可能性の話
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目の前の想像に、想像した現実に、目を逸らすのを忘れていた。空が暗くて、そこらじゅうで悲鳴やサイレンが聞こえる。耳鳴りがした。大きな怪物に背を向けるのが遅れて3秒、走り出して5秒、大きな交差点、車なんてもう走っていなくて。まっすぐ大通りを抜けるか、右折か左折か、思い切って怪物の股をくぐり抜けて向こう側か。悩んだ端から、足は速度を失っていく。急にバッと腕を取られ、引っ張られる。交差点の手前の、路地を進んでいく。走った。勢いに逆らわずに。走って、路地から駅前のビルに出て。人がごった返していた。ビルの裏側に周る。ゴミ箱の横、男の子はドサっと座った。歳の変わらない男の子に引っ張られていたと、この時ようやく気付く。
「えっと、ありがとう……」
「おう、怪我ねぇか?」
「ないと、思う。足は捻ってるかも、しれないけど」
脳内で状況の整理が追いついてなくて、痛覚がまともかもよく分からない。
「そんだけ冷静なら大丈夫だろ」
「そうかな」
「そうだろうよ」
男の子は伸びをし、あくびをひとつした。そうして、きょろきょろと辺りを見て、なにかを探して。
「あー、とりあえず今のうちに座っとけば?」
自分の横を指差し、そう言う。私は遠慮がちに、体育座りをした。沈黙の外側で、非日常の喧騒。リュックからペットボトルを出し、お茶を飲む。横を見れば、彼は手ぶらだった。ペットボトルを差し出す。
「飲む?」
「いいのか?初対面の男に飲みかけなんて」
「非常時だしそんなこと気にしなくていいよ」
男の子はペットボトルを受け取ると、煽るように飲んだ。ふぅーっと息を吐くと、ありがとうと私に返して。
「あんた、いい人だけど長生きしなさそうだな」
「そこまでお人好しじゃないと思うけど……」
「いや、俺が放っておいたらさっき死んでたろ」
そう言われて、サッと血の気が引く。先ほどの恐怖がリプレイされる。口元を手で押さえた。
「悪かった、思い出させて」
男の子は肩を引き寄せ、パンパンと私の腕を叩いた。しばらく、縮こまるように身を寄せる。深呼吸して、整える。ここでパニックになっている場合じゃない。見ず知らずの彼に、これ以上迷惑はかけられない。
「ごめん、ありがとう」
「おう。いいってことよ」
身体を戻し、空を見上げる。どんよりとした雲から、今にも雨が落ちてきそうだ。焦げ臭いニオイがする。恐怖が現実となっても、案外呼吸は出来ると知る。このあとは、どうする。
ドオオン……キャー
一際大きな轟音が近くでして、叫び声も真後ろくらいからした。私は立ち上がり、埃を払う。
「ここも危ねぇかもな……」
彼も立ち上がり、肩を回す。彼の足を出す方向に、同じように並んで踏み出した。
「どこへ行く?」
「どこ行ったって変わんねぇような気もするな」
「坂の上とか、高い場所はどうだろう」
「山の方か。ありかもな」
このまま陽の沈む方へ行けば、山間に学校があったはずだ。不思議な一体感を抱いて、二人一緒に目指す。壊れていない自販機を見つけて、持てるだけスポーツドリンクを買った。彼に一本、渡す。
「悪りぃな、俺財布も落としちまってさ」
「構わないよ。それより、急ごう」
リュックいっぱいにスポーツドリンクを詰める。それをなんでもないように、彼は私の手から奪って背負った。
「あ、」
「構わねぇよ、お互い様だろ」
足早に前に進んでいく。慌てて追いかけ、横に並ぶ。雨が降り出して、雷が遠く鳴る。非日常は遠ざかっている気がした。
「名前、なんていうの」
