転生したら天国でした.3
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その人影に、最初に気づいたのは、マコと私だった。奥の暗闇から抜け出すように、ゆっくり廊下を歩いてくる人物。マコが「ひっ」と息を呑んだ時、深く被った帽子の下から赤い目が覗いた。
「まさか、ここでお前らと会っちまうとはな」
帽子の後ろをパチンとはじく仕草に、渚とマコがハッとしたように声を上げる。ゴーグルのゴムを引っ張ってはじくのは、凛の癖だった。
無邪気に飛びつく渚や、懐かしそうに声をかけるマコを気にも留めず、凛はハルを睨む。
「ハル。お前まだこいつらとつるんでるのか。進歩しねーな」
「そういうお前はどうなんだよ。ちょっとは進歩したのか」
「なら、試してみるか。勝負しようぜハル」
お互いにしか分からない会話をして、凛とハルはプールの方へ向かう。置いてけぼりになった私たちは、2人を追いかけた。明かりがつかないプールサイドで、凛とハルが勢いよく服を脱ぎ捨てる。鍛えられた上半身が顕になり、私は緩みそうになった口元を、とっさに両手で押さえた。
「ここで泳ぐの!?」
「……ちょっと待って。ハル、それはダメ! 千花もいるのに!」
「わっ」
大きくてしっかりした手に両目を塞がれ、温かい暗闇に包まれる。2人とも水着を着てるのを知ってるから、私に恥じらいは無かったけど、何も知らないマコからしたら仰天ものだろう。
「って、朝からずっと履いてた!?」
「凛ちゃんも!」
「早くあれ止めないと!」
「別にいいんじゃない?」
「おい!」
あ、ここのやり取り。テンポがよくて、初見のときから大好きだったな。懐かしい。何も見えないから、2人の声がよく聞こえる。耳が幸せ。
結局、廃墟のプールに水が入ってるわけも無く、3年ぶりの2人の勝負は不発に終わった。気づかず飛び込み台を蹴ってたら大惨事だよね。2人が思いとどまってよかった。
「そういやお前ら。これ、見つけに来たんだろ」
いつから持ってたのか、凛がトロフィーをかざす。透きとおった青いガラスみたいで、綺麗な素材。上に飾られた、飛び込もうとする人の姿が、翼を広げようとする鳥みたいに見えた。
「俺はもういらねーから。こんなもん」
唾棄すべきものを見るような目つきで、凛がトロフィーを睨んだとき、私の身体が勝手に動いた。ふっと凛の手が離され、ゆっくり落ちていくトロフィーと床の間に、両手を滑り込ませる。お腹ちょっと打ったかも。じんじん来る痛みに少しうめきながら、私はぽかんとしていた。
トロフィーが床にぶつかっても壊れないことは、アニメで見て知ってたはずだ。なのに、何で私は動いてた? 自分でも驚くくらいの機敏さで。
間一髪で掴んだトロフィーを大事に抱えて、私はゆっくり起き上がる。ふう、と息を吐き出したとき、不意に凛と目が合った。
どこか無防備な驚きで、見開かれた目。数秒間だけ見えたその色は、冷たく陰り、興味を失ったように視線がそらされた。左のポケットに手を突っ込んだ凛は、振り返らずにスタスタ歩き出す。
「千花! 怪我してない?」
「とりあえず大丈夫」
心配そうに駆け寄ってくるマコに返事をして、立ち上がる。私の胸に抱えたトロフィーを、ハルは何かをぼんやり考えるような目で見つめていた。
ハルが服を着るのを待ってから、トロフィーを埋めた目印を探しに行く。そこには目印の代わりに、掘り出されたクッキーの缶が置きっぱなしになっていた。
中に残されていたのは、私があの日の大会で取ったという金メダルだけ。宝物のペンダントらしきものは、どこにも見当たらなかった。