可能性の話
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莉子さんは風邪をひかないと思っていた。本人が「あまりひかないな〜」と言っていたので。ひいても少し咳が出るくらいで、普通に会っていたし。
『珍しくちょっと熱っぽいので、明日の映画は無理っぽい……本当にごめんね』
寝る前に莉子さんから、申し訳なさそうなスタンプと共に送られてきた。単純に驚いてしまい、返信に迷って言葉を考えている。え、明日会えないってことですか。そう言われてるんだが、どうも噛み砕けないというか理解したくないというか。自分が明日をとてもとても楽しみにしていたということに、改めて気付かされる。付き合う前から莉子さんとの映画は特別だったけれど、お付き合いしてから一緒の時間は全て大切になった。
『残念です。お大事にしてください』
『ごめんね、埋め合わせはするので……』
『気にしないでください』
気にするんだろうなぁ。莉子さん、変なとこ気にしぃだし。いっつも莉子さんの好きなのでいいんですよって言うのに、哲次君が選んだのでいいよと返される。莉子さんの気持ちを大事にして欲しいし知りたいのに、いつも気を遣って俺に合わせて。じれったくて、もどかしい。
『明日、会いに行ってもいいですか』
送信しようとしてやめた。どうせ伝染るからダメって言うんだろうし。
(暇すぎる……)
映画のために1日空けていたので、とんでもなく暇だ。どっかでランチして映画見て、そのあともお茶しようと思ってたし。1人で観て来ていいよ、とは言われたが、観に行く気になれない。予約もしてたけど。1人の時間をどう過ごしていたか、上手く思い出せない。とりあえず外に出た。行く宛などない。食べたいものもない。やりたいこともない。自然に足が莉子さんの家の方へ向いていて、待て待て待てと自分を制する。
(別に家で1人ってこともないだろうし)
莉子さんは実家住まいだから、家には母親がいるだろうし。看病の手に困っているわけもない。今頃温かいお布団で、好きな食べやすいもの作ってもらって食べているに違いない。熱があるんだから、ゆっくり寝ているだろう。咳もあって話すのも大変かもしれない。俺が会いに行っても、出来ることはない。
(…………来てしまった)
莉子さんの家の前。まぁあれだ。あれこれ言い訳抜きにして俺が会いたいだけだ。ここまで来ちゃったし、顔だけでも見て帰ろう。買い出しとかあれば、任されよう。莉子さんの部屋番号のインターホンを押す。
『はい』
「荒船ですけど……」
『え?哲次くん?』
母親が出たと思っていたのに、どうやらインターホンの向こう側にいるのは莉子さんで。やがて玄関が開く。パジャマ姿で額に冷えピタを貼った莉子さんが顔を出す。
「どうしたの?映画は?」
「莉子さんこそ、家に1人ですか?」
「うん、母さん用事あって、父さん仕事」
「……なんで言ってくれないんですか」
莉子さんは首を傾げる。言ったってしょうがないってか。もう少し頼ってくんねぇかな。甘えたっていいのに。莉子さんの両頬を片手で掴んで潰す。いつもより温い。
「む、にゃにするにょ」
「莉子さんの彼氏は誰ですか」
「てつじくん」
「なんで頼らねぇ」
「…………迷惑かと」
「迷惑なわけ、ないじゃないですか」
俺と目が合うと、申し訳なさそうに伏せた。俺の左手を取ると、にぎにぎと触れる。
「1人で大丈夫だもん」
「…………それは俺が寂しい」
莉子さんの手を握る。いつもより体温が高いのが分かる。呼吸もしづらそうで、ゼーゼーいってる。なんか、わがまま言ってるの俺の方だな。
「すいません、俺が寂しかったんで会いに来ただけです」
「うん……」
「帰ります」
「……帰っちゃう?」
残念そうに、しゅんとしおらしくなって。この人、こういうのどこで覚えてくるんだ。帰れなくなった。
「……あがっていいですか」
莉子さんは黙って家の中に引っ込む。連れられて、あがりこむ。莉子さんはふらふらと左手前の、寝室に入っていった。そのまま、セミダブルのベッドに倒れ込む。少し戸惑ったが、意を決して枕元まで行って、俺も座る。
「なにかして欲しいこと、ありますか。つーか昼飯食ったのか」
「まだ。おかゆが作ってある」
温めて持って来てやろうかと思ったが、他人の家なのでキッチンの勝手が分からない。冷えピタだって、替えのがどこにあるか分からないし、着替えなんてもっと検討がつかない。薬はどこにあるのか。看病してやりたいと思っていたのに、それらしいことが1人では出来ないことに気付いて悔しい。黙っていたら、莉子さんが右手で俺の膝に触れて。
「来てくれてありがとぉ」
ふにゃって笑うから、俺も熱が出たかと思うくらい体温が上がって。
「…………寝ててくださいよ」
