再会のフィナーレ!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
高校生活最後の1年。俺は地元に帰り、鮫柄学園に転校した。
凛との再会。新しいチームメイトとの出会い。水に飛び込めば独りで、水泳は個人競技だと思っていたのに、気がつけば色んな縁を持っていた。
故障は隠しきれず、紫色に変色した右肩を凛に見られたことで、俺は全てを打ち明けた。
無理をすれば二度と泳げなくなるかもしれない。それでも構わない。凛と本当の仲間になりたい。凛と、似鳥と、御子柴と、メドレーリレーを泳ぎたい。
去年は蚊帳の外で見てるだけだった、地方大会の舞台に、自分が立っている。1人じゃなく、仲間たちと共に。
必ず泳ぎ切って、アンカーの凛に繋げる。その一心で、俺は進む。後悔の無いように、手加減なんてせずに。
しかし、最後のターンの後、激しい痛みが肩を襲った。
「――ッ!」
耐え切れずに、口からごぼりと空気が抜ける。プールの底に沈みかけながら、これで終わりなのか、と思ったとき。強く名前を呼ぶ声が、耳に届いた気がした。
「宗介ーーーーーっ!」
「山崎くーーーーん!」
それは、暗い水底に飛び込んでくる、光の矢のような声。俺の手を掴んで、思い切り引っ張り上げるような、凛と星海の声。まだ終われない。目が覚めたような気持ちで、俺は水を蹴った。
――君の泳ぐところ、また見に行くから! 約束だよ!
ああ、本当に、お前は来てくれたのか。
星みたいに輝く目。無邪気に笑ったり、ガキっぽくむくれたり、大人びた雰囲気をまとったり、ころころ変わる表情。聞いてて落ち着く、澄んだ歌声。俺に色んな世界を見せようと、手を引いて進む小さな背中。
目を閉じれば、全部思い出せる。
プールの壁に手をついて、飛び込んでいく凛を目で追う。凛に繋ぐことができた安堵感と、まだ終わっていない勝負への緊張感。仲間たちと一緒に声を枯らす勢いで、リレーを泳ぐ仲間を応援するなんて、昔の自分は想像もできないだろう。
メドレーリレーの結果は、2位だった。1位は取れなかったが、俺は見つけたかったものを見つけることができた。勝ち負けよりも、大切な何か。笑い合う仲間たちに囲まれて、俺も自然と笑みを浮かべていた。
***
山崎くんが溺れかけたとき、心臓が潰れるかと思って、気づけば声を張って名前を呼んでいた。
リレーを泳ぎ切って、チームメイトの人たちと嬉しそうに笑い合う彼を見てると、ウルっとくる。彼が夢を叶えられたことが、自分のことみたいに嬉しい。ぽろぽろ頬を伝う涙が止まらなくて、私は念のため持ってきたタオルを引っ張り出していた。
来てよかった。彼が泳いでるとこ、また見られてよかった。
満たされた気持ちを抱えて、会場の廊下を歩く。自販機を見つけ、フルーツティーを買おうとボタンを押したとき、後ろから声をかけられた。
「星海?」
最近は電話で聞いていた、懐かしい声。振り返ると、そこには山崎くんが立っていた。
「久しぶり、山崎くん」
「あぁ。本当に、来てくれたのか」
「もちろん。せっかく日時と会場教えてもらったんだから」
買った飲み物を持って、ベンチに座って話をする。話したいことはあったはずなのに、さっきのメドレーリレーの余韻が抜けなくて、つい静かになってしまう。でも、気まずい沈黙では無かった。
「星海」
「ん?」
「好きだ」
真っ直ぐ顔を見た状態で、唐突に言われた言葉を、思わず取り落とす。え、今の聞き間違いじゃない? 試しに頬をつねってみると、ちゃんと痛かった。どうやら夢ではないみたい。
「何で頬伸ばしてんだ」
「夢かと思った」
「夢を叶えたら、ちゃんと返事するって言っただろ」
「"返事ができる気がする"じゃなかったっけ」
「……そうだっけか」
「本人が忘れてんのどうかと思うよ」
マイペースなところがある彼らしくて、クスッと笑いがこぼれる。でも山崎くんの目が真剣さを取り戻したから、ゆるんでいた空気がきゅっと締まった。
「……お前のそういう素直なところとか。真っ直ぐなくせに、踏み込み過ぎずに隣にいてくれたところに、気づいたら惹かれてた」
心臓が速いリズムを刻み出す。頬が熱い。彼から目が離せない。目を離したくない。
「お前への気持ちに、答えは出た。……まだ、間に合うか」
「余裕でセーフだよ、こんにゃろーっ」
同じ嬉し涙だけど、さっき観客席で流れていたのとは、また違う涙。潤んだ目を隠すように、山崎くんの胸に軽く頭突きをすると、彼は左腕で抱きとめてくれる。
海中に伝わるソングのような、想いが通じ合う音がした。