序章/プロトタイプ
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『ファンボックスに荷物が届いているから、取りに来たまえ』
そう根付さんから連絡を受けて、メディア対策室に向かう。メディア対策室の一区画に、ボーダー隊員宛の荷物を預かるスペースがある。広報に携わる隊員宛のものがほとんどで、ファンボックスと呼ばれている。市民の皆さんからの差し入れや、ファンからの贈り物の窓口になっているのだ。私もそこそこいただけるようになってきた。危ないものや悪意のあるものは、根付さんがチェックして外してくれているらしい。なんだかんだ、あの人の世話になっているのは確かだ。
(今日はなにが来てるかな)
ラックに小さな段ボールが並んでいて、それぞれに誰宛の荷物かが書いてある。自分の名前を探す。1番上の棚に見つけたが、私は背が低いので難儀する。背伸びをし、手を伸ばして箱の縁に指を引っ掛ける。指に力を入れて箱を引っ張ると、中身の重さで勢いよくずれ落ちてきそうになる。箱を押したり戻したり、もたもたとしていた。
「莉子さん、俺取りますよ!」
頭の上を赤い袖が通る。その腕でいとも容易く降ろされた箱は、私の腕の中に渡された。
「ありがと、佐鳥」
「どういたしまして!」
佐鳥は満面の笑みで、嬉しそうに私を見つめる。佐鳥といるのは安心する。表情の裏を、あれこれ考えなくていい。
「佐鳥もファンボックスに用事?」
「いや、書類届けるお使いに来ただけ。莉子さん見えたから、挨拶しようと思って」
佐鳥と話しながら、中身の確認をする。クラウンさんからたけのこの里来てるや。また奈良坂くんにあげよう。たけのこの里の箱を取り出すと、その下に小さな箱が入っていた。持ち上げると大きさのわりに重たい。なんだなんだと段ボールから出すと、どうやら知恵の輪らしかった。
「知恵の輪!?」
佐鳥も驚いて、まじまじと知恵の輪を見る。難易度は、初級らしい。
「……これを贈るファンの心境って、なに?」
「さぁ……佐鳥にはよく分かんないです」
メッセージも付いていない。匿名の贈り物やメッセージは、正直苦手だった。悪意を疑ってしまうから。
「馬鹿にされてるのかなぁ」
なんとなく、初級だしこんなのも解けない馬鹿だと言われているのではないかと、訝しむ。
「そんなことないでしょ!楽しく遊んでくださいってことですよきっと」
佐鳥がそう言って励ましてくれるが、私の眉間から皺は取れない。見かねた佐鳥は、私の両頬を軽く叩く。
「む」
「莉子さんのこと悪く思う人なんていないって。いたら俺がやっつけてあげるから。ね?」
佐鳥はいつも通りに笑う。私がいつも、誰かからの悪意に怯える時は、佐鳥は笑って側にいてくれる。
「ありがとう、佐鳥」
「いいんですよ。莉子さんにはいつも助けてもらってるから、俺」
箱を佐鳥に元の位置へ戻してもらう。名札を返却し、メディア対策室を出た。
「莉子さん、今暇?」
「わりと暇」
「じゃあうちの隊室来て、仕事手伝ってくれない?」
「うん、いいよー」
佐鳥の誘いで、嵐山隊隊室に行くことになった。なにも手土産持ってないけど、いいか。佐鳥と並んで廊下を歩く。長い廊下を抜けて、ひとつ下の階に降りて、私の隊室を通り過ぎて。嵐山隊隊室に到着。佐鳥の後ろについて、中に入る。
「莉子さん来たよー」
「お邪魔します」
とっきーと藍ちゃんが会釈をくれ、遥ちゃんと准くんが手を振る。ちょうど空いていたし、准くんがここに座れと指をさすので、准くんの隣に腰を下ろす。
「なにか手伝うことある?」
「じゃあこの隊員名簿、トリオン能力順に並び替えてくれ」
A4の書類の束がドサっと目の前に置かれる。どうやら、新入隊員の履歴書のようなものらしい。本人記入欄の下に、監査官の記入欄があり、そこに観測したトリオン能力の数値が記載されている。高いものを先頭にして、並び替えていく。
