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中学最初の体育の時間。
1組と2組、男女に別れて合同授業をする。
今日はバスケだ。
他のチームのミニゲームを見学中、男子のほうからの賑やかな声にそっと目を向ける。
女子ののんびりしたペースとは違う。
男子ならではの、全力で取り組んでるような早い身のこなしに思わず見とれた。
貴澄はバスケ部に入るんだっけ……。
あ、ハルがシュート決めた。
いいなぁ……。
緑のネット越しに見る光景がやけに遠く感じて、上履きの爪先を床に少し押し付けた。
「ねぇ、君バスケ経験者だったりする?」
突然肩に置かれた手とかけられた声にびくっと揺れる。
隣を見ると、ショートボブの快活そうな子がいた。肌は浅黒くて華奢な男子みたいだ。
「……友達としてた、だけ」
驚いて、思わず小さめの声になる。
小動物みたいな目が、渚にちょっと似ていると思った。
「もしかして男友達と?動きが他の子よりよかったもん!」
こ、この子鋭い。
「あたしも男子とバスケしてたんだよね。小学校の頃バスケクラブ入ってたからさ。よかったら一緒にバスケ部入んない?」
「……ごめん。ゆっくり決めたいから」
そう答えると、「そっかぁ……」としょぼんとした顔になるその子。
「でも、……誘ってくれて、ありがとう」
そう言ったとき、その子はぱっと照れくさそうな笑顔になった。
「あ、あたし阿方 司!よろしくね、えーと、」
「蒼。向日、蒼」
「よろしく、蒼!」
ぎゅっと握られた右手をぶんぶん振られて戸惑ったけど、私もつられて少し微笑んでいた。
***
授業が終わって、男子たちがちらほらと教室に帰ってきて話し声が広がっていく。
まだほのかに女子の誰かが使った制汗剤の香りがしていた。
「女子力だなー……」
「ちゃんとお風呂に入れば問題ないぞ。私も何もしてないし」
「とか言ってその爽やかな香りはなんなんだ!」
私の席まで来てくれた司と少しわいわい話していたとき、私はふと窓のほうを見て首をかしげた。
1人の男子が、机に片手を置いて窓の向こうを見ている。
小柄な背中と大きめの制服。
あそこは確かハルの席だ。
何を見てるんだろう……。
そのとき 帰ってきたハルが何か声をかけ、彼は自分の席に戻っていった。
あの席は確か、桐嶋……だっけ。
「蒼、どったの?」
「え、あ……なんでもない」
不思議そうにしていた司にあわてて両手を振った。
***
夕日が海をオレンジ色に染めている。
漣の音を聞きながらの帰り道、ハルが小さくため息をついたのが分かった。
「ハル、少し疲れてる?」
「別に。少しさわがしい」
「ハルたちのクラス、元気な子が多いもんね」
「言われてみれば」
思い出して納得する。
椎名は元気に水泳部に勧誘してきたし、貴澄も性格は社交的。司も元気で明るい。
「あのな、今日新しい友達ができたんだ」
「そうなの?アオ、よかったね!」
真琴が自分のことのように喜んでくれるのがなんだか照れくさくて、私は頬を赤らめた。
「そういえば、貴澄がバスケ部に勧誘してきたけど、2人は部活どうするの?」
「文化部……かな。たぶん」
「まだ決めてない」
真琴、いつの間に貴澄と仲良くなってたのか。
コンクリートに3人の影が落ちる。
階段でにゃんこが伸びをしていた。
「でも、うちの学校どこかには入部しないといけないよ」
「そういうお前はどうなんだ」
「俺?うーん……、まだ決めてない」
ハルに聞かれて少し考え込むも、真琴もおあいこだったらしい。
「いろんな部があるから、迷うのも仕方ないよな」
「そうなんだよねー」
入学式にもらった冊子にはたくさんの部紹介があって、どれも魅力的な書き方だった。
「バスケ部はどうだ?」
何気なく提案したとき、真琴の歩みが止まった。つられるように、私も立ち止まる。
「真琴?」
私の声に、少し先まで歩いたハルが振り返る。
どうしたんだろう……。と思ったとき、真琴が聞いてきた。
「アオは、俺がバスケ部に入るの、賛成?」
「え、……賛成というか、何部に入るのも、真琴の自由だと思う」
「……そうだよね」
少し戸惑いながら聞いていると 真琴が歩き出し、私も同じペースで歩いていく。
「バスケかぁ。体育でしかしたことないけど……。それもいいかもね」
また3人並んで歩き始める間。
さっきの真琴の、なんだか寂しそうな目が頭から離れなかった。