オリキャラが絡む話
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『受験勉強めんどくせぇ。カラオケ付き合え』
体調が悪くて寝込んでいた。そろそろ起きねばと思い、携帯で時間を確認したついで。漆間から連絡が来ていて、眉を顰めた。どうしよっかな。私もカラオケには行きたい気がする。動くのは怠い。漆間は本当に受験勉強大丈夫なのか。まぁ、漆間が決めたことなら止めないけれど。
『体調悪くて、今まで寝てたんだよ』
『おう、じゃあ14時からな』
『しんどいわ。せめて15時』
半ば強引に予定を固められる。いつものことではある。安心もする。毎日、他人に気を遣って遣われてなので。漆間にお互い遠慮なんてないし、漆間が自由奔放に振舞ってくれることで救われる心の隙間がある。
『よし、15時な。バンバン前でいいか?』
『いいよ』
簡素な返信だけして、起き上がる。とりあえず朝兼昼ご飯。なんとか昨日、シャワーだけ浴びておいてよかった。母が作っていってくれた麻婆豆腐を、食べ逃すことがなくてよかった。お腹を満たし、服に着替える。いい加減な組み合わせ。ジーンズに適当な長袖のTシャツ、髪はぼさぼさのままキャスケット帽を被る。遅くなったら肌寒いかもしれない。薄手のカーディガンを鞄に入れて。歌いに行くだけだけど、なにか思いつくかもしれないからフレーズ帳と作詞ノートだけ持って。お金は多めに持って。二度寝したら起きられないだろうから、早めに出かける。適当にどこかフラついていよう。
「おう、顔色悪りぃな」
「まぁ、ちょっと体調悪いかな」
私のため息に、漆間は言葉なく背中を叩く。それだけしかしない。そのままカラオケの受付へ向かう。勝手にフリータイムで、と伝えている。20時まで歌えるかな……。
「腹減ったらおにぎり権兵衛でも買ってこようぜ」
「はいはい、分かった」
漆間は歌う気満々のようで、ドリンクバーで烏龍茶を私の分まで注いで、塞がった両手で私にドアを開けろと指図する。いつものこと。お互い、烏龍茶しか飲まないし。私がドアを開けると、漆間は奥に座った。L字に配置された椅子の、液晶の真向かいに私は座る。
「韻派句徒、歌ってくれよ」
「いきなり!?嫌だよ」
「あそ。じゃあ後でもいい」
「はい〜」
漆間はよく私にリクエストをくれる。気分が乗れば歌う。新しい音楽も教えてくれる。私も音楽は好きだが、それよりもずっと彼の方が音楽が好きだと断言出来る。悔しくもならない。音楽はきっと、漆間の心臓だった。
「早く歌え」
「ちょっと待ってくださいよ先生……」
どんな大勢の前で歌うのだって大して緊張などしないが、漆間の前で歌うのは少し緊張感がある。漆間は脚を組み、腕も組み、私をプロデューサーのように見る。堪忍して、選曲をする。米津玄師のLemonを入れる。歌いやすいバラードだが、日和ったわけではない。真剣勝負なだけ。漆間はタイトルを確認した後は、目を閉じて音に集中する。私は息を吸う。吸う音をマイクに拾わせて、雰囲気を作ってから歌う。丁寧に、動的に、明確な意思を持って。
「〜♪」
感情が込もりすぎて、泣きそうになりながら歌う。歌い終える。マイクを置けば、漆間が軽く拍手をする。お互い目は合わせずに、会話する。
「いいじゃん、寝起きのわりには」
「ここ最近、声出してなかった」
「ま、サボらずに毎日ってのはキツイからな」
「うん……なんか、いろいろあってさ」
「弓場?迅ってやつ?」
「どっちも?」
「やめちまえもう」
漆間はいとも簡単にそう述べて、烏龍茶を飲みながらデンモクを見ている。
「そういうわけには……」
「別にな、お前が見捨てたって死にゃしねぇよ誰も」
