関心のインテルメッツォ!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最初は、小さな違和感だった。
右肩に感じ始めたそれを、誰にも伝えずに、俺は厳しいトレーニングを続けた。気のせいだと思っていた。
しかし、すぐに消えると思っていた違和感は、日増しに大きくなっていく。それを振り切るように泳ぎ、トレーニングをする毎日。ダンベルを取り落とすほどの痛みを感じれば、アイシングで誤魔化した。
この程度で音を上げてどうする。
世界で戦うには、まだまだ足りない。
そんな心とは裏腹に、身体の方はもう無理だ、もう動けないと悲鳴をあげていた。
自分の武器の1つである柔軟な肩。それが、リハビリをしても完全に治らないほどに壊れた今。試合に出られないことや、練習を見学することが増えた。俺よりタイムが遅かった奴らが、どんどん俺を追い越していく。焦りや苛立ち、悔しさが、心を蝕んだ。
自分の夢は、もう叶わない。
高1の夏に、俺はとうとう気づいてしまった。
久しぶりに噴水の広場に行ったのは、暇だったからだ。
数ヶ月ぶりに見た星海は、一瞬別人かと思うくらい、大人びた表情で歌っていた。
前は子どもっぽい明るさがあったはずなのに、今は真に迫るような雰囲気が、あいつを包んでいる。涙をぬぐうようなギターの音色に合わせて、手を差し伸べるような歌声が響いた。
朗らかに通っていた声は、透明感と深みを増している。聞いてて落ち着くようなその歌声に、惹き付けられると共に、孤独感もあった。
こいつも、俺より先に行っているのか。
俺がオリンピックを目指していたことを、知っているあいつには、もう会えない。そう思って、背中を向けて歩き出す。人混みに紛れてしまえば、何も無かったかのように終われる。
「まっ、待って!」
なのに、俺の腕をしっかり掴む小さな手が、怯まず真っ直ぐに見上げてくる目が、そうさせてくれなかった。
***
「山崎くん、携帯の番号とメアド教えて!」
水族館に連れて行かれたあの日、謎の気迫を込めた星海に流されるように、連絡先を交換した。それ以来、星海と出かけることが増えている。1週間か2週間に1回くらい。
自分でも何故か分からない。ただ、前と変わらない明るい態度で、俺を先導していくあいつを見ていると、不思議と気が紛れた。数ヶ月会わなかったのに、星海が趣味とか当たり障りの無いことしか聞いてこないのも、理由の1つかもしれない。
色んな音が混ざり合うゲームセンター。俺は音楽の腕前は中の下だが、星海はギターだけじゃなく、太鼓も得意だった。クレーンゲームで、ジンベエザメのぬいぐるみ(気の抜けたような顔をしていた)を取ってやると、嬉しそうに頬ずりしていた。
星海がよく行くというCDショップ。たくさんのCDがある中で、星海お勧めのシンガーソングライターや歌手やバンドを知った。
電波塔なのに、観光名所の1つになっている東京タワー。東京の街を一望すると、胸のつかえが取れるような、すっとした気分になれた。
初めて行ったカラオケ。コーラ等の飲み物が飲み放題ということに感心すると、星海はどこか微笑ましそうに笑っていた。
「山崎くん歌上手いね!」
「自分じゃよく分かんねえ」
タンバリンを叩きながら目を輝かせる星海に、デンモクを渡しながら答える。知っている曲は多い方ではないから、星海が歌うのを聞くことが多かった。
「星海 詩、オンステージ!」
備え付けられた小さいステージに、星海はノリノリで上がる。照明の下で楽しそうに歌うあいつが、俺には目がくらむようだった。
「……なあ、星海」
「どうしたの?」
「……お前は、もし自分が歌えなくなったら、どうする?」
気になって問いかけると、星海はぱちぱちと瞬きをする。考えたことが無かったようで、うーんと唸りながら、首を傾げた。
「また歌えるように頑張るかな。ボイストレーニングとか」
「……頑張っても、歌えなかったら?」
「いつか歌えるようになるまで、できることをやるよ。……あれ。もしかして私、何か試されてる?」
「いや、ただ気になっただけだ」
素直にはっきり言えるあいつは、やっぱり眩しくて仕方なかった。