旅は道連れ世は情け、歌いながら行きましょう。
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優しくて親切。だけど見かけは意地悪。それでも不思議なのは、なぜだか憎めないこと。
「コラさんのことか?」
「ンッ、……ふふっ」
「2人ともちょっとひどくないか?!」
ニッケルハルパを弾きながら歌う途中、毛布にすっぽりくるまったローに言われて、野獣に変えられた王子とロシナンテの共通点に気づく。
思わず笑みをこぼすと、焚き火の向こうでロシナンテが、ガーン! という効果音が聞こえそうな表情でツッコミを入れてきた。"見かけは意地悪"なのがショックだったらしい。
彼らと旅を始めて、だいぶ時間が経つ。
旅の内容としては波乱万丈。ローとは最初距離があったけど、オリバーを間に挟んでいるからか、少しずつ距離が縮まっている。
特に、2人の仲の良さは微笑ましい。今も、ローの腕の中から、オリバーがひょこりと顔を出している。
ロシナンテがリクエストした、『愛の芽生え』の続きを、彼と一緒に歌う。少しぎこちない感じが、初々しくて良い。やっぱり彼の声を通すと、より歌の魅力が増すなあ。教えてよかった。
「ロー、何か聞きたい曲ある?」
「……鐘つき男の、願いの歌」
「はーい」
ローは『星に願いを』の他に、『僕の願い』も気に入ってくれたみたいだ。
大聖堂の鐘楼に住む、鐘つき男の物語に出てくる歌。隠れて暮らしている彼が、眼下に広がる街を眺めながら、自分の願いを歌う曲。
光を浴びながら、いきいきと過ごしている人たちに囲まれて、生活してみたい。手を繋いで散歩してみたい。そんなささやかで、純粋な想いがこもった歌だ。
「みぃ、みぃ」
「オリバーもリクエスト? あの曲かな」
ローの腕からするりと抜け出し、私の足に体をこすりつけて、おねだりするように見上げてくる。イントロを弾くと、嬉しそうに一声鳴いたので、私は歌い出した。
この歌が出てくる作品は、彼の名前の由来になった作品でもある。彼と同じ、オレンジ色の毛並みの子猫が主人公の物語。
子猫を拾い、名前をつけた女の子が、彼と心を通わせていく歌。子守唄のように穏やかなメロディに乗せて、信じ合う気持ちを大切にしたいという、純粋な想いを込めた曲。
映画の内容に合わせて、ストリートピアノがある街で弾き語りをしたこともある。あの時は、オリバーも鍵盤を楽しそうに押してたな。
気づけば、ローが静かに寝息を立てていた。念のために、もう1枚毛布をかけておく。今日はいたし方なく野宿をしてるから、風邪ひかないようにしないと。
眉間にシワがない寝顔は、年相応のあどけなさが残っていて、可愛らしい。胸の辺りが温もるような感覚に、頬を緩める。
「おやすみなさい。いい夢を」
火の中にそっと枯れ枝をくべてから、うとうとしているロシナンテの肩にも、毛布をかける。ひとときの平穏に浸りながら、私はぱちぱちと木が爆ぜる音に耳を傾けていた。