布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

俺は黒川真二郎。黒川家の次男坊。T大学卒業後、実家のフランチャイズの釣具店で働いている(ちゃんと継ぐ予定)。3日後に28歳になる。特技は絵を描くこと、好きなのは物語に触れること。容姿は……そんなよくない。でも、悲観したりはしない。彼女はずっと募集中。
なんて語り出しじゃ、即落ちされてしまうか?脳内でずっとモノローグが流れるのは昔からの癖だ。文才は生憎なかったが、絵を描くので漫画はたまに描く。けれど、物語を生み出すよりは、読者や傍観者として触れている方が好きだ。物語に触れて、知らない衝動を知り、知らない感動を知り、知らない背景を考えるのが大好きだ。釣具屋の店番は、漫画読んだりしながら片手間に出来るので気に入っている。
「うーす、黒川」
「柴崎さん」
もう半袖っすか。季節感が1人だけ半年先だ。柴崎さんは、大学の先輩の友達、という関係性から始まった。オジキが釣りを趣味にしているので、俺の店によくおつかいにくる。2人のために船を出したりもする。
「遊ぼうぜ」
「今日親父いないんすよ」
「あれ?そうなんだ」
柴崎さんはレジカウンター奥の壁に貼り出されたカレンダーを見る。
「今日何日だっけ?」
「2月23日っすね」
「日曜?マジか、曜日の感覚なかったわ」
やっべーと柴崎さんはカラカラ笑う。柴崎さんはそうだな、伝説の英雄って感じだ。伝説はねぇけど。
「26日、誕生日じゃん。なんかお祝いすんぜ」
「ありがとうございます」
柴崎さんがタバコ吸いたそうだったので、レジ裏の小さなテーブルに灰皿を用意して。折り畳みの椅子を出してやる。
「一服していっていいですよ。週刊誌も最近整理したけど、6週分はジャンプサンデーマガジンチャンピオン積んであるんで」
「お、マジで。助かる」
柴崎さんはカウンターの内側に入ると、ギリギリ客からは見えない位置を陣取り、タバコに火をつけた。ちなみに、俺は吸わない。俺の連れだと、栗平が吸う。布田さんは吸ったり吸わなかったり。灰皿があるのは、親父と兄貴が吸うからだ。
「最近、なにが面白い?」
「カグラバチですかね、無難に」
「あれ面白いよなー」
柴崎さんはジャンプの一番古いバッグナンバーを開き、好きな順にバラバラ読んでいく。行ったり来たりめんどくさくねぇのかな。俺は頭からお尻まで、掲載順に全て読む。しばらく、静かな時間が流れる。俺はワールドトリガーの最新巻を読むために、今読み直しをしている。ちょうど今10巻。めちゃくちゃいいとこ。店の入り口のベルがカランと鳴る。顔を上げると常連さんだったので、挨拶して接客。いつもの釣り餌を買って返っていく。どこまで読んだっけ。ワールドトリガーに気を取られていると、着信音が流れてドキリとするが。でもすぐ、うちの店の電話じゃないことに気づいた。柴崎さんの携帯だ。柴崎さんはほぼ電車を使わないので、携帯のマナーモードを大体切っている。
「はい、もしもし?今黒川んとこで漫画読んでる」
「え?今からファミレスに来い?どこの?」
「うん、うん……まぁ、別にいいけど」
柴崎さんがチラッとこちら見るので、構わないという意図で頷いた。
「分かった、ぼちぼち行くわ。はい、あとでなー」
通話が切れた。柴崎さんはジャンプを閉じ、新しいタバコに火をつける。
「なんか、布田がファミレスにいるから来いって」
「ファミレスってことは多分栗平ですね」
「栗平だな。あいつ直接連絡寄越せばいいのに」
恥ずかしかったか、遠慮したか。なにか栗平の計算があるんだろう。布田さんに花を持たせたって可能性もあるな。あれこれ知らないところで繰り広げられる物語を想像する。
「これ吸ったら行くわ。あんがとな」
「いえ、栗平によろしく言っといてください」
まぁそんなことするほど会ってないわけじゃないが。柴崎さんは灰皿にタバコを押し付けると、じゃ!と笑顔で去っていった。英雄って感じだなぁ。本人にその自覚は一切なさそうなところが、完璧な太陽属性って感じ。うん。柴崎さん主人公のこの物語を、俺はずっと見ていたい。
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