布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
帰りたくねぇー……。迷わずにダイヤルする先は大体お前。だって暇してんだろ。
「おう、どうした」
「帰りたくないんだよね」
「帰った方がいいんじゃねぇのか?」
柴崎はタバコと酒で焼けた掠れた声で、そう言う。ひどく落ち着いていて、要領を得た喋り。実は柴崎は国領の前でしかはしゃがないことを、国領だけが知らない。
「夕香ちゃんいるだろうよ」
「いるから嫌」
「うん……まぁそんなことだろうとは思ってたけども」
柴崎が頭を掻いている気配がする。柴崎はいわゆる、ウルフカットってやつで髪の襟足がちょっと長い。俺と野球やってた頃は短髪だった。野球やめてから、伸ばすのを気に入っているらしい。
「うちは構わねーよ、来てもらっても」
「うん」
通話を終えて、家と反対方向の電車に乗る。そこそこ栄えた乗り換え駅で降りて、商店街を抜ける。飲み屋が立ち並んでいて、賑やかだ。それも5分も歩けば抜けて、大きな道路に沿ってまた5分ちょっと歩いて。3階建てのマンションの202号室に到着する。インターホンを押し、開けられる前にドアのノブを引く。開いてる。
「おう、お疲れ」
部屋の奥からハーフパンツとゆるいTシャツ姿の柴崎が顔を出す。ハーフパンツの柄はアロハ。こいつ本当にアロハ柄好きだな。夏は大体数々のアロハシャツ着てる。寒くなると格好がワンパターンになる。チェックとかの柄シャツも好きで、春秋は少し文系に見える。タバコも吸ってるしガラ悪いが、ピアスはしていない。
「ご両親は」
「まだ帰ってきてねぇ。先食っちまおうぜ」
柴崎家に軽く頭を下げてから、上がる。柴崎の両親は共働きで、帰りが2人共遅い。高校の頃から、なにかと家にあげてもらって世話になっている。柴崎は両親と仲が良さそうだ。
「今日はなにしてたの?」
「んー今日はオジキと昼食って、ちょい早めに上がって。ふらふらしてたら一雄さんの……あの、黒川の兄貴の奥さんに捕まって、お子さん預かって遊んでたな」
黒川っていうのは、国領の後輩だ元々は。なんというか、本当に人たらしだなこいつ。すぐに人と仲良くなる。国領とは反対ベクトルの人たらし。
「今5歳くらいなんだけどよー可愛かったわー」
楽しそうに笑みを浮かべて、幸せそうに話す。まぁ。柴崎といると楽しいんだよな。本人も幸せで、周りも幸せに出来る男だ。女に縁がないのは、多分本人が求めてないせいだと思う。実は必要としていないんだろう。
「カップ麺しかねぇけど、いいか?」
「お構いなく」
柴崎がポットでお湯を沸かす。作れる料理はカップ麺だけの男。鼻唄歌っている背中を、マジマジと見る。背は高くない、俺たちの中では1番低い。筋肉はかなりしっかりついている。特に鍛えてはなさそうなんだけど。30歳を迎えても衰えていない。柴崎がカップ麺を持ってくる。2人で食卓を囲む。柴崎がテレビをつける。いつもこうやって食べてるんだろう。流すだけで、特に見てはいないようだ。
「いただきます」
ちょっと早くないか。気持ち早めにカップ麺食うんだよな。少し遅れて、俺も口をつける。
「旅行に行きたいんだけど」
「いいね」
「4月になったら国領の誕生日だしなー」
人の誕生日をよく覚えている。知り合いが多いのに、間違えたり忘れたりってことはないようで。まぁ好かれるよな。大雑把そうで意外にマメだし、面倒見もよくて程よく人に甘えられる。人相も、まぁ悪くはない。俺ら3人の中では1番整ってるんじゃないか?
