【番外編】心に残る歌を教えて.3
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「全員に紹介したい。うちの音楽家見習いとして、ここに置かせてくれ」
一時期、船を降りていた仲間――シャンソンは、まだ10にも満たない娘の手を引いて帰ってきた。シャンソンと同じ、綿のようにふわふわとした、淡い茶髪。びっくりしたように見開かれる、黒すぐりに似た目。柔らかそうな、ちっこい体。小鳥のようなその子どもは、その印象の通り、いい歌をたくさん紡いだ。
「優しくて、素敵な歌声ね」
トーンダイアルから流れる歌を聴きながら、ルージュがふわりと微笑む。
『ベイビーマイン』という名の歌には、耳が大きな子象とその母親の物語があるのだと、キャロルは語っていた。あいつが歌う曲には、全て物語が込められていて、おれはそれを聞くのも好きだった。
「この子にも聞こえているかしら」
そっと腹に手を当てながら、温かな愛情に満ちた目で、ルージュは言う。シャンクスやバギーの面倒を見るキャロルも、似たような目をしていたな。どうやら守るべきものができれば、2人はすぐに母の表情になれるらしい。
懐かしく思いながら、彼女の華奢な手に、おれの手を重ねる。そこに宿るのは、新たな命。おれと彼女の、確かな愛の証だ。
「女なら『アン』。男なら『エース』にしよう」
後者はおれの愛刀の名前でもある。どちらの性別で生まれてもいいように、名前の候補を2つ出すと、ルージュは嬉しそうに笑っていた。
もう1つのトーンダイアルから、別の歌が流れ出す。深く響くチェロのような声と、甘くさえずるナイチンゲールのような声。2つの声が重なり、絡み合い、1つになっていく。
『If I Never Knew You』。
生まれ育った場所も、使う言葉も違う2人が、それらの壁を越えて惹かれ合う。しかし、2人に待っていたのは、愛する人と離れ離れになる運命だった。そんな物語に隠された歌なのだと、キャロルは語っていた。
もしあなたと出会っていなかったら、命の尊さに気づかなかった。
たとえ恐怖や怒りや嘘が手強くはびこる世界だったとしても、この出会いは正しかった。
あなたと出会えて、自分に足りなかった一部を見つけることができた。
そんな言葉が、音楽に乗って、おれの心にじんわりと染み渡っていく。
陸の上で、穏やかに時は流れる。長椅子に寄り添って座るのは、最愛の女。彼女の中で眠るのは、いつか産まれるおれたちの子ども。周りを祝福するように包むのは、大事な仲間たちの歌声。
音を追うように歌をくちずさむルージュを、おれは両の腕で抱きしめる。
あぁ。残された時間をこんな風に過ごせるなんて、おれは世界一の幸せ者だ!