波紋
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練習の最後に尚先輩はこう言った。
『リレーは引き継ぎの上手さでタイムをかなり縮められる。でも今の君たちじゃ、個人のほうが速いよね』
確かにその通りで、みんなの表情からはバラバラな空気が伝わっていた。
「ま、でも、そのうちなんとかなるだろ」
「……引き継ぎは合わなくてもいい。個人のタイムが速ければ問題ないよ」
それぞれの歩幅で帰り道を歩いていく。
空は夕焼けの色に染まっていた。
時折通る車の音を聞きながら、私は真琴のほうを見やった。
あれから元気がないように見える。
「真琴、真琴」
「あっ……、ごめんアオ。なに?」
「……元気、ないぞ」
「え、何ともないよ」
……なんとなく理由は想像してる。
でも何ともないと笑う真琴を、それ以上問い詰めることは、何だかできなかった。
「じゃ、俺と郁弥こっちだから」
「何で一緒に帰ることになってんの」
「同じ方向だからに決まってんだろ」
曲がり角で旭と郁弥と別れる。
性格が真逆に近そうな2人だから、ケンカしないか心配になりつつ私は手を振り返した。
夕日が海を照らして、オレンジと紫が混ざったような色合いに染めていた。
いつもと違う、別々のテンポ。
私は、ハルの後ろを歩く真琴についていくように歩いていた。
ハルは後ろ姿だといつも通りに見えるけど、真琴は何か考えごとをしているようで。
「……真琴、何があった」
ハルも、真琴がいつもと違うことに気づいていたんだろう。
石段に足を乗せた後、真琴に問いかけた。
「何もないってば」
「嘘つくな!」
怒ったように声を張ったハルに、笑顔だった真琴が迷子のような表情になる。
そしてうつむいた後、また笑ってみせた。
「ほんとに、何にもないよ。じゃあハル、アオ、また明日」
そう言い、石段を上がって行ってしまった。
……真琴は、本音を笑顔に包んで隠してしまう。
それが上手いから、つい何も聞けなくなりそうになる。
「……ハル、また明日な」
「……ああ」
私もハルに片手を挙げ、自分の家に向かって石段を登っていった。
心に、形がない灰色の霧みたいな思いが広がっていくように思えた。
***
翌朝ハルの家の玄関に着くと、私は小さな違和感を覚えた。
……真琴が来てない。
めずらしいな。いつも同じくらいなのに。
まあ、いつもハルの家で落ち合うから、待っていれば来るかな。
そう思ったけど、真琴が来ないままハルが家から出てきた。
「おじさんのケガ、大丈夫なのか?」
「心配するほどじゃないって」
昨日透兄から聞いたことが心配で聞いてみると、ハルは答えながら周りを見た。
「真琴、寝坊したのかな」
「……さあな」
2人並んで真琴の家に行ってみると、真琴は日直らしく、朝早くに家を出たらしい。
そのことに少し驚いた。
いつもなら話すのに……。
ハルも意外だったのか、少し目を丸くしていた。
灰色の曇り空だからか、海も暗い色合いに見える。
1人欠けてるだけで、なぜか少しさみしい気がした。
***
お昼は司たちと食べた。
今日のお弁当はご飯と小さなコロッケ、マカロニサラダとうさぎのりんご。
「蒼のお弁当きれいだよねー。お母さん料理得意なの?」
「うん。作り置きしてくれるから、温めて詰めるだけでいいんだ」
のりでぐるぐる巻きになったおむすびを頬張りながら聞く司に答える。
「……お母さん、写真家さん、だっけ?」
「うん。だからあんまり家にいない」
爽香のお弁当は少し小さめ。
「親が普段いないって、やっぱり大変?」
「そうでもない。いない間は透兄と紺とやることを分担してるから」
「お兄ちゃんと弟いんだ!あたしも兄貴2人いるよ。爽香は?」
「……私、兄弟いないから。ちょっと羨ましいな」
……そういえば、ハルは留守番中のお弁当とご飯、どうするんだろう……。