つながる想い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
迎えた記録会当日。
たくさんの中学校から来た生徒や、観客で会場の席はうまっていた。
「いよいよ記録会だ。今日の記録が1年間の指針になるからな。気合い入れろよ!」
輪になった部員に夏也先輩が快活な声で告げる。
「岩中ー、ファイッ!」
「オー!」
いよいよ始まるんだ。
そう思うと、私はマネージャーなのに何だかドキドキしていた。
「蒼ー!」
「司、爽香!来てくれたのか」
ベンチから聞こえた、よく通る明るい声。
Tシャツにハーフパンツといったボーイッシュな格好をした司と、シンプルなワンピースを着た爽香が立っていた。
「いやー、意外と知り合いいるもんだね」
「ほら」と司が指した方を見ると、貴澄と望月君が来ていた。
今日は渚と、透兄や紺も来るって言ってたな。
種目が続き、メドレーリレーが近づく。
そのとき、4人が夏也先輩と尚先輩のところに並んだ。
「もうすぐリレーだな」
「どう、いけそう?」
3人とも肯定的な返事をする。
黙っていたハルが話し出す。
「……小学生のとき泳いだリレーは、俺や真琴にとって特別すぎて。だから俺は、もう他のメンバーでリレーを泳ぐつもりは無かったんです。
……でも今は、それが少し変わった。俺は今、このメンバーでリレーを泳ぎたい」
ハルの言葉を聞いて、みんなそれぞれ嬉しそうな顔をする。
私も思わず、笑みを浮かべた。
「頑張っておいで」
「絶対勝ってこいよ!」
そう声をかける尚先輩も夏也先輩も、どこか嬉しそうで。
「蒼」
尚先輩が私に声をかけるのと、私がベンチから小走りで下りるのは、ほとんど同時だった。
側で、同じ目線で見てきたからか。
伝えたいことは1つだった。
「……頑張れ!」
はっきり声に出した、みんなへの思い。
うなずくハル。
拳を高くあげる旭。
嬉しそうに笑う真琴。
頬を染める郁弥。
「おっしゃあー行くぜー!」
「はしゃぐとコケるよバカ旭」
そう言いながら召集場所に向かう背中を見送る中。
尚先輩の声が聞こえた。
「……この瞬間があるから、教育係はやめられないんだ」
「……それもいいけど、さっさと選手に戻ってこいよ。俺が待ちくたびれる」
「そのうちね」
そっと聞かなかったふりをして、司たちのところに戻る。
「よく言ったじゃん」
「……よかったね」
司がニヤニヤしながら肘でつっついてきて、爽香はほわりと笑っていた。
***
いよいよメドレーリレーが始まる。
司たちと待つ中、岩鳶中のジャージを見つけた私はメガホンを握る手に力を込めた。
アナウンスが流れ、笛の音を合図に真琴が水に入る。
「最初が背泳ぎだよね?」
「うん」
真琴から目を離せないまま、司の質問に返す。
笛が鳴り、みんな一斉に飛び出す。
真琴のスタートは上々。一生懸命に応援する。
「すごい……!もう1位……!?」
「ファイトー!」
隣で爽香が声を出す。司も持ち前の声を張った。
誰も寄せつけない、海をダイナミックに泳ぐシャチみたいな泳ぎ。
去年のリレーと変わらない、真琴の本来の泳ぎ。
次はブレの郁弥に繋がる。
真琴の手がプールの壁にふれ、郁弥が飛び出す。
リアクションタイムは0────。
最初に見たときより上手くなっている気がした。
きっと郁弥が、変われたからじゃないのかな。
迷いもためらいもない、まっすぐな泳ぎ。
さらに周りと差をつけ、旭に繋げる。
息の合った引き継ぎに息を飲んだ。
「……スタート、上手になってる」
「え!見ただけで分かんの?!」
驚く司にこくりとうなずく。
豪快で力強い泳ぎ。
旭の性質をそのまま表したみたいな泳ぎで、加速していく。
最後の泳者はハルだ。
壁にタッチし、旭が上を仰ぎ見る。
水しぶきの先へハルが飛び込む。
伸びやかな、イルカみたいな泳ぎ。
エネルギーを昇華させて、1条の光のようになる泳ぎ。
司も爽香も言葉を忘れて見とれていた。
そして堂々の1位でゴールするハル。
あちこちで弾けるような歓声が沸き立った。
「すごい!1位だよ!蒼!」
感極まった声で司が私の両手を握る。
爽香も声にならずに目を輝かせていた。
4人の方を見ると、ハルが3人にもみくちゃにされていた。
喜びではしゃぐその姿は、まるで去年のみんなを見ているようで。
────最高の仲間と最高の瞬間は、一つとは限らない。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
私は嬉しさではち切れそうな胸を押さえ、私は2人と笑いあった。
***
無事に記録会が終わり、帰り支度や片付けをする。
司や爽香と別れ、ふとハルがいないことに気づいてベンチに行くと、ハルと宗介が話しているのが見えた。
ハル、凛からの手紙、読んだんだな。
ハルの手元を見て気づき、ちょっと微笑む。
やがて宗介が立ち去り、ハルを探しに来た旭たちと合流した。
「ハルー、帰ろー!」
どこか遠くを見ていたハルに真琴が声をかける。
「……ああ!」
それに気づいたハルは手紙を鞄にしまい、階段状のベンチを下りてきた。
5人で、同じ歩調で進んでいく。
「ハル、なんか嬉しそうだな」
「……」
話さなくても、ハルの表情を見れば何となく伝わる。
高く晴れ渡る空を見上げ、私はふと思ったことをつぶやいた。
「なんだか、私たちって水みたいだ」
「……水?」
「どんなふうにだって変われる。決めつけたり、狭めたりしなければ、いろんな形を作れるんだ」
きっと何にでもなれる。いつか、私も。
まだ分からない未来の先を、ほんの少しだけ想像して。私は新しい仲間たちを見つめた。
1/1ページ