拗らせブルーマーリン!
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──────── 夢を見た。
「楓も千花ちゃんも、どんどん泳ぐの上手くなるな。教えるのが楽しいよ」
カエとキヨくんが作ってくれた、金色に光るメダル。折り紙でできてるけど、私にとっては本物の金みたいに素敵に見えた。赤いリボンがついてるメダルを首にかけて、私はクルクル回る。
カエと泳ぐのが楽しくて。キヨくんが教えてくれるのが嬉しくて。2人と過ごす時間は、ハルやマコと一緒にいる時とはまた違う楽しさがあって、私は好きだった。
キヨくんの、心がほっとする笑顔。褒めてくれる優しい声。頭を撫でてくれたり、手を繋いでくれたりする、大きな手。キヨくんの全部が、キラキラして見えて、大好きだった。
「キヨくん」
「どうした? 千花ちゃん」
しゃがみ込んで目線を合わせてくれる彼に、どきどきしながらナイショのお話をする。口元に手を当てて、キヨくんの耳元でぽそぽそ話した。
「あのね。千花、おおきくなったら、いい子になるよ」
「やさしくて、がんばりやで、うんとすてきな子に、がんばってなるよ。だからね……」
「千花がおおきくなったら、千花のこと、キヨくんのおよめさんにしてほしいな」
優しくて頑張り屋のいい子には、とっても素敵なごほうびがあることを、私は絵本で知っていた。だから、そんな子になれば、キヨくんのおよめさんになれるかもしれない。そんな希望を持って、私は彼に伝えた。
「そう言ってもらえるのは、嬉しいな」
キヨくんは私の頭を撫でて、優しく微笑む。
「千花ちゃんは、これから大きくなるうちに、いろんな人と出会うよ」
「たくさんの誰かと出会って、10年くらい経っても、その気持ちが変わらないままだったら。もう一度、俺に伝えてくれるかな?」
キヨくんが差し出した小指を、私は自分の小指できゅっと握り返す。それから、満面の笑顔でうなずいた。
「うん!」
お姫様だって100年間、王子様を待ち続けていたんだから、10年なんて大したことないと思っていた。
***
「……私、清文さんが初恋だったんだな」
サラダチキンとキャベツのサラダをもしゃもしゃ食べながら、私は夢の内容を思い出していた。
サラダチキンはハーブの風味がして美味しい。昨夜のうちに仕込んでおいたフレンチトーストは、きつね色の焦げ目がいい感じだ。プリンみたいにトロッとしてて、ほんのり甘い。インスタントのポタージュスープを飲めば、お腹がほっこり温まった。いい朝ごはんだ。
「さて、大学行くかぁ」
好きな音楽をかけながら洗濯物を干して、食器を洗って、ノートや教材を入れたリュックを背負う。今日もまた、新しい1日が始まった。
***
「よお」
「……何でいるの!?!?」
「ひっでえな。いちゃ悪ぃのかよ」
午後の講義がお休みになったから、早めに帰ろうとしたとき。正門のところに、見覚えのあるオレンジ色のハネっ毛が見えた。コラ画像かと思った。
いや合同学園祭で再会したときに、つい大学名を伝えちゃったけど、何で来た?? 暇じゃないだろ君は。
「え、ほんとに何で?? 練習とかは?」
「今日はオフ」
「オフならゆっくり過ごした方がいいんじゃ」
「どう過ごそうが俺の勝手だろ」
「ごもっとも」
体を縮めて、そろりと横を通り過ぎようとする。でもその前に、金城くんの長い足が、若干勢いをつけて通せんぼしてきた。ワルっぽい仕草に、思わず肩が跳ね上がる。
「ちょっとツラ貸せよ」
不良じゃん。昔はあんなに可愛かったのに。
とりあえず大人しくついて行くことにした。胸ぐら掴まれたりしたら泣いちゃう自信がある。
「……あのー、金城くん」
「あ゛?」
「いや呼んだだけなのに凄まないでよ」
俺様何様楓様じゃあるまいし。横暴な態度にムッとして、私は口を開いた。
「い、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと分からないよ。圧で人を動かせると思ったら大間違いだからね」
震えそうになった声をごまかしつつ、身構える私の虚勢なんて、彼にとっては取るに足りないものだろう。狼に威嚇するハムスターの気分になっていたとき、金城くんが目を逸らしながら言った。
「……昔みたいに呼べよ」
「……カエ?」
「ん」
何か金城くん……カエが、まんざらでもなさそうな反応を見せた。あれ、金城 楓ってこんなキャラだっけ。もっとこう、オラオラギラギラしてる感じのキャラじゃなかったっけ。1期のやさぐれ凛ちゃんみたいな。
「えーと、何か用事でもあった? わざわざ大学まで来るくらいだし」
「連絡先教えろ」
「あ、はい」
メッセージアプリで連絡先を交換する。すごい、金城 楓の連絡先だ。妙な感動がこみ上げてくる。
「……お前、休みの日って何してんの?」
「へ? 本読んだり、音楽聴いたり、出かけたりしてるけど……?」
「男いんのか?」
「いないよ!? そんな暇無いし!」
てっきりこれで用事は終わりかと思ったら、カエが話しかけてきた。彼氏なんているわけないし、作る暇も無い。ハルたちを推すのに忙しいので。
「七瀬とはどうなんだよ」
「ハルは大事な幼なじみだよ。ハルが私の彼氏なんて恐れ多い。ハルは全世界をその自由で優雅で力強い泳ぎで魅了すべく産まれた水の愛し子。私が独り占めしていい存在じゃないし人間1人の彼氏で収まる器じゃないんだよ敬いたまえよ」
「長ぇ」
「ごめんしゃべり過ぎた」
いけない、うっかり前世からの熱量で語ってしまった。お口にチャックします。カエは不快そうに眉間にシワを寄せていた。今世で肺活量が鍛えられているとはいえ、これはドン引きされたか。
「……そんなに七瀬がいいのかよ」
「いいって言うか、推しなので」
何でそんなこと聞くんだろう。幼稚園時代と小学生のとき、一緒に遊んだり泳いだりしただけの仲なのに。そもそもカエが、私のことを覚えてたこと自体びっくりなのに。
顎を掴まれ、顔を上げさせられる。びっくりするくらい真剣で、どこか少し苦しそうな目で見つめられて、体がこわばった。
「だったら俺を推せよ」
「……へ?」
「勝つのは俺だ。七瀬じゃねえ」
カエの意図が分からない。どうしてそんなことを言うのか。どうしてそんな表情をするのか。彼が手を離した後も、戸惑う気持ちは消えなかった。
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