布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
隣で夕香が起きる気配がして、意識が浮上する。ぬくもりが離れていくのがうら寂しくなり、手を伸ばす。触れる前に引っ込める。自分の額に手の甲を当てる。疲れが抜けきらず、まだ眠い。
「今日は渋谷に行きたい。限定のカフェがあるから〜」
夕香はベッドを揺らして降りると、起きてすぐにつらつらと喋り始める。頭がついていかない。眠い。渋谷?あんな混雑したとこに土曜の朝から行くのか……。
「分かった」
よく分からないけど、渋谷に行きたいってことは分かった。嫌だけども、言い出せずに終わる。のそりと起き上がる。だるさが身体を這っている。
渋谷のスクランブル交差点を、手を繋いで歩く。
「モディってどっち?」
「モディなら……多分こっち」
道を知らないわけでないが、考えながら歩くのは疲れる。人混みが多すぎるから、はぐれないように引き寄せて、手を強く握った。小さくて冷たい。冷たくても、肌に触れているのは好きだ。モディの手前で出店が出ていて、なにやらお菓子を売っている。つるつる!ふわふわ!新食感と書いてある。
(つるつるとふわふわって両立するのか?)
するか?するのか。なんとなく想像してみる。するかもしれないが、本当に実際の商品はつるつるふわふわなのか?そも、カタカナのがしっくりくるなんてことない?
「稔?」
「ごめん、なんでもない」
街中に蔓延るキャッチコピーが、ものすごく気になる。昔からそう。印象が良いものであれ悪いものであれ、語呂が悪かろうとよかろうと、実際の商品が本当に書いてある通りなのかにとても関心がある。ついつい、買って試してしまうこともしばしば。けれど、彼女に前からよく分からないと言われて渋い顔をされるから、出店は通り過ぎる。彼女の目的としていたカフェに着く。
(つるつるふわふわってなに?)
「稔、注文なにする?」
「あ、えっと……これで」
ひとつ気になるとずーっと引っかかってしまう。メニュー表をよく見ずに頼んでしまった。確認すると、唐辛子のマーク。辛い気分じゃないな……。
「今週は杉田さんどうだった?」
「……元気にしてたよ、変わらず」
ま、いいや。これが本当に1辛なのかを審議しよう。気持ちを切り替える。彼女と目を合わせたが、すぐ逸らした。女性の目を見るのは怖い。
「ほんと、飽きないよねぇ〜。おじいちゃんの相手退屈じゃない?」
「杉田さんじゃなくて俺が喋ってるから、退屈なんてことはないよ」
「そうなんだ?稔が喋るんだ」
含みのある声だなぁ。私とは話さないのにって言いたいんだろ。でも、夕香に話したいことなんてひとつもないよ。ただ、側にいて欲しいだけ。
「お料理、お待たせしました」
店員が料理を置いて、去っていく。パスタをフォークに巻き、口に入れる。うん、まぁ。平均的な1辛じゃないだろうか。黙々と食べる。なんとなく食欲がなくて、食べ切れる自信がなく。それを感じると、余計に食欲がなくなる。でも、残したくはないのでせっせと口に運ぶ。味はよく分からなくなった。
「このあと、どうする?」
「……なにも」
「いっつもそれじゃん。私とやりたいことないの?」
ない、って言ったら角が立つよなぁ。曖昧に笑い返す。けど、本当に共有したいものなんてないんだ。趣味も、友達も。一緒にいられて、ぬくもりがあればそれで。
「しょうがないなぁ。じゃあ買い物付き合って」
少し頭痛がすることも、人混みを歩くのが疲れることも、本当は別れた方がいいことも。全部言えない。言ったら、離れていくのだから。手に入ったぬくもりが消えることは、胸がつかえて居た堪れない。
「分かったよ」
手の平で夕香の頭を撫でる。まだ笑ってくれている。手の平が温かい。手放すことは、恐ろしくて出来ない。
「今日は渋谷に行きたい。限定のカフェがあるから〜」
夕香はベッドを揺らして降りると、起きてすぐにつらつらと喋り始める。頭がついていかない。眠い。渋谷?あんな混雑したとこに土曜の朝から行くのか……。
「分かった」
よく分からないけど、渋谷に行きたいってことは分かった。嫌だけども、言い出せずに終わる。のそりと起き上がる。だるさが身体を這っている。
渋谷のスクランブル交差点を、手を繋いで歩く。
「モディってどっち?」
「モディなら……多分こっち」
道を知らないわけでないが、考えながら歩くのは疲れる。人混みが多すぎるから、はぐれないように引き寄せて、手を強く握った。小さくて冷たい。冷たくても、肌に触れているのは好きだ。モディの手前で出店が出ていて、なにやらお菓子を売っている。つるつる!ふわふわ!新食感と書いてある。
(つるつるとふわふわって両立するのか?)
するか?するのか。なんとなく想像してみる。するかもしれないが、本当に実際の商品はつるつるふわふわなのか?そも、カタカナのがしっくりくるなんてことない?
「稔?」
「ごめん、なんでもない」
街中に蔓延るキャッチコピーが、ものすごく気になる。昔からそう。印象が良いものであれ悪いものであれ、語呂が悪かろうとよかろうと、実際の商品が本当に書いてある通りなのかにとても関心がある。ついつい、買って試してしまうこともしばしば。けれど、彼女に前からよく分からないと言われて渋い顔をされるから、出店は通り過ぎる。彼女の目的としていたカフェに着く。
(つるつるふわふわってなに?)
「稔、注文なにする?」
「あ、えっと……これで」
ひとつ気になるとずーっと引っかかってしまう。メニュー表をよく見ずに頼んでしまった。確認すると、唐辛子のマーク。辛い気分じゃないな……。
「今週は杉田さんどうだった?」
「……元気にしてたよ、変わらず」
ま、いいや。これが本当に1辛なのかを審議しよう。気持ちを切り替える。彼女と目を合わせたが、すぐ逸らした。女性の目を見るのは怖い。
「ほんと、飽きないよねぇ〜。おじいちゃんの相手退屈じゃない?」
「杉田さんじゃなくて俺が喋ってるから、退屈なんてことはないよ」
「そうなんだ?稔が喋るんだ」
含みのある声だなぁ。私とは話さないのにって言いたいんだろ。でも、夕香に話したいことなんてひとつもないよ。ただ、側にいて欲しいだけ。
「お料理、お待たせしました」
店員が料理を置いて、去っていく。パスタをフォークに巻き、口に入れる。うん、まぁ。平均的な1辛じゃないだろうか。黙々と食べる。なんとなく食欲がなくて、食べ切れる自信がなく。それを感じると、余計に食欲がなくなる。でも、残したくはないのでせっせと口に運ぶ。味はよく分からなくなった。
「このあと、どうする?」
「……なにも」
「いっつもそれじゃん。私とやりたいことないの?」
ない、って言ったら角が立つよなぁ。曖昧に笑い返す。けど、本当に共有したいものなんてないんだ。趣味も、友達も。一緒にいられて、ぬくもりがあればそれで。
「しょうがないなぁ。じゃあ買い物付き合って」
少し頭痛がすることも、人混みを歩くのが疲れることも、本当は別れた方がいいことも。全部言えない。言ったら、離れていくのだから。手に入ったぬくもりが消えることは、胸がつかえて居た堪れない。
「分かったよ」
手の平で夕香の頭を撫でる。まだ笑ってくれている。手の平が温かい。手放すことは、恐ろしくて出来ない。