「ん……?」
明らかに低い数値を見つけて、まじまじと見る。この束は戦闘員の隊員のもののはずだが、トリオン能力は2と記されている。新入隊員でも、これは低すぎるのではないだろうか。
「准くん、これ」
「ん?」
「戦闘員の名簿に2が混ざってるけど、大丈夫?」
准くんに問題の書類を渡す。准くんは名前を確認すると、そのまま私に書類を返した。
「ああ、これ大丈夫。確認してあるから」
「そうなんだ」
名前をなんとなしに見る。三雲修、と書かれていた。トリオンが低いと戦闘員は苦労する。どんな隊員になるのかな。頭の片隅に置いて、書類は1番下にまわした。作業を続ける。
「そういえばさっき、知恵の輪の差し入れがあったよ」
「知恵の輪?」
「これ。遊びたい人遊んでいいよ」
初級の知恵の輪を、デスクの真ん中に置く。とっきーが何気なく持ち上げ、箱を見ている。
「開けていいですか?」
「どうぞ」
とっきーは黙々と箱を開け、知恵の輪を弄り出した。佐鳥と藍ちゃんがちらちらと覗き込む。
「知恵の輪を贈る心境ってなんだと思う?」
准くんにも訊いてみる。さあ、と准くんは興味なさげだ。
「何も書いてないなら、深読みしないでいいんじゃないか?」
「そうねぇ」
准くんは、こういうところ強いなと思う。
「俺なんかよくプロテインが送られてくるけど、あれなんだろな?俺に筋肉のイメージある?」
「体力バカのイメージはあるよ」
「マジか。そのせい?」
「筋肉の洗礼、受けたら?」
「いやぁ遠慮しとくよ」
最近話題のワードを交えて、談笑する。准くんくらい、しっかりどんと構えていられたらな。
「解けました」
「え、早」
とっきーが知恵の輪をあっさり解いてしまった。とっきーに負けじと、今度は藍ちゃんが挑戦する。みんなが楽しんでいるなら、それでいっか。私は深く考えることをやめ、お手伝いに集中することにした。
そう根付さんから連絡を受けて、メディア対策室に向かう。メディア対策室の一区画に、ボーダー隊員宛の荷物を預かるスペースがある。広報に携わる隊員宛のものがほとんどで、ファンボックスと呼ばれている。市民の皆さんからの差し入れや、ファンからの贈り物の窓口になっているのだ。私もそこそこいただけるようになってきた。危ないものや悪意のあるものは、根付さんがチェックして外してくれているらしい。なんだかんだ、あの人の世話になっているのは確かだ。
(今日はなにが来てるかな)
ラックに小さな段ボールが並んでいて、それぞれに誰宛の荷物かが書いてある。自分の名前を探す。1番上の棚に見つけたが、私は背が低いので難儀する。背伸びをし、手を伸ばして箱の縁に指を引っ掛ける。指に力を入れて箱を引っ張ると、中身の重さで勢いよくずれ落ちてきそうになる。箱を押したり戻したり、もたもたとしていた。
「莉子さん、俺取りますよ!」
頭の上を赤い袖が通る。その腕でいとも容易く降ろされた箱は、私の腕の中に渡された。
「ありがと、佐鳥」
「どういたしまして!」
佐鳥は満面の笑みで、嬉しそうに私を見つめる。佐鳥といるのは安心する。表情の裏を、あれこれ考えなくていい。
「佐鳥もファンボックスに用事?」
「いや、書類届けるお使いに来ただけ。莉子さん見えたから、挨拶しようと思って」
佐鳥と話しながら、中身の確認をする。クラウンさんからたけのこの里来てるや。また奈良坂くんにあげよう。たけのこの里の箱を取り出すと、その下に小さな箱が入っていた。持ち上げると大きさのわりに重たい。なんだなんだと段ボールから出すと、どうやら知恵の輪らしかった。
「知恵の輪!?」
佐鳥も驚いて、まじまじと知恵の輪を見る。難易度は、初級らしい。
