弓場と迅の話
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花を咲かすのは苦手なんだ。無心で掃除をしていたら、ベランダで青い植木鉢を見つけた。小学生の頃、課題でアサガオを育てたやつ。確か俺は枯らして蔓だけにしたんだよな。
(莉子は上手に咲かせてたよな)
また莉子を思い出す。憂鬱になる前に掃除に集中したが、なにをしてもついてまわるのは。
『怒ってるから、俺の部屋に来てくれ』
そう連絡したのは事件の3日後、俺がそのことを知ってすぐだった。莉子が迅と午前様で帰宅したらしい。高校生の女の子になにしてんだあいつと嫌悪感があったし、ついていった莉子にも怒りと不安が湧いた。そのことを俺に話さなかったのにも、どうしようもなくやりきれない気持ちになった。迅と仲がいいのは知ってる、それだって嫌だったけど、莉子が楽しそうにあいつのことを話して、あいつを大切にしてるのも知ってたから。なにも言わないでいたのに。
『分かった。今から行くね。ごめんなさい』
夏休みだし、俺の部屋に灯りがついてたからそう連絡寄越したんだろう。こんなに近くにいるのに。謝るってことは心当たりがあるってことで、黙ってやり過ごそうとされたのに裏切られた気分になる。まだいつもみたいに能天気に、首を傾げてくれた方がよかった。
ピンポーン
インターホンが鳴る。それでも、怒られると分かっていてちゃんと来てくれることに、莉子の誠実さを感じるし、自分達には固い絆があると信じられる。玄関を開けた。不安そうに俯く君を見て、簡単に絆されてしまいそうになる。
「ごめんなさい、怒らないで」
全部全部、許して見ないふりをしたくなる。けど、そのままにしておくには問題がデカすぎる。あいつに傷つけられたくないし、莉子が黙って遠くに行くなんて耐えられない。なにも言わずに、部屋に通した。莉子はいつも通りベッドの縁にちょこんと座る。沈黙が流れる。ため息をひとつ溢して、切り出した。
「迅とどこ行ってた」
「電車の、終点」
「行ってなにしてた」
「なにもしてない」
「……なにもしてなくて、日付跨ぐわけねぇだろうが!」
莉子が肩を揺らす。自分で言ってて、嫌な可能性が頭を掠めて怒りがふつふつと沸いてくる。
「なに考えてんだ?なぁ、おかしいだろどう考えても」
「別におかしいことしてない」
「おかしいだろ!自分がどんだけ危ないことしたか分かってるか?」
「迅といたもん」
「だから!それが危ねぇだろって言ってんだよ!」
莉子は縮こまって、膝を抱えた。膝を抱えて、迅は危なくないもんと、小さく溢した。許せるわけなかった。あんな奴のとこに行くなよ。
「迅だけじゃねぇ、お前は男と距離が近すぎる!もっと警戒しろ!」
「別に、別に拓磨にそんなこと言われる筋合い、ない!付き合ってるわけじゃ、ないじゃん!」
「はぁ!?」
なんだよそれ。俺が今までどんな思いで。
「じゃあ!!俺と付き合え、付き合ってくれ!!」
「嫌だっ!!」
ハッと我に帰って、目の前が暗転するようだった。バレた、俺の気持ちが。こんなダセェ形で。しかもはっきりと拒絶された。死にたい、殺してくれ。莉子がすすり泣く声がする。また、また泣かせた。後悔と罪悪感でいっぱいになる。血の気が引いて、こんなはずじゃなかったのに。
「悪い、忘れてくれ……」
頼むから。なにもなかったことにしたい。なにも言わずに部屋を出ていってくれ。でも、莉子はずっとそこに座ったまま。また少し怒りがぶり返す。分かってくれよ、なぁ。
「帰ってくれ」
