【番外編】心に残る歌を教えて.2
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「お。お前も"セイレーン"の歌聞いてんのか」
「わーーーっ!?」
ヘルメッポにそう指摘されたコビーは、執務室の机に置いていたトーンダイアルを隠そうと、慌てて両手を伸ばす。その勢いで、書類が何枚か床に散らばった。
「そんなに驚かなくてもいいだろ。悪いことじゃねェんだから」
「そ、そうですけど、何となく……」
落ちた書類を集めつつ、少しの後ろめたさと照れくささが混ざったような顔で、コビーはもにょもにょと言葉を濁す。ヘルメッポの言う通り、一応悪いことではないのだが。
海軍の動きを止め、死刑囚を逃がす要因になった"セイレーン"は、本来なら立派な賞金首であり指名手配犯。そんな人間の歌を、海軍が聞いていては、市民たちに示しがつかない。
しかし、そうならなかったのは、新しく元帥になったサカズキの意向のためだった。
「歌なんぞに
そう言ってサカズキ自身が、耐性をつけるために、"セイレーン"の歌を片っ端から聞いている。サカズキの部屋から、"セイレーン"の歌が聞こえない日は、1日たりとも無い。
おかげで海軍の中では、"セイレーン"の歌は禁止されておらず、むしろ広まっていた。新兵たちの間で、『愛しき
「ガープ中将も、書類業務しながら『闘志を燃やせ』を聞いてたっけ。アレ、あの人が共感しそうな歌だよなー……。お前は何聞いてたんだ?」
「えっと……『スター・イズ・ボーン』です」
それは、本当のヒーローを目指す、神の子の物語のラストを飾る曲。夢を捨てず、挫けずに頑張って、いつか君もヒーローになろう。そんな憧れの存在を目指せるような、希望を感じる歌。
海軍将校を目指し、今やロッキーポート事件の英雄とも言われるようになったコビーにとっては、まさに夜を照らす星のような曲だった。
「内容にいろいろ共感しまして……。ルフィさんにもちょっと重なるし」
頬を染めて照れながら、コビーは素直に説明する。そして、ふと考え込んだ後、彼はぽつりと呟いた。
「……"セイレーン"さんって、どんな人なんでしょうか」
場所とタイミングが違っていたら、彼女は間違いなく、いい意味で名が広まっていた人間だった。首にかけられるのは賞金ではなく、誉れ高い金のメダルだったはず。
人の心を震わせる歌を歌えるのに、なぜ犯罪者として追われる道を選んだのか……。
「……僕は、悪い人だと思えません。彼女はただ、大切な人を助けたかっただけの、優しい人だと思うんです」
「いやでも、素質が無かったら、あんな悪役っぽい歌を歌いこなすのは難しいだろ。思い出せ。『哀れな人々』とか、『お母様はあなたの味方』を」
ヘルメッポが挙げた『哀れな人々』は、"海の魔女"と呼ばれるタコの人魚が歌う曲。最初は慈悲深そうな雰囲気で、悩める姫の相談に乗るも、強引な態度で契約書へのサインを迫る二面性を感じる歌。
『お母様はあなたの味方』は、娘の成長を阻むように、過剰に保護しようとする母親の歌。母親が本当に守りたいのは娘本人ではなく、娘が持つ魔法の髪。しかし、それを気取られないように、"外は危ない"とまことしやかに娘に教え込む曲。
優しく美しい歌だけでなく、悪意に満ちた恐ろしい歌も歌いこなせる。それが例え素質ではなく演技だとしても、彼女が持つ実力が高いことは変わらない。
「海軍として、彼女を捕らえなければいけないのは分かっています。でも僕は、一度でもいいから彼女と話してみたい。彼女がどんな人なのか、知りたいです」
両手で大事に持ったトーンダイアルを見下ろしながら、コビーは静かな声で言う。その目はとても真剣で、意志がしっかりと定まっていることが見て取れた。
ヘルメッポは、そんな彼を見守るようにため息をつきながら、コビーの肩を軽く叩く。
「なら、誰よりも早く見つけ出さねェとな」
「はい!」
気合を入れて仕事に取りかかる2人を、きらめく星のようなメロディが、そっと包んでいた。