春の始まり
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「アオ姉ー!」
「おっと」
休憩室の自販機で飲み物を買おうとしたとき、かけ足の勢いで抱きついてきた紺を受け止める。
「あのね、お父さんとお母さん今日も遅くて、とー兄はもうすぐ帰ってくるから3人でご飯食べててって」
ちょっと息を切らしながら、早口で伝えてくる紺の背中をぽんぽんと軽く叩く。
家に1番早く帰ってくる紺は、よく母さんたちの置き手紙を伝える役になっていた。
「わかった。ご飯は何?」
「今日はね、じゃーん! カレー!」
スポーツバッグから取り出したレシピの紙を両手で持ち、嬉しそうににこにこする紺。
父さんと母さんは共働きで、こうして家にいないことも多い。
父さんたちが用意してくれるレシピを使って3人で夕ご飯を作ったり、母さんが作っておいてくれたりするのが日常だ。
「家に帰ったら、荷物を下ろしてすぐ作ろう」
「うん!」
休憩室に残っていたハルたちに手を振って、ロビーを出る。
すると、背が大きい人が走ってくるのが見えた。
「あ、もしかして……」
「蒼ー、紺ー!」
「とー兄だー!」
駆け寄った紺を受け止めて、透兄が呼吸を整えるように深呼吸した。
「今日は早めに部活終わったから迎えに来たぞ」
「もう一つ理由がありそうだけど」
「今日の夕飯のメニューが知りたい」
そのとき透兄のお腹が鳴った。
タイミングの良さに、思わずくすりと笑う。
"中学時代の友達がいる"という理由で転入した高校には水泳部があるらしく、迷わず入部したらしい。
2年間通ってた強豪校ほどの練習量ではないらしいけど、透兄はそんなことは気にせず。
仲間と水泳ができることを、心から楽しんでるみたいだった。
「今日はカレーだよ!」
「まじか! やった」
紺の返事にお腹を抱える透兄。
それから3人並んで、学校であったこととかを話しながら帰った。
***
爽やかな朝の陽光が、白い鳥居に反射している。
「いってきまーす!」
真琴の朗らかな声が柔らかく響いた。
足どり軽い彼に続くように。
「いってきます」
蒼も家を出て、遙の家へ向かう。
「真琴、おはよ」
「アオ!おはよ~」
3人一緒の登校が小さい頃からのお約束で、2人は大抵遙の家の前で落ち合う形になる。
ピンポーン。
真琴がチャイムを押すと、ハルのお母さんが出てきた。
「おばさん、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう真琴くん、蒼ちゃん。遙ー、2人が来たわよー」
「んー」
2階の方から小さくハルの声がし、その後本人が階段を降りてきた。
「おはよ……あ、」
「おはよーハル。あっ」
思わず目を丸くし、真琴とそろって声を上げる。
「行くぞ真琴、蒼」
しれっと言うハルはまた、ホックと第一ボタンを開けていた。
「……そんなに苦しかったんだな」
「もぉ~……」
ハルのマイペースさに少し苦笑い。
真琴は困ったように、ずるりとリュックの肩ひもがずれるほど肩を落としていた。