「……これを贈るファンの心境って、なに?」
「さぁ……佐鳥にはよく分かんないです」
メッセージも付いていない。匿名の贈り物やメッセージは、正直苦手だった。悪意を疑ってしまうから。
「馬鹿にされてるのかなぁ」
なんとなく、初級だしこんなのも解けない馬鹿だと言われているのではないかと、訝しむ。
「そんなことないでしょ!楽しく遊んでくださいってことですよきっと」
佐鳥がそう言って励ましてくれるが、私の眉間から皺は取れない。見かねた佐鳥は、私の両頬を軽く叩く。
「む」
「莉子さんのこと悪く思う人なんていないって。いたら俺がやっつけてあげるから。ね?」
佐鳥はいつも通りに笑う。私がいつも、誰かからの悪意に怯える時は、佐鳥は笑って側にいてくれる。
「ありがとう、佐鳥」
「いいんですよ。莉子さんにはいつも助けてもらってるから、俺」
箱を佐鳥に元の位置へ戻してもらう。名札を返却し、メディア対策室を出た。
「莉子さん、今暇?」
「わりと暇」
「じゃあうちの隊室来て、仕事手伝ってくれない?」
「うん、いいよー」
佐鳥の誘いで、嵐山隊隊室に行くことになった。なにも手土産持ってないけど、いいか。佐鳥と並んで廊下を歩く。長い廊下を抜けて、ひとつ下の階に降りて、私の隊室を通り過ぎて。嵐山隊隊室に到着。佐鳥の後ろについて、中に入る。
「莉子さん来たよー」
「お邪魔します」
とっきーと藍ちゃんが会釈をくれ、遥ちゃんと准くんが手を振る。ちょうど空いていたし、准くんがここに座れと指をさすので、准くんの隣に腰を下ろす。
「なにか手伝うことある?」
「じゃあこの隊員名簿、トリオン能力順に並び替えてくれ」
A4の書類の束がドサっと目の前に置かれる。どうやら、新入隊員の履歴書のようなものらしい。本人記入欄の下に、監査官の記入欄があり、そこに観測したトリオン能力の数値が記載されている。高いものを先頭にして、並び替えていく。
「ん……?」
明らかに低い数値を見つけて、まじまじと見る。この束は戦闘員の隊員のもののはずだが、トリオン能力は2と記されている。新入隊員でも、これは低すぎるのではないだろうか。
「准くん、これ」
「ん?」
「戦闘員の名簿に2が混ざってるけど、大丈夫?」
准くんに問題の書類を渡す。准くんは名前を確認すると、そのまま私に書類を返した。
「ああ、これ大丈夫。確認してあるから」
「そうなんだ」
名前をなんとなしに見る。三雲修、と書かれていた。トリオンが低いと戦闘員は苦労する。どんな隊員になるのかな。頭の片隅に置いて、書類は1番下にまわした。作業を続ける。
「そういえばさっき、知恵の輪の差し入れがあったよ」
「知恵の輪?」
「これ。遊びたい人遊んでいいよ」
初級の知恵の輪を、デスクの真ん中に置く。とっきーが何気なく持ち上げ、箱を見ている。
「開けていいですか?」
「どうぞ」
とっきーは黙々と箱を開け、知恵の輪を弄り出した。佐鳥と藍ちゃんがちらちらと覗き込む。
「知恵の輪を贈る心境ってなんだと思う?」
准くんにも訊いてみる。さあ、と准くんは興味なさげだ。
「何も書いてないなら、深読みしないでいいんじゃないか?」
「そうねぇ」
准くんは、こういうところ強いなと思う。
「俺なんかよくプロテインが送られてくるけど、あれなんだろな?俺に筋肉のイメージある?」
「体力バカのイメージはあるよ」
「マジか。そのせい?」
「筋肉の洗礼、受けたら?」
「いやぁ遠慮しとくよ」
最近話題のワードを交えて、談笑する。准くんくらい、しっかりどんと構えていられたらな。
「解けました」
「え、早」
とっきーが知恵の輪をあっさり解いてしまった。とっきーに負けじと、今度は藍ちゃんが挑戦する。みんなが楽しんでいるなら、それでいっか。私は深く考えることをやめ、お手伝いに集中することにした。