春の始まり
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開けた窓から爽やかな風が吹き込む。
空とおそろいの色のカーテンがふわりとふくらんだ。
揺れる髪とスカートを押さえ、クローゼットに付いた鏡に映る自分を見つめる。
赤いリボンがついた、紺色の襟の白いセーラー服。
紺色のプリーツスカートを着た私。
最近スカートを履いてなかったから、足がすーすーする感覚が久しぶりだ。気恥ずかしさに少し頬を赤らめる。
これから通う中学校の制服。着ただけなのに、それだけで少し大人に近づいた気がした。
「蒼。支度終わったら、おじいちゃんとおばあちゃんに制服姿見せておいで」
「うん」
スーツに真珠のブローチを付けて、いつもよりおめかしした母さんに呼ばれた。
新品のリュックを背負って階段を下りる。
「わぁー、アオ姉セーラー服だ!」
この春から5年生になる、弟の紺がまつわりついてきた。きらきらした目がかわいい。
「紺、おじいちゃんたちに制服見せに行くから後でな」
「はーい」
ぽんぽんと紺の頭をなでてから仏壇に移動し、マッチに火をつけてお線香に移す。
鐘を鳴らし手を合わせた。
おじいちゃん、おばあちゃん。
今日から蒼は中学生です。
行ってきます。
「蒼、真琴が迎えに来てるぞー」
「はーい」
高校3年生になった透兄が呼ぶ声がする。
春休みにひょっこり帰ってきて、皆をびっくりさせていた。
よく通る声だから聞きとりやすい。
「あー!マコ兄は学ランだ!かっこいい!」
「紺も、中学生になったら着られるよ」
「いいなぁー早くなりたいなー」
玄関に行くと、学生服を崩さずに着た真琴が、紺の相手をしてくれていた。
「真琴、おはよ」
「おはよう、アオちゃん」
朝日をはじき屈託のない表情で笑う真琴は、小さい頃と同じ呼び名で私に挨拶を返した。
「"ちゃん"付けはやだ……」
「あはは。ごめんね、アオ」
これまた久しぶりの感覚にこそばゆくなって。
思わずむくれると、真琴は八の字眉を下げてほわりと笑った。
「ほらお前らも早く出ねーと。遙も迎えに行くんだろ?」
スニーカーのつま先を地面にとんとんとしながら、透兄が腰に手を当てて言う。
「うん、行ってきます。透青くん、紺」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
あたりまえの会話をかわして。
新しい日常へ1歩踏みだした。
***
私の家は、真琴の家の下の位置。
真琴は「じゃあ行こっか」と言って、そのまま石段を降りていく。
「ハルは家じゃないのか?」
「SCにいるみたい」
上のハルの家を指さして言うと、真琴はさらっと答えた。
「おばさんから聞いたのか?」
「うん、正解。アオには何でも分かっちゃうのかな」
隣に追いつくと、ちょっと照れたように頬をかきながら真琴は言う。
私は首を傾げながら答えた。
「どうだろう。エスパーじゃないから分からないぞ?」
「あはは、そうだね」
***
SCのプールに向かうと、ちょうどハルが泳ぎきったところだった。
コースロープに片腕をあずけ、ゆっくりと大きく息をしている。
「ハル、おはよ」
飛び込み台の近くにしゃがみこんで声をかける。ビー玉みたいな瞳と目が合った。
「おはよう、ハルちゃん」
「……"ハルちゃん"はやめろってば」
真琴も手を差しのべて声をかける。
そんな真琴にハルは、いつものように横を向いて言う。
「ごめんごめん、ハル。入学式遅れるよ?」
そう言われ、ハルは真琴の手をつかんで水から上がった。小さな頃からお決まりの流れだ。