転生したら天国でした.2
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「……よし!」
腕まくりをし、腰に手を当て、私は部屋の中央で気合を入れる。
今日は土曜日。せっかくなので、この部屋を綺麗に片づけたいと思う。ダンボールの中身を確認して、いらないものは捨てていこう。
手始めに1つ開けてみると、昔使ってたらしいおもちゃやぬいぐるみが出てきた。これは物置でいいかな。白いアザラシや羊のぬいぐるみ等、気に入ったものは少し手元に残して、2階の物置に運ぶ。
「? 何だろ、これ」
その中に、1つの箱を見つけた。開けてみると、茎が輪っかになってるシロツメクサの押し花と、金色の折り紙で作ったメダルが入っている。メダルには、ちゃんと首にかけられるように、赤いリボンがついていた。
茶色になった押し花やシワがある折り紙なんて、捨てても問題ないと思う。でもなぜか、ゴミとして扱う気持ちにはなれなかった。箱にしまい直し、物置行きのダンボールの中にそっと入れる。
「えーと、こっちは……」
次の箱を開けると、そこにはノートやらプリントやらがたくさん。よく見れば、ちょっとへたっぴな平仮名の字で、私の名前と「1ねん 3くみ」の文字が書いてあった。
さてはアイちゃんこと似鳥 愛一郎と同じくらい、片づけが苦手で物が捨てられないタイプか!?
「いらんいらん、捨てろ捨てろ」
燃えるゴミの袋に、ぽいぽい放り込んでいく。朝顔の日記とか授業のノートとか、絶対使わない。読書郵便とか劇の台本とか、前世を思い出す物もあったけど、サッと目を通してから捨てる。ハルちゃんとマコちゃんに関係してるものは残す。
他のダンボールの中身も、ほとんど昔のノートとか教科書だった。紐で縛ったり、新しいゴミ袋を用意したりしながら、ダンボールを1つ1つ畳んでいく。すると、1冊のノートが出てきた。
「これ……日記帳?」
思わず手が止まる。この世界で過ごした記憶が無い私にとって、必要になるだろう物だった。"この世界の私"が、誰と過ごして、何を感じていたのか、これに書いてある。
とりあえず日記帳を机に置き、私は片づけと日記探しを再開した。隠れていた床が見えてきて、部屋がどんどんすっきりしていく。
見つかった日記帳は2冊。小学校のときの夏休みの絵日記と、それとは別の日記。あとアルバムが4冊。ジュースで一息つきながら、私はページをめくった。
『〇がつ ✕にち はれ
今日は ハルとマコと川であそんだ。水がつめたくてきもちいい。ハルはおよぐのがすきだから、とてもたのしそうだった。マコもたのしそうにわらってた。2人がうれしいと、わたしもうれしい』
『〇月 ✕日 雨
今日は雨なので、ハルとマコとはあそべない。かみなりが鳴ってたから、マコが泣いてないか、しんぱい。明日は、晴れるといいなあ。
ひまだから、今日は『ピーターパン』を読んだ。雨の音をききながら、本を読むのは、なんだかいい気分』
『〇月 ✕日 晴れ
今日は絵本の『スイミー』を読んだ。黒くて泳ぐのが早いスイミーは、ハルみたいだと思った。「ハルみたいだね」ってハルとマコに見せたら、ハルはちょっとうれしそうだった。マコは「ほんとだ!」って笑ってくれた』
「ハルとマコ……」
私が2人をどう呼んでいたか、ヒントが1つ手に入った。ハルはともかくマコは、知らない人が聞いたら、女の子って勘違いしやすそうだな。
夏休みの絵日記には、家族との思い出の他に、大体ハルとマコと渚とのことが書いてあった。女の子の友達らしい名前もチラホラ出てくるけど、特に気になる名前がある。
『〇月✕日 晴れ
おじいちゃんちに泊まりに行った。おじいちゃんもおばあちゃんも優しいし、ごちそうが出るし、花火ができるから好き。カエとも遊んだり泳いだりできるから好き』
「この"カエ"って誰だろ。地元の子かな」
もう1冊の日記には、3人の他に、凛や旭や郁弥が出てくる。もちろん夏也先輩と尚先輩も。
アルバムを開けば、そこは公式SSRブロマイドの山でした。
「ホントなんっっで私にはこの時の記憶が無いのかねぇ!? こんなスーパーベリーキュートでラブリーなエンジェルズを生でタダで至近距離で拝めるなんて地球が真っ二つに割れるより有り得ないことなんだけど!!?」
ベビー服を着て、すやすや並んで寝ているハルとマコ、あと私。
水色のスモックを着て、クレヨンを握って絵を描いているハル。積み木を積んでいるマコ。あと寝そべって絵本を読んでいる私。
黄色い帽子を被って、黒いランドセルを背負っているハルとマコ。あと赤いランドセルを背負っている私。
黒い学生服を着ているハルとマコ。あとセーラー服を着ている私。
ハルは大体無表情だし、マコは大体楽しくてたまらなそうに笑ってる。私は何も考えてなさそうな、のんきな笑顔だ。正直羨ましい。今は絶対、こんな当たり前みたいな顔して、この2人と手を繋いで笑うなんてできない。
「ホントにこの町で、一緒に育ってきたんだな……」
どうせ転生するなら、過去の記憶もある方がよかった。思い出の共有ができないのは、何か不安になる。これからの時間は一緒に過ごせるから、一分一秒余さず頑張って頭の中に刻み込むけども。
「赤ちゃんの頃のビデオとか無いかな。後でお母さんに聞いてみよ」
やっぱり可愛い盛りを見るのは諦めきれないので、探すことにする。私にとっては、この世の全てがそこにあるので。