いや、約束してないよな!?」
疲れててすっぽかしたか?いやいや。念の為スマホを確認しようとすると、柴崎はゲラゲラ笑い出したので、約束はしてないと確信。
「約束してねぇじゃねぇかよ!!」
「約束してなきゃダメなのか?」
そのケロッとした顔で俺を見んな。昔っから変わり映えのしない。
「別に……構わねぇけど……」
「な!飲み行こうぜ!」
「えーまだ週中……」
「お前ん家がいい!」
「話聞いてるか?」
店か自分の家なら、まぁ自分の家のが寛げるしいいけど……こいつ泊まる気だよな?俺は明日早いんだが?
「お前明日仕事は」
「休みだな」
「やっぱりか!俺はあと2日あんだよ!」
「国領くんなら大丈夫だって〜」
「そんな無責任な信頼いらん」
大袈裟にため息を吐いてみるが、柴崎はやめる気はないようで。駅の近くの駐車場まで俺を引っ張って行き、愛車に押し込めようとする。
「だから!俺いいって言ってねぇだろ!」
「構わねぇっつったろ」
「それは!アポイントの話で!今日飲むかの話じゃない!」
「えーせっかく会いに来たのに、このまま帰すんですか?」
「〜〜っ!!だぁもう!!」
抵抗をやめ、助手席に座り荒々しくドアを閉めてやった。柴崎はご機嫌で鼻唄を歌いながら、運転席に着く。
「…………酒代奢れよ」
「えそこまで持ち合わせないです」
「ふざけんなよお前」
頭を軽くはたく。なにが嬉しいのか、柴崎はゲラゲラ笑っている。釣られて自分も口角が上がる。頬杖をついて、窓の外を見た。ネオンライトが車の速度に溶けるように流れていく。
「ちょっと飛ばしてぇな〜ドライブしてから帰るか!」
「お願いだから直帰させてもらえる?」
「えー」
どっからその元気出てくんだよ、まったく。

「買いすぎだろうがよどう考えても」
「飲み切れなかったらストックしておけばいいし」
「俺の冷蔵庫に?」
「そうだよ?」
「そうだよじゃないが。勝手に圧迫すんな。自炊してんだよこっちは」
オートロックのマンションの、3階1番端の部屋。307号室。鍵を開けて、客より先に中に入る。
「お邪魔しまーす」
「おう」
馬鹿でかい挨拶を背中で聞きながら、とっととスーツとシャツを脱ぐ。洗濯かごに放り込んで、スウェットを2枚出して1枚柴崎に放る。
「さんきゅ」
「先に風呂入る」
「あーい」
柴崎は柄シャツから貸したスウェットに着替えている。いつも思うんだけどなんか……ガキっぽい着替え方なんだよな。なんか、こう。上手く説明出来んが。手早くシャワーを浴びて出るが、おそらく勝手に飲み始めてるだろう。
「おさき〜」
ほらな。ため息を吐き、横に座る。梅酒の缶に手を伸ばし、栓を開ける。飲みながら、飯をどうするか考える。
「なぁ卵焼き食いたい」
「うっせえお前に選択権はねぇ」
卵、残ってたっけ。こいつの分くらいは焼けるだろ。米は炊いてねぇし冷凍もないから、パスタか焼きそばか。卵焼きなら焼きそばかね。梅酒缶と一緒に、手狭なキッチンに立つ。
「手伝うか?」
「座ってろ」
こいつに包丁持たせたら最後、血を見るからな。まぁ今日のメニューは包丁使わねぇけどよ。カット野菜を炒めて、麺入れて、水足して蒸して。その間に卵を溶いて、卵焼き器に流す。焼きそばにソース加えて、卵をひっくり返して巻いて。適当に盛り付ける。
「出来たぞ」
「わーい」
皿を取りに来た柴崎の、卵焼きを見つけた時の顔。力が抜けて、最高に笑える。
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