布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
土曜日だ。平和だ。今のところイレギュラーな連絡もなく、予定の変更なし。穏やかな午後だ。ブラックコーヒーを飲みながら、参考書とノートを開いたところ。ふっと顔を上げると、テレビの後ろの壁を這う黒い触覚が見える。
「は!?ゴ、ゴキ……!?」
思い切りのけぞって、ベッドの縁に背中を強く打ちつける。痛いとか言っている場合ではない。緊急事態だ。ゴキブリから目を離さず、迷わずに柴崎に電話する。出ない。
「出ない!?」
なんであいつこういう時に限って出ないんだよ。なんで!!いつも勝手に俺の部屋に上がり込んでくつろぐ癖に。俺の予定狂わせてばっかりで、もう!!もう一度かける。出ない。
「ふ、布田」
気が引けるが、布田に電話する。解決にはならないが、避難所くらいにはなるはずだ。
「マジか……」
出ない。涙目になる。瞬きしているうちに見失った。最悪。どうする、どうする?俺は奴を殺せないんだぞ、戦えるわけねぇだろ。気持ち悪いじゃん!!
「唐木田……栗平……黒川……」
アドレス帳を読み上げる。いや、無理。後輩を頼るのは無理。恥ずかしい、情けない。恥辱に押し潰されて死ぬ。このままでも死ぬ。どうする。後輩ダメなら。
「松ヶ谷先輩……」
中学からの古い先輩にかける。出ない。
「ッの野郎!!」
世界から見放された気分だ。こうしてる間にも奴はかさかさ移動してる。無理、マジで無理。この部屋にはいられない。テーブルの上の本とノートを乱雑にリュックに突っ込み、後退りしながら部屋を出る。封印するつもりで鍵をかける。どうしよう、土日中に方を付けられなかったら。
「よし」
是が非でも柴崎を捕まえる。是が非でも。
とりあえず、柴崎の実家に来た。未だに実家暮らしだからなあいつ。親御さんと顔合わすの気まずいな……いや、昔からの顔馴染みではあるけれど。焦燥を悟られないようにしよう。今にも泣きそうだが。だって部屋にゴキ……が。まだ這っているのが頭を過るだけで寒気がする。ひとつ大きく息を吐き、インターフォンを押す。
「はい、どちら?」
「あっ、う国領です」
「あら、国領くん!」
扉の向こうでバタバタする気配がする。やがて、扉が開く。柴崎の母さんが、柔らかい笑みを湛えて出てくる。
「久しぶりね、どうかした?」
「あの、柴崎は」
「あの子部屋で寝てるわよ」
寝てやがる!あのバカ!叩き起こす、叩き起こして始末させる。
「ま、とりあえず上がんなさいな。多分、部屋上がっても構わないと思うから」
「お邪魔します」
まっすぐ迷わずに柴崎の部屋に向かう。部屋の扉を開け放して、掛け布団蹴飛ばして眠っている柴崎が目に入る。駆け寄って、思いっきり揺らす。
「柴崎!柴崎っ!」
「んあ?……ん、国領?」
寝ぼけた顔で目を擦っている。俺を認識すると大きく欠伸をした。
「どしたん?」
「ゴキが……部屋にゴキが……」
「あぁ」
柴崎は事情を察したようだが、寝返りを打ってまた寝ようとする。おい!!事の重要性!!
