決意の眼差し
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それから、真琴が呼んでくれた救急車でハルを病院まで運んでもらって。
お医者さんに見てもらった結果。
「……低血糖?」
「そういえばハル、晩ごはん鯖缶のときあった……」
「まさか毎日それ食ってたのか?!」
思い出すような真琴に旭が驚いた声を上げる。
そのとき、真琴の連絡を聞いたおばさんも来てくれた。
ベッドの側の丸椅子に座り、点滴を打ってもらって寝ているハルを見る。
みんなも心配そうにしている中、ハルのまぶたがぴくりと動く。
そしてゆっくり目を開けた。
「ハル〜!」
「……よかった……」
安心した気持ちが溢れて、起き上がったハルに、真琴と2人で抱きついた。
「鯖ばっか食ってるからだぞ!心配させんな」
「……ハル、低血糖で倒れたんだよ。お医者さんが言ってた」
状況がのみ込めていないハルに、旭と郁弥が説明しながらベッドの端に座った。
「ハルちゃん、あんまり食べてなかったでしょう。だめじゃない、ちゃんと食べないと!」
「……すみません」
「心配したのよ?」
おばさんに注意され、ハルが少ししおらしくなる。
そのとき、旭が何かに気づいたような顔をした。
「なんか……お前も人間だったんだな、ハル」
「?」
「何言ってんの?」
不思議そうなハルの声と私の声が重なり、郁弥が聞いたとき。
「ああ、気がついたね。その点滴が終わったら帰っても大丈夫だよ。でも今日1日は安静にしててね。あとしっかり糖分を取ること」
「……はい」
お医者さんの言葉にハルが素直に答える。
「じゃあ お母さんお会計して、そのまま買い物に行ってくるから。皆はハルちゃんを送っていってあげてね」
「うん」
「はい」
おばさんに真琴と返事をする。
「アオ」
点滴が終わらないうちに、真琴が小さく呼びかけてきた。
話があることが伝わり、私はさりげなく旭と郁弥も連れて廊下に出る。
「真琴、どうかしたのか?」
「今日からハルのお母さんが帰ってくるまで、ハルの家に泊まろうと思うんだけど、どうかな?」
「お!何か楽しそう!」
「……いいと思う。また鯖しか食べないことになったら大変だしね」
「だとしたら、お母さんたちに許可をもらわないとな」
***
その後みんなでハルを送って。私は透兄に、ハルの家に泊まることを話した。
「んー……。まあ、遙と真琴がいるなら大丈夫か……」
「よかった。ありがとう、透兄」
「アオ姉、ハル兄の家泊まるの?いいなー」
「紺はまた後でな」
それから部屋に行って荷物を簡単にまとめ、真琴たちとハルの家の前で合流した。
ピンポーン。
真琴がチャイムを鳴らす。
寝てるのかすぐに来る気配がなく、旭がもう1回鳴らした。
「ハルー、おかず持ってきたよー!」
真琴が大きめの声を出す。
しばらくして玄関の明かりがつき、引き戸が開いた。
真琴の背中から、旭と郁弥と顔を出す。
「……みんなそろってどうした」
「ほい、これやる!おっじゃまっしまーす」
ハルに棒つきキャンディをぽんと手渡し、旭が遠慮なく入った。
「おじゃまします」
真琴たちと続いて入る。
案の定、ハルは戸惑った顔をしていた。
「じゃ、台所借りるから」
「……お、おい、なんで」
「そもそも倒れたのは、ハルの不摂生が原因だよね。またハルが面倒がって、いい加減な食生活をしないように監視するために、僕たちしばらくここに泊まるから」
「……はあ……?!」
少し楽しそうに郁弥が言う。
ハルが面食らっているとき、旭がのれんから顔を出して明るく言った。
「お前の母さん、あと3日したら帰ってくるらしいぜ?それまではー、まあ、あきらめろ!」
「安心して。おばさんとみんなの家にはOKもらったから」
「ハルが気にすることは何もない」
抜かりがないことを伝えながら真琴が家の中に入り、私も脱いだ靴をそろえてから続いた。
「……蒼も泊まるのか……?」
「前に尚先輩から、『マネージャーは選手の栄養管理も大事だ』って聞いたから。ハルは居間で待っててくれ」
「……俺のOK……」
「……聞いたらハルは断るだろ。あと私からも」
小さく笑って。
ぽんとハルの手にキャラメルを置いてから、私も台所に向かった。
***
「わ、アオってエプロン似合うな!」
「そ、そうか……?」
セーラー服を汚さないように、家から持ってきたエプロンをしめると、旭がそう言ってきた。
「ちょっと何これ、なんで皮むく前に切ってるんだよバカ旭!」
「お前だってどうするんだよ!このいびつな形!へたっぴか!」
「……皮むき、私がやるか?」
普段料理は家でしてるから、わりと慣れてる。
男子だなぁ、と思いながら声をかけたとき。
「わあああ!こぼれてる!ってあっつ?!」
「わっ!?危ないな!」
「真琴、早く手を冷やせ!」
吹きこぼれてる鍋に真琴が手を伸ばし、ちょっと大変なことになった。
***
夕飯の時間。
出来上がった肉入り野菜炒め(?)は、やや黒かった。それを見たハルが少し固まる。
「こっちは俺たちが作ったやつで、こっちはお母さんの。さ、食べよ」
みんなに箸を渡しながら真琴が説明する。
ちょっと声があわてているのはしょうがない。
「いただきます」
真琴とハルの間で手を合わせて、食べ始める。
そのときハルが少しためらった後、肉入り野菜炒めに箸をつけた。
「ハル、美味しいか?」
「……悪くない」
ハルがもう1口箸をつける。
表情から気持ちが伝わって、私は口元を少し緩めた。真琴もハルの気持ちが分かったのか、ほのぼの笑う。
「何その素直じゃない反応」
「お前もなー」
「何か言った?」
「何もねーよー」
今までの仕返しか、さりげなく旭が郁弥に反撃する。
「だいたい旭が短絡的すぎるんだよ。ほんと子どもみたい!今日だって変なカン違いしてさあ……」
「はあ?子どもみたいに泣いてたのはお前だろー」
「な……っ!あれはっ、あれは別に……そんなんじゃないし!」
真っ赤になりながら旭に言い返す郁弥に、素の表情が見えた気がして思わず目を止める。
「おーはいはいソウデスカー」
「何その言い方!」
「もーやめなよー」
賑やかだな。
そう思ったとき、"くすっ"という声が隣からも聞こえた。
「笑った!」
「笑ってない」
3人の目が集中する。
思わず隣を見たとき、旭が言った。
「いーや俺は確かに見た!アオも笑ってたろ?」
「え、」
「僕も見た!」
「……蒼はともかく俺は見間違いだろ」
「何だよー、お前らかわいいとこあるんだなー」
「……うるさい黙って食べろ」
ハルがそっぽを向いておみそ汁を飲む。
私は注目されたのと"かわいい"と久々に言われたのが照れくさくて、もくもくと食べていた。