卵のトロイメライ!
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星海 詩。ぴかぴかの高校1年生。
最近、新しい友達? ができた。疑問形なのは、たまにしか会えないから。でも話すのが楽しいから、私は友達だと思ってる。
お休みの日。いつもの噴水の縁に腰かけて、膝の上に書きかけのノートを広げる。携帯音楽プレーヤーのイヤホンをつければ、お気に入りのソングが流れ出した。
「うーん……」
気分はいい感じだけど、ペンがなかなか進まない。頭の中にある引き出しを、いくら開けても上手い言葉が見つからない。海洋生物の図鑑だけじゃなくて、もっと色々な本を読んだ方がいいかなぁ……。
「むー……」
「何悩んでんだ?」
イヤホン越しに聞こえてきた声に、顔を上げる。そこにはジャージ姿の山崎くんが立っていた。走り込みでもしてたのかな。イヤホンを外してから、私は返事をした。
「久しぶりー、山崎くん。作詞に挑戦してたんだけど、上手くいかなくて困ってた」
「そうか」
「あ。ねぇ山崎くん。私の書いた歌詞、見てくれない?」
「……俺は歌に詳しくねえから、アドバイスなんかできねえぞ。他を当たれ」
「客観的な感想が欲しいなーと思いまして」
上達のためにも、色んな人の意見は聞いておきたい。そう思ってノートを渡すと、山崎くんは何だかんだ言いつつ受け取ってくれた。真面目そうな顔で、一通り目を通してから、私にノートを返す。
「……読んでて小っ恥ずかしい」
「えええええ!?」
「言葉がストレート過ぎるし、同じ言葉を繰り返し過ぎだ」
「想像してたよりも手厳しい!!」
作詞の道って、長くて険しいんだな……。ノートで顔を覆って、しょんぼりうなだれると、隣に座った山崎くんが小さく声をかけてきた。
「……とりあえず、語彙を増やすのがいいんじゃねえか」
「いっぱいほんよみます……」
その声に、どことなく気遣うような気配を感じて、沈みかけていた気持ちが少し浮上する。
真面目そうで、ちょっと優しいところも見える。1ヶ月に1回か2回くらいしか会わないほど、水泳に集中してる努力家で、がっちりした大きい身体がその証拠。山崎くんはそんな人だ。
「……ところで、何聞いてたんだ?」
「これ? ザトウクジラの歌声だよ」
「……クジラって歌うのか?」
「好きな子にアピールしたり、仲間と情報を伝え合ったりするために歌うんだって。まだ研究中らしいけど」
音源は、海洋生物学者の叔父さんがくれた。私が海の世界を好きと言ってから、叔父さんはよく貝殻とかシーグラスとか、海で見つけた綺麗な物を送ってくれる。おかげでコレクションが豊かだ。
「聞いてみる?」
「……」
イヤホンを差し出してみると、興味を持ってくれたらしく、山崎くんは黙って受け取る。イヤホンを耳にはめて、再生した音を静かに聞いていた。どんなものか、ふれて確かめるみたいに。
「……あんまり歌っぽくないんだな」
「まあ動物の鳴き声だからねぇ」
学者さんはこれを聞いて、人間の歌を思い出したらしい。私もクジラについて勉強したら、もっと違う風に感じられるのかな。
「私、クジラみたいになりたいなぁ」
「……何でだ?」
「クジラの歌は、3000kmまで届くって言われてるんだって。自分の歌が、それくらい遠くの人まで届いたら、素敵だよね!」
この、どこまでも広がる青い空の下で、まだ見ぬ人たちと自分の音楽が出会う。そして、名前も知らない誰かが、自分の音楽を好きになってくれたら、そんな嬉しいことは無いんじゃないか。そう考えると、ワクワクしてくる。
「……ロマンチストだな」
「いいじゃん」
山崎くんから音楽プレーヤーを受け取るとき、いつもより少し近くに、山崎くんの顔があった。そのとき、私は新しい発見をした。
「山崎くんの目ってキレイだね」
「……は?」
「リゾート地の海みたい」
「……お前、よくそんな恥ずかしいこと平気で言えるな」
「ダメ? いいとこ探しは得意だよ」
「……ハア。お前といると変な気分になる」
「えっ悪口?」
ふいと私から目を逸らして、山崎くんは立ち上がる。もう帰っちゃうのか。名残惜しいけど、山崎くんにもやることがあるから仕方ない。次に会えるのはいつかな。そう思っていると、山崎くんが3歩くらいで足を止める。
「……お前、再来週の土曜日、空いてるか」
「? うん」
「……××での水泳大会に出る。興味があったら来い」
「……! 行く! 何時から?! 山崎くんは何泳ぐの?! あっ、応援うちわ作ろうか!?」
「……やっぱ来なくていい。騒がしくされるのはごめんだ」
「待って待って待って。うるさくしないから、何時に始まるかと何に出るかだけ教えて〜!」