そんなこと言いたくない、いつまでだって側にいたいのに。けど今は辛すぎて、見ていられない。莉子は静かに出ていった。もう2度と会えないんじゃないかって恐怖が張りつく。何も考えられなくなった。
それから一週間、抜け殻のように過ごしていた。食事の味もしないし、よく眠れていない。倒れて参ってしまいそうだ、そしたら莉子が。いや、そんなこともう考える必要もないのか?必要ないのか、俺。泣き出してしまいそうになって、天井を仰ぐ。壊れてしまった初恋の、修復法が見つからない。4年も温めていても、崩れ去るのはこんなにあっけないのか。儚すぎないか。結局莉子にとって、俺ってなんだったんだ。
(好きだなぁ)
今でも変わらず。俺だけだったんだろうか。まぁそうだよな。所詮、一回手放した男だよ。けど、嫌でも思い返す莉子は全部可愛くて。俺だけだったとは、信じられなくて。
(だめだ。もうよそう)
考えるのをやめたくて、家中の掃除を始めてみた。どこもかしこも莉子の面影が隠れていて、あまり意味はなかったけど。気付けば日が暮れて、寝る準備をぼんやりしていた。
『今から、散歩行かない?』
莉子から連絡が来て、心臓が止まる。今から?時刻は23時をとっくに過ぎている。あいつ俺の言ったことなんも分かってねぇ。今会ったら、俺はあいつとおんなじだ。分かってる。そんなの分かってるけど。
『行く』
考えるより先に、返事を出していた。寝巻きからもう一度着替える。多分。いつも20時頃に散歩に行くことはあったから、その時間から考えてて言い出せなくて、この時間になっちまったんじゃ。莉子も一週間、俺を忘れずにいてくれたのでは。一欠片の希望が膨らんでいく。玄関を開けたら、あまりにも無防備で薄着の莉子がいて。なんも分かってねぇ。けど、どうしようもなく愛しくて、胸が鳴き出す。
「こんばんは」
「…………こんばんは」
莉子は手を挙げて挨拶する。無理して笑ってるのくらい、分かる。だってずっと見てきたから。莉子がふらふらと歩き出す。一瞬戸惑って、横に並んだ。それだけでからっぽの心が満たされていく。
「あの、怒ってごめんなさい」
「…………あぁ」
曖昧な返事。怒鳴ったことなんてなんとも思ってない。そんなことより。でも、問い詰めるなんて怖くて出来ない。このまま有耶無耶でもいいから、隣にいたい。
「…………嫌いに、なった?」
「そんなわけ、……」
ここで折れたら、俺の気持ちは踏み躙られたままだし、恋心は筒抜けになる。このままを延長して、莉子は幸せになれるのか?でも、そんなこと分かってるけど。
「そんなわけねぇだろ」
俺が莉子の隣にいれることを優先した。お前を失って生きていくなんて無理だ。
「私、拓磨が好きだけど、迅のことも好き」
「…………うん」
「みんなと一緒にいたい」
わ、がままだなぁ。八方美人。浮気者。たくさん悪口は浮かぶけど、俺はそんなこと言える立場ではなくて。莉子が大好きなみんなの、1人でしかない。それでもいいと思える。それじゃ我慢出来ないと心が叫ぶ。
「分かっ、た」
今はそれしか言えない。とりあえずの仲直り。本当は俺も謝るべきだが、勇気なんてこれっぽっちも出ない。
「一週間、しんどかった!」
莉子が安心した顔で伸びをする。ずるい。ずるいずるいずるい。一方的に話を終わらせて。そんな嬉しそうな顔で笑って。ずるいだろ、なんだって俺ばっかりこんなに好きになっちまったんだ。
「……俺も」
気付かれないくらい小さな声で、ぽつりと。俺も好きになってもらいたい。ちゃんと幸せにするから、俺を選んでくれ。けど、選んでもらうには、もう少し時間も準備も必要みたいで。別に構わない、ここまできたら。もう絶対に諦めないからな。覚悟しておけよ。どんなに夜が長くても、辛抱強く朝を待って咲かせてみせるから。もう二度と枯れない、綺麗な花を。
