布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

ちょっと距離置こう。そんな結論に至って初めての週末。部屋にいても、沈んでいくだけだ。散歩にでも行こう。なんかファミレスのクーポンをこの前貰った気がする。ハンズとか見たいし、少し大きい駅まで出るか。鞄にカッターマットと図面と筆箱入れて。あとは財布だけで出る。最寄りまで20分歩いて、電車に揺られて20分。駅前のファミレスに入る。
「いらっしゃいませ〜……あ?」
「げ」
栗平と目が合う。お互いに苦虫噛んだみたいな顔をする。
「エリアマネージャーじゃないの栗平は」
「バイトの子が急に2人お休みなんです〜わざわざ休日出勤してるの!」
いや、頬膨らましたって可愛くは……いや、こいつの場合様になってしまうから腹立つ。
「そうですか、大変ですね栗平くん」
「頑張ってる僕のために翔悟さん呼んでよ」
「嫌」
速攻で却下。2人して睨み合う。向こうでこいつを呼んでるバイトさんの声がする。俺は顎でさっさと案内しろとせっついた。栗平がため息を吐く。
「一名様、ご案内しまーす」
いらっしゃいませ〜とちらほら声が上がる。ファミレスはいつもより心なしか綺麗に感じる。2名がけの奥まった席に通される。
「よろしければこちらどうぞ」
「はいはい」
さっさと行けと手で追い払う。栗平は舌を出して応えたあと、ツカツカと離れていく。タブレットを見る。ポテトのクーポンがあるので入力して、ドリンクバーとセットにする。ドリンクを取りに立ち上がる。ドリンクの補充の途中だったので、突っ立って待つ。店内を見渡すと、嫌でも栗平が目につく。…………ただのファミレスの制服、あんなにスタイリッシュに着まわす奴いる?栗平は俺よりは小さいが背が高く、とんでもなく細くて手足が長い。顔まで綺麗ときていて、小顔で中性的なフェイス。女子高生がこそこそ栗平を指差した。それに気づいて、ファンサとばかりに笑顔で手を振っている。こいつ相当遊んでんだろうなぁ。本命がいるくせに。
(俺には関係ないけど)
ドリンクの補充が終わった。アイスティーを注いで席に戻る。カッターマットを出し、白い線で絵が描かれた黒い紙を乗せる。線に沿ってカッターを入れていく。喧騒が遠く聞こえ、1人の世界に入る。この時だけは、1人でも怖くない。
「いやファミレスで切り絵なんかするなよ」
頭上でそんな声が聞こえ、顔を上げると栗平がポテトを持ってきていた。
「お待たせしました、フライドポテトでございます」
「どうも」
栗平は一度やるなとは言うが、それ以降は注意してこない。下がらないので不思議に思い、顔を見ればにっこりと綺麗な弧を描き笑っている。綺麗すぎて怖い。
「こちら、サービスのバニラアイスです♡」
「いやファミレスにそんなサービスないだろ」
テーブルに置かれたバニラアイスを指差し、突っ込む。栗平は笑みを消すと、駄々をこねる子供の顔になる。
「もぉ〜いいから翔悟さん呼んでよ!やる気出ない!」
「出せよ仕事だろ」
「仕事だけど〜!翔悟さん来るなら倍やる気だすもん!」
男が軽く言っていいセリフじゃないだろ、もんて。なんで似合ってしまうんだろうか。栗平の美しさは浮世離れしている。それに免じることなんてないが。
「だから嫌だって」
「布田さんだって会いたいでしょ?意地張るなよ」
「いや別に意地は張ってないんだけど」
最終的に目を潤ませてじっとこちらを見つめる。居心地が悪すぎる。呼ばなければ、こいつはいつまでも仕事に戻らないだろう。はあ、とこれみよがしに息を吐く。栗平は期待に満ちた視線を寄越す。
「今日だけだからね」
「やったあ、布田さん素敵〜!」
「他のアルバイトの子が可哀想なだけだから。お前のためじゃない」
「ボク14時で切り上げるから、ここで待っててね!」
「おい聞いてるのか仕事しろ」
「仕事しまーす」
ちゃんと呼んでね、とばかりにウインクされる。まったく。本当にはた迷惑な奴だ。仕方なく柴崎にダイアルする。3コールで出た。
「もしもし?実はさ……」
夜までは退屈に殺されないで済みそうだ。栗平はついてくるけど。
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