「見捨てられるのは私では」
「歌はお前を見捨てねぇだろ」
漆間の顔を見た。少し怒っているような、ムスッとした顔。苛立っている。なにに苛立っているのかを、私は知っている。好きなものへの情熱を想う時、人は時に刺々しくなる。漆間は、私に歌えと言うのだろう。
「歌も、小説も。お前が好きなもんは全部、お前を見捨てねぇだろうが」
「……うん」
「それ以上に大事なもんなんかあるか?」
漆間は、そうなんだろう。私もそうありたい。ありたいが、好きなものが多すぎて見放されてしまいそうだ。頷くのを躊躇していると、漆間は選曲を決めて送信した。
「世界分の一、貫けよ」
漆間が好きなアニメの、挿入歌の引用だとすぐ分かった。オルフェの前奏の間、漆間は私と目を合わせ立ち上がり。
「全部全部、歌に乗せろ。お前の経験感情の全部」
そうでないと許さないとでも言うような、真っ直ぐな視線に射抜かれる。漆間が歌い出す。腹の底から声を出して、楽しそうに。歌が上手い奴とのカラオケは楽しい。歌が好きな、音楽が好きな奴とのカラオケは楽しい。楽しもう、今は。世界は今、夜明けを待っている。暁を始めるのは、自らの意志だ。
「……お前が心の底から音楽が嫌になって、やめたいなら止めねぇ」
漆間は歌い終わって、少しだけ落ち着いた、気遣う視線を向ける。
「俺は小林に歌うことを強制したくはねぇから」
「うん」
「けど、くだらねぇ理由でお前の歌が濁るのは許せん」
「はい」
「とりあえず、歌え。歌って、忘れようぜ」
漆間はニッと笑った。私も笑い返した。元気が出てくる。世界にひとりぼっちになったとしても、音楽は側にいてくれるだろう。そして私が音を奏でる限り、漆間は付き合ってくれるんだろう。今はそれでいい。それだけでいいと、思える。その一瞬を音に乗せて、歌っていたい。20時までなんて、あっという間のはずだ。
体調が悪くて寝込んでいた。そろそろ起きねばと思い、携帯で時間を確認したついで。漆間から連絡が来ていて、眉を顰めた。どうしよっかな。私もカラオケには行きたい気がする。動くのは怠い。漆間は本当に受験勉強大丈夫なのか。まぁ、漆間が決めたことなら止めないけれど。
『体調悪くて、今まで寝てたんだよ』
『おう、じゃあ14時からな』
『しんどいわ。せめて15時』
半ば強引に予定を固められる。いつものことではある。安心もする。毎日、他人に気を遣って遣われてなので。漆間にお互い遠慮なんてないし、漆間が自由奔放に振舞ってくれることで救われる心の隙間がある。
『よし、15時な。バンバン前でいいか?』
『いいよ』
簡素な返信だけして、起き上がる。とりあえず朝兼昼ご飯。なんとか昨日、シャワーだけ浴びておいてよかった。母が作っていってくれた麻婆豆腐を、食べ逃すことがなくてよかった。お腹を満たし、服に着替える。いい加減な組み合わせ。ジーンズに適当な長袖のTシャツ、髪はぼさぼさのままキャスケット帽を被る。遅くなったら肌寒いかもしれない。薄手のカーディガンを鞄に入れて。歌いに行くだけだけど、なにか思いつくかもしれないからフレーズ帳と作詞ノートだけ持って。お金は多めに持って。二度寝したら起きられないだろうから、早めに出かける。適当にどこかフラついていよう。
「おう、顔色悪りぃな」
「まぁ、ちょっと体調悪いかな」
私のため息に、漆間は言葉なく背中を叩く。それだけしかしない。そのままカラオケの受付へ向かう。勝手にフリータイムで、と伝えている。20時まで歌えるかな……。
「腹減ったらおにぎり権兵衛でも買ってこようぜ」
「はいはい、分かった」