「起きろ、頼むから」
「ん〜……俺夜釣り明けでねみぃんだよ」
「言ってる場合か」
「あ、冷蔵庫に釣った魚あるから、なんか作って」
「作る!作るから!」
もう一度柴崎を揺する。もーと柴崎は抗議の声を出し、また寝返りを打ってこちらを向く。布団の上、少し俺側にスペースを空けて手で叩く。
「とりあえずちょい落ち着け。寝ろ」
「うぅ……」
力が抜け、言われるままに布団に寝転ぶ。疲れた。とりあえず退治の依頼は担保されたので、安心する。強烈な眠気がくる。
「うぅ……怖かった」
「はいはい」
柴崎がまた欠伸をして、思いっきりうつる。寝よう。疲労回復や精神的ショックには、睡眠がよく効く。さっさと意識を手放した。夢に出なきゃいいが……。
「は!?ゴ、ゴキ……!?」
思い切りのけぞって、ベッドの縁に背中を強く打ちつける。痛いとか言っている場合ではない。緊急事態だ。ゴキブリから目を離さず、迷わずに柴崎に電話する。出ない。
「出ない!?」
なんであいつこういう時に限って出ないんだよ。なんで!!いつも勝手に俺の部屋に上がり込んでくつろぐ癖に。俺の予定狂わせてばっかりで、もう!!もう一度かける。出ない。
「ふ、布田」
気が引けるが、布田に電話する。解決にはならないが、避難所くらいにはなるはずだ。
「マジか……」
出ない。涙目になる。瞬きしているうちに見失った。最悪。どうする、どうする?俺は奴を殺せないんだぞ、戦えるわけねぇだろ。気持ち悪いじゃん!!
「唐木田……栗平……黒川……」
アドレス帳を読み上げる。いや、無理。後輩を頼るのは無理。恥ずかしい、情けない。恥辱に押し潰されて死ぬ。このままでも死ぬ。どうする。後輩ダメなら。
「松ヶ谷先輩……」
中学からの古い先輩にかける。出ない。
「ッの野郎!!」
世界から見放された気分だ。こうしてる間にも奴はかさかさ移動してる。無理、マジで無理。この部屋にはいられない。テーブルの上の本とノートを乱雑にリュックに突っ込み、後退りしながら部屋を出る。封印するつもりで鍵をかける。どうしよう、土日中に方を付けられなかったら。
「よし」
是が非でも柴崎を捕まえる。是が非でも。
とりあえず、柴崎の実家に来た。未だに実家暮らしだからなあいつ。親御さんと顔合わすの気まずいな……いや、昔からの顔馴染みではあるけれど。焦燥を悟られないようにしよう。今にも泣きそうだが。だって部屋にゴキ……が。まだ這っているのが頭を過るだけで寒気がする。ひとつ大きく息を吐き、インターフォンを押す。
「はい、どちら?」
「あっ、う国領です」
「あら、国領くん!」
扉の向こうでバタバタする気配がする。やがて、扉が開く。柴崎の母さんが、柔らかい笑みを湛えて出てくる。
「久しぶりね、どうかした?」
「あの、柴崎は」
「あの子部屋で寝てるわよ」
寝てやがる!あのバカ!叩き起こす、叩き起こして始末させる。
「ま、とりあえず上がんなさいな。多分、部屋上がっても構わないと思うから」
「お邪魔します」
まっすぐ迷わずに柴崎の部屋に向かう。部屋の扉を開け放して、掛け布団蹴飛ばして眠っている柴崎が目に入る。駆け寄って、思いっきり揺らす。
「柴崎!柴崎っ!」
「んあ?……ん、国領?」
寝ぼけた顔で目を擦っている。俺を認識すると大きく欠伸をした。
「どしたん?」
「ゴキが……部屋にゴキが……」
「あぁ」
柴崎は事情を察したようだが、寝返りを打ってまた寝ようとする。おい!!事の重要性!!
「起きろ、頼むから」
「ん〜……俺夜釣り明けでねみぃんだよ」
「言ってる場合か」
「あ、冷蔵庫に釣った魚あるから、なんか作って」
「作る!作るから!」
もう一度柴崎を揺する。もーと柴崎は抗議の声を出し、また寝返りを打ってこちらを向く。布団の上、少し俺側にスペースを空けて手で叩く。
「とりあえずちょい落ち着け。寝ろ」
「うぅ……」
力が抜け、言われるままに布団に寝転ぶ。疲れた。とりあえず退治の依頼は担保されたので、安心する。強烈な眠気がくる。
「うぅ……怖かった」
「はいはい」
柴崎がまた欠伸をして、思いっきりうつる。寝よう。疲労回復や精神的ショックには、睡眠がよく効く。さっさと意識を手放した。夢に出なきゃいいが……。