(莉子は上手に咲かせてたよな)
また莉子を思い出す。憂鬱になる前に掃除に集中したが、なにをしてもついてまわるのは。
『怒ってるから、俺の部屋に来てくれ』
そう連絡したのは事件の3日後、俺がそのことを知ってすぐだった。莉子が迅と午前様で帰宅したらしい。高校生の女の子になにしてんだあいつと嫌悪感があったし、ついていった莉子にも怒りと不安が湧いた。そのことを俺に話さなかったのにも、どうしようもなくやりきれない気持ちになった。迅と仲がいいのは知ってる、それだって嫌だったけど、莉子が楽しそうにあいつのことを話して、あいつを大切にしてるのも知ってたから。なにも言わないでいたのに。
『分かった。今から行くね。ごめんなさい』
夏休みだし、俺の部屋に灯りがついてたからそう連絡寄越したんだろう。こんなに近くにいるのに。謝るってことは心当たりがあるってことで、黙ってやり過ごそうとされたのに裏切られた気分になる。まだいつもみたいに能天気に、首を傾げてくれた方がよかった。
ピンポーン
インターホンが鳴る。それでも、怒られると分かっていてちゃんと来てくれることに、莉子の誠実さを感じるし、自分達には固い絆があると信じられる。玄関を開けた。不安そうに俯く君を見て、簡単に絆されてしまいそうになる。
「ごめんなさい、怒らないで」
全部全部、許して見ないふりをしたくなる。けど、そのままにしておくには問題がデカすぎる。あいつに傷つけられたくないし、莉子が黙って遠くに行くなんて耐えられない。なにも言わずに、部屋に通した。莉子はいつも通りベッドの縁にちょこんと座る。沈黙が流れる。ため息をひとつ溢して、切り出した。
「迅とどこ行ってた」
「電車の、終点」
「行ってなにしてた」
「なにもしてない」
「……なにもしてなくて、日付跨ぐわけねぇだろうが!」
莉子が肩を揺らす。自分で言ってて、嫌な可能性が頭を掠めて怒りがふつふつと沸いてくる。
「なに考えてんだ?なぁ、おかしいだろどう考えても」
「別におかしいことしてない」
「おかしいだろ!自分がどんだけ危ないことしたか分かってるか?」
「迅といたもん」
「だから!それが危ねぇだろって言ってんだよ!」
莉子は縮こまって、膝を抱えた。膝を抱えて、迅は危なくないもんと、小さく溢した。許せるわけなかった。あんな奴のとこに行くなよ。
「迅だけじゃねぇ、お前は男と距離が近すぎる!もっと警戒しろ!」
「別に、別に拓磨にそんなこと言われる筋合い、ない!付き合ってるわけじゃ、ないじゃん!」
「はぁ!?」
なんだよそれ。俺が今までどんな思いで。
「じゃあ!!俺と付き合え、付き合ってくれ!!」
「嫌だっ!!」
ハッと我に帰って、目の前が暗転するようだった。バレた、俺の気持ちが。こんなダセェ形で。しかもはっきりと拒絶された。死にたい、殺してくれ。莉子がすすり泣く声がする。また、また泣かせた。後悔と罪悪感でいっぱいになる。血の気が引いて、こんなはずじゃなかったのに。
「悪い、忘れてくれ……」
頼むから。なにもなかったことにしたい。なにも言わずに部屋を出ていってくれ。でも、莉子はずっとそこに座ったまま。また少し怒りがぶり返す。分かってくれよ、なぁ。
「帰ってくれ」
そんなこと言いたくない、いつまでだって側にいたいのに。けど今は辛すぎて、見ていられない。莉子は静かに出ていった。もう2度と会えないんじゃないかって恐怖が張りつく。何も考えられなくなった。