「なんだよ急に黙ってこっち見て」
「いや。なんでもない」
こいつはずっとこのまま生きていくんだろうか。柴崎が不安そうにしているとこは、見たことがない。俺なんかは、いつも不安で不安定で、国領はあんだけしっかりした職に就いているのに、いつまでも自己肯定感が低い。
「なんでもないよ」
置いていかれそうで怖くなるが。多分柴崎は置いていかないし、置いてもいけない。身軽そうに見えるが、たらし込みすぎて荷物は多い奴だから。
「おう、どうした」
「帰りたくないんだよね」
「帰った方がいいんじゃねぇのか?」
柴崎はタバコと酒で焼けた掠れた声で、そう言う。ひどく落ち着いていて、要領を得た喋り。実は柴崎は国領の前でしかはしゃがないことを、国領だけが知らない。
「夕香ちゃんいるだろうよ」
「いるから嫌」
「うん……まぁそんなことだろうとは思ってたけども」
柴崎が頭を掻いている気配がする。柴崎はいわゆる、ウルフカットってやつで髪の襟足がちょっと長い。俺と野球やってた頃は短髪だった。野球やめてから、伸ばすのを気に入っているらしい。
「うちは構わねーよ、来てもらっても」
「うん」
通話を終えて、家と反対方向の電車に乗る。そこそこ栄えた乗り換え駅で降りて、商店街を抜ける。飲み屋が立ち並んでいて、賑やかだ。それも5分も歩けば抜けて、大きな道路に沿ってまた5分ちょっと歩いて。3階建てのマンションの202号室に到着する。インターホンを押し、開けられる前にドアのノブを引く。開いてる。
「おう、お疲れ」
部屋の奥からハーフパンツとゆるいTシャツ姿の柴崎が顔を出す。ハーフパンツの柄はアロハ。こいつ本当にアロハ柄好きだな。夏は大体数々のアロハシャツ着てる。寒くなると格好がワンパターンになる。チェックとかの柄シャツも好きで、春秋は少し文系に見える。タバコも吸ってるしガラ悪いが、ピアスはしていない。
「ご両親は」
「まだ帰ってきてねぇ。先食っちまおうぜ」
柴崎家に軽く頭を下げてから、上がる。柴崎の両親は共働きで、帰りが2人共遅い。高校の頃から、なにかと家にあげてもらって世話になっている。柴崎は両親と仲が良さそうだ。
「今日はなにしてたの?」
「んー今日はオジキと昼食って、ちょい早めに上がって。ふらふらしてたら一雄さんの……あの、黒川の兄貴の奥さんに捕まって、お子さん預かって遊んでたな」
黒川っていうのは、国領の後輩だ元々は。なんというか、本当に人たらしだなこいつ。すぐに人と仲良くなる。国領とは反対ベクトルの人たらし。
「今5歳くらいなんだけどよー可愛かったわー」
楽しそうに笑みを浮かべて、幸せそうに話す。まぁ。柴崎といると楽しいんだよな。本人も幸せで、周りも幸せに出来る男だ。女に縁がないのは、多分本人が求めてないせいだと思う。実は必要としていないんだろう。
「カップ麺しかねぇけど、いいか?」
「お構いなく」
柴崎がポットでお湯を沸かす。作れる料理はカップ麺だけの男。鼻唄歌っている背中を、マジマジと見る。背は高くない、俺たちの中では1番低い。筋肉はかなりしっかりついている。特に鍛えてはなさそうなんだけど。30歳を迎えても衰えていない。柴崎がカップ麺を持ってくる。2人で食卓を囲む。柴崎がテレビをつける。いつもこうやって食べてるんだろう。流すだけで、特に見てはいないようだ。
「いただきます」
ちょっと早くないか。気持ち早めにカップ麺食うんだよな。少し遅れて、俺も口をつける。
「旅行に行きたいんだけど」
「いいね」
「4月になったら国領の誕生日だしなー」
人の誕生日をよく覚えている。知り合いが多いのに、間違えたり忘れたりってことはないようで。まぁ好かれるよな。大雑把そうで意外にマメだし、面倒見もよくて程よく人に甘えられる。人相も、まぁ悪くはない。俺ら3人の中では1番整ってるんじゃないか?
「なんだよ急に黙ってこっち見て」
「いや。なんでもない」
こいつはずっとこのまま生きていくんだろうか。柴崎が不安そうにしているとこは、見たことがない。俺なんかは、いつも不安で不安定で、国領はあんだけしっかりした職に就いているのに、いつまでも自己肯定感が低い。
「なんでもないよ」
置いていかれそうで怖くなるが。多分柴崎は置いていかないし、置いてもいけない。身軽そうに見えるが、たらし込みすぎて荷物は多い奴だから。