布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

〜♪
現場での仕事の帰り、スマホがポケットの中で震える。どうせメールかなんかの通知だろ、と思っていたが止まらない。取り出してみると、布田からの着信だった。慌てて電話に出る。
「おう、どうした?」
「……柴崎、明日暇?」
「土曜だっけ?明日」
「そうだよ」
「俺はなんもねぇよ〜」
布田の声が重いことには気付いたが、特に俺はなにも知らないフリをする。日が落ちてきて肌寒く、ひとつくしゃみをした。
「大丈夫?」
「さみぃ〜」
「どうせまた半袖だろお前」
「まぁな!」
ケラケラ笑えば、向こうで空気が柔らかくなる気配がする。そんな気がするだけかもしれないが。布田がなにか言うまで、黙って通話を繋げる。車のキーを出して、愛車に乗り込む。カーナビを布田の自宅に設定する。
「あのさ、海が見たいんだけど」

「本当にもうしょうがねぇなおめぇは〜」
「…………」
茶化してみたが、布田は窓の向こうを見つめて答えない。布田を迎えに行き、助手席に乗せて千葉へ向かっている。高速に乗る前に、腹ごしらえがしたい。
「なに食う?」
「食欲ない」
「いやなんか食っとけよ」
この先に丸亀あるし、うどんでいいか。ウィンカーを出して右折する。駐車して、布田に降りるように促す。布田は潜るようにして車から這い出し、ドアを閉める。ほんと背ぇ高いなこいつ。
「なに食おっかな〜」
こういうことは初めてではない。こういう布田がどうしようもない時は、俺が車でどっか連れて行く代わりに、布田は俺に夕飯を奢る。
「天ぷら、3つ食っていい?」
「好きなだけ食べなよ」
布田はふっと笑う。ずっと笑ってりゃいいのに。結構、笑ってると元気出てくるし、悩んでたこともどうでも良くなる。でも、俺が笑えよって強制するのはなんか違う気がするから、言わない。布田はかけうどんにワカメのせて食った。俺はぶっかけの大に、とり天とまいたけ天とイカ天。車に戻って、発進しながらタバコに火をつける。隣を見れば、布田もタバコを取り出していた。
「やめたんじゃなかったっけ?」
「……やめるなんて言った?」
「いや、最近吸ってねぇなと思ってたから」
窓を半分開けて、再び車を走らせる。しばらく、無言で転がしていく。布田は灰皿にタバコを押し付けて終わらせると、シートを倒して寝る体勢に入る。
「え、寝んのお前」
「帰りは運転するから」
「いや、やめろ。ぜってぇ嫌!」
布田は手先が器用な癖に、運転は激下手だ。昔、任せたら俺の車思いっきり擦ったの許してねぇからな。布田はクスクス笑いながら、きっちりアイマスクをして。俺にヒラヒラと手を振って下ろす。
「マジかよまったく……」
俺はせめてもの抵抗に、ボリュームを上げてCDを流す。好きなロックバンドの3枚目のアルバム。なんか、3枚目のアルバムって名盤多い気がする。
(今から海行ってもなんも見えねぇだろ)
ということは、この逃避行は朝まで続くのか。車中泊かぁ、肩凝る。日帰り温泉も土曜だから混むだろうし。銭湯の検索でもしとくか。高速に乗って、2本目のタバコに火をつける。煙が窓の外に抜けていく。一瞬だけ目で追えば、今夜は満月だったらしい。
「月が綺麗ですよ布田くーん」
「あぁ?はいはい」
布田はまだ寝入ってなかったらしく、アイマスクを外して窓の外を見る。そっち側からは見えねぇよ。
「どれ?」
「車の右後ろ」
「あー」
俺が少し前屈みになり、布田はその隙間から覗き込むように月を見た。なにやら思った以上にずっと見ている。運転しづらい。
「おーい」
「雲で隠れちゃった」
満足したのか、布田はまた助手席に収まり寝転ぶ。俺は体勢を元に戻し、首を回した。CDは5番目のナンバーを流している。次のが1番好きな曲だな。長くて短い2人旅、気楽に気長に走らせますか。
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