迷いと呪縛
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灰色の曇り空が続く翌日。
朝早くに尚が3年生の教室に行くと、目当ての人物が机に突っ伏していた。
「キャプテンがサボリとか、やめてほしいんだけど」
「うるせえ……」
悩んでいる理由は知ってる上で、わざと軽口をたたいた。きっと、郁弥のことだ。
「いい加減、わざと突き放すのやめたら?そんなヘコむならさ」
夏也の机の端に腰を下ろしながら言うと、「……なんでバレてんだよ」とぼやく声が聞こえた。
「夏也がヘコむ理由なんて、知れてるよ」
「うるせえなー……。いいんだよ、これで。……じゃないといつまでも、俺の後ろにいるままだろ」
そう言ってやると、案の定そんな返事がきた。
「旭はどうだ?」
「怯えてる。でも、大丈夫だと思う。持ち前の強さと向上心があるから」
「そうか……。あいつはいいキャプテンになるぞ、きっと」
「真琴は?」
「……迷ってる。でも、吹っ切れたとき強くなるんじゃないかな」
「蒼は?」
「探してる。自分が何をすべきなのか。普段口に出さないけど、皆と正面から向き合おうとしてるよ」
「遙は?」
「天才肌。あんな綺麗なストリームラインは、めったにないよ。……でも、リレーになるとガタガタ」
「もうちょっと周りを見られればなー……」
「郁弥と同じだね」
「……郁弥は?」
「1番疲労が少ない泳ぎ方してる。だからロングでもスピードが落ちない」
「……すげーだろ、俺の弟」
つぶやくような大きさだけど、誇らしそうな響きはしっかり伝わった。
「速くなるよ、郁弥」
「……頼んだ」
兄弟の間にすれ違いが起きたのは蒼もだけど。
彼女と違い、向き合って話もできない不器用な兄貴に、俺はうなずいた。
***
それから、ぎくしゃくとした日々は続いた。
リレーのタイムは伸びず、むしろ遅くなっているようで。
司と爽香がいなかったら、私も落ち込んだままだったかもしれない。
ハルにちゃんと食べてるか聞こうとしても、するりとかわされてしまって。
真琴ともなぜか話せずじまいで。
不安を抱えたまま、練習試合は明日に迫っていた。