それから一週間、抜け殻のように過ごしていた。食事の味もしないし、よく眠れていない。倒れて参ってしまいそうだ、そしたら莉子が。いや、そんなこともう考える必要もないのか?必要ないのか、俺。泣き出してしまいそうになって、天井を仰ぐ。壊れてしまった初恋の、修復法が見つからない。4年も温めていても、崩れ去るのはこんなにあっけないのか。儚すぎないか。結局莉子にとって、俺ってなんだったんだ。
(好きだなぁ)
今でも変わらず。俺だけだったんだろうか。まぁそうだよな。所詮、一回手放した男だよ。けど、嫌でも思い返す莉子は全部可愛くて。俺だけだったとは、信じられなくて。
(だめだ。もうよそう)
考えるのをやめたくて、家中の掃除を始めてみた。どこもかしこも莉子の面影が隠れていて、あまり意味はなかったけど。気付けば日が暮れて、寝る準備をぼんやりしていた。
『今から、散歩行かない?』
莉子から連絡が来て、心臓が止まる。今から?時刻は23時をとっくに過ぎている。あいつ俺の言ったことなんも分かってねぇ。今会ったら、俺はあいつとおんなじだ。分かってる。そんなの分かってるけど。
『行く』
考えるより先に、返事を出していた。寝巻きからもう一度着替える。多分。いつも20時頃に散歩に行くことはあったから、その時間から考えてて言い出せなくて、この時間になっちまったんじゃ。莉子も一週間、俺を忘れずにいてくれたのでは。一欠片の希望が膨らんでいく。玄関を開けたら、あまりにも無防備で薄着の莉子がいて。なんも分かってねぇ。けど、どうしようもなく愛しくて、胸が鳴き出す。
「こんばんは」
「…………こんばんは」
莉子は手を挙げて挨拶する。無理して笑ってるのくらい、分かる。だってずっと見てきたから。莉子がふらふらと歩き出す。一瞬戸惑って、横に並んだ。それだけでからっぽの心が満たされていく。
「あの、怒ってごめんなさい」
「…………あぁ」
曖昧な返事。怒鳴ったことなんてなんとも思ってない。そんなことより。でも、問い詰めるなんて怖くて出来ない。このまま有耶無耶でもいいから、隣にいたい。
「…………嫌いに、なった?」
「そんなわけ、……」
ここで折れたら、俺の気持ちは踏み躙られたままだし、恋心は筒抜けになる。このままを延長して、莉子は幸せになれるのか?でも、そんなこと分かってるけど。
「そんなわけねぇだろ」
俺が莉子の隣にいれることを優先した。お前を失って生きていくなんて無理だ。
「私、拓磨が好きだけど、迅のことも好き」
「…………うん」
「みんなと一緒にいたい」
わ、がままだなぁ。八方美人。浮気者。たくさん悪口は浮かぶけど、俺はそんなこと言える立場ではなくて。莉子が大好きなみんなの、1人でしかない。それでもいいと思える。それじゃ我慢出来ないと心が叫ぶ。
「分かっ、た」
今はそれしか言えない。とりあえずの仲直り。本当は俺も謝るべきだが、勇気なんてこれっぽっちも出ない。
「一週間、しんどかった!」
莉子が安心した顔で伸びをする。ずるい。ずるいずるいずるい。一方的に話を終わらせて。そんな嬉しそうな顔で笑って。ずるいだろ、なんだって俺ばっかりこんなに好きになっちまったんだ。
「……俺も」
気付かれないくらい小さな声で、ぽつりと。俺も好きになってもらいたい。ちゃんと幸せにするから、俺を選んでくれ。けど、選んでもらうには、もう少し時間も準備も必要みたいで。別に構わない、ここまできたら。もう絶対に諦めないからな。覚悟しておけよ。どんなに夜が長くても、辛抱強く朝を待って咲かせてみせるから。もう二度と枯れない、綺麗な花を。