額から瞼の上までを撫でて、誤魔化すように立ち上がった。こうなったら、なんとかしてやる。とりあえずは、作り置きのおかゆを見つけて温める。おかゆ食べたら、薬。莉子さんが良くなるまで、離れてやらねぇからな。
『珍しくちょっと熱っぽいので、明日の映画は無理っぽい……本当にごめんね』
寝る前に莉子さんから、申し訳なさそうなスタンプと共に送られてきた。単純に驚いてしまい、返信に迷って言葉を考えている。え、明日会えないってことですか。そう言われてるんだが、どうも噛み砕けないというか理解したくないというか。自分が明日をとてもとても楽しみにしていたということに、改めて気付かされる。付き合う前から莉子さんとの映画は特別だったけれど、お付き合いしてから一緒の時間は全て大切になった。
『残念です。お大事にしてください』
『ごめんね、埋め合わせはするので……』
『気にしないでください』
気にするんだろうなぁ。莉子さん、変なとこ気にしぃだし。いっつも莉子さんの好きなのでいいんですよって言うのに、哲次君が選んだのでいいよと返される。莉子さんの気持ちを大事にして欲しいし知りたいのに、いつも気を遣って俺に合わせて。じれったくて、もどかしい。
『明日、会いに行ってもいいですか』
送信しようとしてやめた。どうせ伝染るからダメって言うんだろうし。
(暇すぎる……)
映画のために1日空けていたので、とんでもなく暇だ。どっかでランチして映画見て、そのあともお茶しようと思ってたし。1人で観て来ていいよ、とは言われたが、観に行く気になれない。予約もしてたけど。1人の時間をどう過ごしていたか、上手く思い出せない。とりあえず外に出た。行く宛などない。食べたいものもない。やりたいこともない。自然に足が莉子さんの家の方へ向いていて、待て待て待てと自分を制する。
(別に家で1人ってこともないだろうし)
莉子さんは実家住まいだから、家には母親がいるだろうし。看病の手に困っているわけもない。今頃温かいお布団で、好きな食べやすいもの作ってもらって食べているに違いない。熱があるんだから、ゆっくり寝ているだろう。咳もあって話すのも大変かもしれない。俺が会いに行っても、出来ることはない。
(…………来てしまった)
莉子さんの家の前。まぁあれだ。あれこれ言い訳抜きにして俺が会いたいだけだ。ここまで来ちゃったし、顔だけでも見て帰ろう。買い出しとかあれば、任されよう。莉子さんの部屋番号のインターホンを押す。
『はい』
「荒船ですけど……」
『え?哲次くん?』
母親が出たと思っていたのに、どうやらインターホンの向こう側にいるのは莉子さんで。やがて玄関が開く。パジャマ姿で額に冷えピタを貼った莉子さんが顔を出す。
「どうしたの?映画は?」
「莉子さんこそ、家に1人ですか?」
「うん、母さん用事あって、父さん仕事」
「……なんで言ってくれないんですか」
莉子さんは首を傾げる。言ったってしょうがないってか。もう少し頼ってくんねぇかな。甘えたっていいのに。莉子さんの両頬を片手で掴んで潰す。いつもより温い。
「む、にゃにするにょ」
「莉子さんの彼氏は誰ですか」
「てつじくん」
「なんで頼らねぇ」
「…………迷惑かと」
「迷惑なわけ、ないじゃないですか」
俺と目が合うと、申し訳なさそうに伏せた。俺の左手を取ると、にぎにぎと触れる。
「1人で大丈夫だもん」
「…………それは俺が寂しい」
莉子さんの手を握る。いつもより体温が高いのが分かる。呼吸もしづらそうで、ゼーゼーいってる。なんか、わがまま言ってるの俺の方だな。
「すいません、俺が寂しかったんで会いに来ただけです」
「うん……」
「帰ります」
「……帰っちゃう?」
残念そうに、しゅんとしおらしくなって。この人、こういうのどこで覚えてくるんだ。帰れなくなった。
「……あがっていいですか」
莉子さんは黙って家の中に引っ込む。連れられて、あがりこむ。莉子さんはふらふらと左手前の、寝室に入っていった。そのまま、セミダブルのベッドに倒れ込む。少し戸惑ったが、意を決して枕元まで行って、俺も座る。
「なにかして欲しいこと、ありますか。つーか昼飯食ったのか」
「まだ。おかゆが作ってある」
温めて持って来てやろうかと思ったが、他人の家なのでキッチンの勝手が分からない。冷えピタだって、替えのがどこにあるか分からないし、着替えなんてもっと検討がつかない。薬はどこにあるのか。看病してやりたいと思っていたのに、それらしいことが1人では出来ないことに気付いて悔しい。黙っていたら、莉子さんが右手で俺の膝に触れて。
「来てくれてありがとぉ」
ふにゃって笑うから、俺も熱が出たかと思うくらい体温が上がって。
「…………寝ててくださいよ」
額から瞼の上までを撫でて、誤魔化すように立ち上がった。こうなったら、なんとかしてやる。とりあえずは、作り置きのおかゆを見つけて温める。おかゆ食べたら、薬。莉子さんが良くなるまで、離れてやらねぇからな。