「当真勇」
「いさみくん」
「あんたは?」
「莉子」
「良い名前じゃん」
「よく言われる」
雨で湿った地面が滑る。雨なんて予報は出てなかったから、傘はない。びしょ濡れになりながら、中学校を目指す。
「ありがとう」
「あ?」
「一緒に帰ろうね」
いさみくんは私の顔をまじまじと見たあと、ぷっと吹き出して大笑いした。
「あんたやっぱり、放っておくと死んじまいそうだな」
「えっと、ありがとう……」
「おう、怪我ねぇか?」
「ないと、思う。足は捻ってるかも、しれないけど」
脳内で状況の整理が追いついてなくて、痛覚がまともかもよく分からない。
「そんだけ冷静なら大丈夫だろ」
「そうかな」
「そうだろうよ」
男の子は伸びをし、あくびをひとつした。そうして、きょろきょろと辺りを見て、なにかを探して。
「あー、とりあえず今のうちに座っとけば?」
自分の横を指差し、そう言う。私は遠慮がちに、体育座りをした。沈黙の外側で、非日常の喧騒。リュックからペットボトルを出し、お茶を飲む。横を見れば、彼は手ぶらだった。ペットボトルを差し出す。
「飲む?」
「いいのか?初対面の男に飲みかけなんて」
「非常時だしそんなこと気にしなくていいよ」
男の子はペットボトルを受け取ると、煽るように飲んだ。ふぅーっと息を吐くと、ありがとうと私に返して。
「あんた、いい人だけど長生きしなさそうだな」
「そこまでお人好しじゃないと思うけど……」
「いや、俺が放っておいたらさっき死んでたろ」
そう言われて、サッと血の気が引く。先ほどの恐怖がリプレイされる。口元を手で押さえた。
「悪かった、思い出させて」
男の子は肩を引き寄せ、パンパンと私の腕を叩いた。しばらく、縮こまるように身を寄せる。深呼吸して、整える。ここでパニックになっている場合じゃない。見ず知らずの彼に、これ以上迷惑はかけられない。
「ごめん、ありがとう」
「おう。いいってことよ」
身体を戻し、空を見上げる。どんよりとした雲から、今にも雨が落ちてきそうだ。焦げ臭いニオイがする。恐怖が現実となっても、案外呼吸は出来ると知る。このあとは、どうする。
ドオオン……キャー
一際大きな轟音が近くでして、叫び声も真後ろくらいからした。私は立ち上がり、埃を払う。
「ここも危ねぇかもな……」
彼も立ち上がり、肩を回す。彼の足を出す方向に、同じように並んで踏み出した。
「どこへ行く?」
「どこ行ったって変わんねぇような気もするな」
「坂の上とか、高い場所はどうだろう」
「山の方か。ありかもな」
このまま陽の沈む方へ行けば、山間に学校があったはずだ。不思議な一体感を抱いて、二人一緒に目指す。壊れていない自販機を見つけて、持てるだけスポーツドリンクを買った。彼に一本、渡す。
「悪りぃな、俺財布も落としちまってさ」
「構わないよ。それより、急ごう」
リュックいっぱいにスポーツドリンクを詰める。それをなんでもないように、彼は私の手から奪って背負った。
「あ、」
「構わねぇよ、お互い様だろ」
足早に前に進んでいく。慌てて追いかけ、横に並ぶ。雨が降り出して、雷が遠く鳴る。非日常は遠ざかっている気がした。
「名前、なんていうの」
「当真勇」
「いさみくん」
「あんたは?」
「莉子」
「良い名前じゃん」
「よく言われる」
雨で湿った地面が滑る。雨なんて予報は出てなかったから、傘はない。びしょ濡れになりながら、中学校を目指す。
「ありがとう」
「あ?」
「一緒に帰ろうね」
いさみくんは私の顔をまじまじと見たあと、ぷっと吹き出して大笑いした。
「あんたやっぱり、放っておくと死んじまいそうだな」