布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

『部屋が片付けられなくて夕香に怒られた。手伝って』
日曜日の夜、布田からそんな連絡が来る。部屋片付けられなくて怒られるの、何度目だよ。そこまで酷くもない気はするんだけど、彼女さんが綺麗好きらしい。
『いいけど、次の週末になるぞ?』
『構わない』
じゃあ、と次の土曜日の午前中から伺うことになった。明日からまた1週間が始まる、週末に予定もある。気合い入れねぇと。メガネを外し、消灯する。柴崎が弄っていたラケットの置き方が気に入らず、直した。

1週間をそつなくこなし、土曜日。布田の住んでいるアパートに向かう。古い団地の、4階403号室。エレベーターがない。毎度思うが、かなり嫌。本人も部屋から出る気がなくなると言っていた。インターホンを押すと、いつも通り確認もせず出る。
「確認しろって」
「構わないでしょ」
あがって、と布田は部屋に引っ込む。布田の声は、柔らかく甘い感じがする。顔は俺たちと変わらず普通な気がするが。声なんじゃないか、モテる要素って。リビングに上がると、布田は叱られた子犬のような顔をした。散らかっている。
「片そうと思えば思うほど、しんどくなって荒れちゃってね……」
「……まぁ。そういうこともあんだろ」
リュックを適当に置かせてもらい、とりあえずゴミ拾いをする。布田も俺を真似て部屋を動くが、ここは布田には窮屈そうだ。身長もあるし、肩幅もしっかりしている。スポーツをやれば化けそうなもんなのに、意外に俺よりも運動神経がない(柴崎はバケモン)。
「服はどうする?洗濯するのか?」
「しようかな……」
床に散らばった服をまとめて、洗濯機に放り込む。シンプルなデザインで、柔らかい色合いの物が多い。洗濯機って家によって全然違くて分からん。布田はジェルボール状の洗剤と、柔軟剤も加えて回していた。
「これはいつから洗ってないんだよ……」
「えーと、多分木曜……」
2日分か。シンクの中の食器を手早く洗っていく。布田はちゃんと自炊出来るんだけどな。片付けがな、苦手なんだよな。洗い終えて振り向くと、酷く申し訳なさそうな顔で俺を見下ろしている。でけぇ。
「ごめん、ありがとう」
「おう。休憩するか」
「お昼、ごちそうする」
布田は高そうな長財布を、ズボンの後ろポケットに突っ込む。いつも思うんだが、みんなこれ不安にならないんだろうか。抜き取られそうで怖いが。
「なに食べたい?」
「うーん昼から焼肉とか?」
「贅沢でいいね」
ちょっとわがままを言ってみた。2人で焼肉屋に向かう。布田は身長のわりに歩くのが遅いので、俺はペースを落として歩く。布田が立ち止まる。
「こっちじゃないかも」
「……なんも考えず歩いてたのか?」
「うん」
布田は来た道を戻り、手前の角を曲がった。布田は営業職のクセに、仕事以外の時はまったく道を見ていないし、覚えもしない。オンオフが出来ているのかと言われれば、そうでもなさそうに見える。
「あった」
辺りに肉の焼ける煙が漂っている。無事に到着した。席に座り、メニューを見る。やべ、そこそこするとこじゃねぇか。布田の顔を見る。布田は俺の心中を察したのか、軽く笑って見せる。
「いいよ、好きなの食べて」
「そ、そうか?」
「うん。俺もお腹空いたし」
上カルビ4人前、上ハラミ4人前、タン塩1人前、ライス大2つ、ビールとカシスオレンジ。頼んで、運ばれるのを待つ。今日は食べる日なんだな。
「乾杯」
ジョッキを煽る。昼から飲むビールはなぜ美味いのか。トングで網に肉を並べていく。俺が焼くのを黙って見ている。
「柴崎が聞いたら怒るだろな……」
「国領には怒るだろうね」
「黙っとくか」
内緒の贅沢ランチだ。堪能しよう。遠慮なく肉と米を頬張った。
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