旅は道連れ世は情け、歌いながら行きましょう。
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ナギナギの実の能力を使って敵地に忍び込み、オペオペの実を手に入れたロシナンテ。そのまま無事にローたちのもとへたどり着ければよかったのだが、いつものドジで足がもつれた。
「ーーー!!」
一切の声も音も無く、彼の体は、ゴロゴロと雪の中を転がり落ちていく。
「♪♪ーーー」
「誰だ!?」
「……何かやけに楽しそうな音だな??」
そのとき、突然大きな音楽が響いた。
軽やかで華やかで、まるで楽しげなパレードが開かれているかのようなメロディ。海賊のアジトが近くにあるこの場では、あまりにも場違いだ。
音が聞こえる方へ、銃を持った人々が駆け去る。おかげでロシナンテは、人がいない場所でやっと停止することができた。
「――立てる?」
仰向けになった視界に入り込んできたのは、雪が降る灰色の空と、キャロルの顔。走ってきてくれたようで、肩で息をしている。
"なんでここに"
自分の影響で出る音は全て消していることを忘れて、ロシナンテは口を開いた。キャロルはぱくぱくと動く口の形から、彼の言いたいことを読み取ったようだ。
「君が心配だから来ちゃった。今のうちに早く行こう!」
彼女が差し伸べてくれた手に捕まり、何とか立ち上がる。積もった雪に足を取られそうになりながら、ようやくローとオリバーが待つ場所へたどり着いた。
「さっき聞こえた音楽は、キャロルさんがしてくれたんですか?」
「うん。エレクトリカルなパレードの演奏を、録音してたトーンダイアルがあったから、それをぶん投げてきた」
能力を解除してから話しかけるロシナンテ。トントンと折りたたみ式のナイフで、赤いハート型の実を1口サイズに切りながら、キャロルは答える。「上手くいってよかった……」と呟き、彼女はローの手のひらに実をころころと置いた。
「はい、お食べ」
「いただきます……。おえっ、マズイ」
「お茶あるよ」
覚悟を決めるように深呼吸をしてから、ローが手のひらの実を口に入れる。苦虫を噛み潰したような顔になる彼に、キャロルは自分の水筒を差し出した。口の中のものを紅茶で流し込み、ローは一息つく。
「……これで、おれは助かるのか……?」
「いや、食ったからといって、すぐに治るわけじゃねェ」
「落ち着ける場所で、能力の使い方を覚えないといけないね」
ロシナンテがローを背負い、隣町を目指して歩き出す。オリバーを抱えて隣を歩きながら、キャロルはしんみりした様子で口を開いた。
「そろそろ、お別れだね」
「えっ」
「え……」
「ん?」
ロシナンテとローの目が点になり、キャロルは首を傾げる。
キャロルとしては、ローの珀鉛病が治るまで同行するつもりだった。このままいけば、ローは無事にオペオペの実の能力を使いこなして、珀鉛病を治すだろう。そうなれば、もう心配はいらない。また1人と1匹の旅に戻るだけだ。
ガバッと力強く抱きしめられ、キャロルの足が地面から浮く。喉からは「うぐ」とくぐもった声が漏れた。
「う、歌でも楽器でも何でも覚えますから、一緒にいさせてください!!」
「あの、私あちこち旅して歌を広める予定だから、私といたら隠れて暮らせないよ?」
「ここまで来て離れるのは寂しいです!!」
「と、とりあえず落ち着けるところに到着してから話そうか」
命に関わるかのような真剣さで、ロシナンテが声を上げる。その目から溢れた涙が、キャロルの頭にぽたぽた落ちていた。ローは呆然としており、見捨てられた子猫に似た雰囲気を漂わせている。
追手が来ないとは限らないし、ローの体も心配だ。ここで出す話題じゃなかったな、と反省しながら、キャロルはロシナンテを急かした。
この後は、ロシナンテが生きていることを除いて原作通り。
発明家のご老人のお世話になり、白クマのミンク族や海の生き物の名前を持つ少年たちと出会い、海賊として再び海に漕ぎ出すローとロシナンテ。
そこに、音楽療法担当として彼女も加わることを、今はまだ誰も知らない。