漆間は歌う気満々のようで、ドリンクバーで烏龍茶を私の分まで注いで、塞がった両手で私にドアを開けろと指図する。いつものこと。お互い、烏龍茶しか飲まないし。私がドアを開けると、漆間は奥に座った。L字に配置された椅子の、液晶の真向かいに私は座る。
「韻派句徒、歌ってくれよ」
「いきなり!?嫌だよ」
「あそ。じゃあ後でもいい」
「はい〜」
漆間はよく私にリクエストをくれる。気分が乗れば歌う。新しい音楽も教えてくれる。私も音楽は好きだが、それよりもずっと彼の方が音楽が好きだと断言出来る。悔しくもならない。音楽はきっと、漆間の心臓だった。
「早く歌え」
「ちょっと待ってくださいよ先生……」
どんな大勢の前で歌うのだって大して緊張などしないが、漆間の前で歌うのは少し緊張感がある。漆間は脚を組み、腕も組み、私をプロデューサーのように見る。堪忍して、選曲をする。米津玄師のLemonを入れる。歌いやすいバラードだが、日和ったわけではない。真剣勝負なだけ。漆間はタイトルを確認した後は、目を閉じて音に集中する。私は息を吸う。吸う音をマイクに拾わせて、雰囲気を作ってから歌う。丁寧に、動的に、明確な意思を持って。
「〜♪」
感情が込もりすぎて、泣きそうになりながら歌う。歌い終える。マイクを置けば、漆間が軽く拍手をする。お互い目は合わせずに、会話する。
「いいじゃん、寝起きのわりには」
「ここ最近、声出してなかった」
「ま、サボらずに毎日ってのはキツイからな」
「うん……なんか、いろいろあってさ」
「弓場?迅ってやつ?」
「どっちも?」
「やめちまえもう」
漆間はいとも簡単にそう述べて、烏龍茶を飲みながらデンモクを見ている。
「そういうわけには……」
「別にな、お前が見捨てたって死にゃしねぇよ誰も」
「見捨てられるのは私では」
「歌はお前を見捨てねぇだろ」
漆間の顔を見た。少し怒っているような、ムスッとした顔。苛立っている。なにに苛立っているのかを、私は知っている。好きなものへの情熱を想う時、人は時に刺々しくなる。漆間は、私に歌えと言うのだろう。
「歌も、小説も。お前が好きなもんは全部、お前を見捨てねぇだろうが」
「……うん」
「それ以上に大事なもんなんかあるか?」
漆間は、そうなんだろう。私もそうありたい。ありたいが、好きなものが多すぎて見放されてしまいそうだ。頷くのを躊躇していると、漆間は選曲を決めて送信した。
「世界分の一、貫けよ」
漆間が好きなアニメの、挿入歌の引用だとすぐ分かった。オルフェの前奏の間、漆間は私と目を合わせ立ち上がり。
「全部全部、歌に乗せろ。お前の経験感情の全部」
そうでないと許さないとでも言うような、真っ直ぐな視線に射抜かれる。漆間が歌い出す。腹の底から声を出して、楽しそうに。歌が上手い奴とのカラオケは楽しい。歌が好きな、音楽が好きな奴とのカラオケは楽しい。楽しもう、今は。世界は今、夜明けを待っている。暁を始めるのは、自らの意志だ。
「……お前が心の底から音楽が嫌になって、やめたいなら止めねぇ」
漆間は歌い終わって、少しだけ落ち着いた、気遣う視線を向ける。
「俺は小林に歌うことを強制したくはねぇから」
「うん」
「けど、くだらねぇ理由でお前の歌が濁るのは許せん」
「はい」
「とりあえず、歌え。歌って、忘れようぜ」
漆間はニッと笑った。私も笑い返した。元気が出てくる。世界にひとりぼっちになったとしても、音楽は側にいてくれるだろう。そして私が音を奏でる限り、漆間は付き合ってくれるんだろう。今はそれでいい。それだけでいいと、思える。その一瞬を音に乗せて、歌っていたい。20時までなんて、あっという間のはずだ。
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