セイレーンは白鯨と共に
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宴の席で『トゥー・ワールズ』を披露する。白ひげ海賊団は、家族愛をテーマにした歌に惹かれる人が多い。例えば、クマに姿を変えられた青年と、子グマが一緒に旅をする物語に出てくる、『ようこそ』とか。この海賊団、大家族みたいなものだからなぁ。
「キャロル、グラス空いてんぞ」
「あ、ありがとうエース。いただきます」
いくつか歌ったから、そろそろ水分補給したいと思ってたんだよね。ありがたい。注がれた液体に口をつけると、アルコールの匂いと喉が熱くなる感覚がした。
***
「ちょっと待てエース! それ酒の瓶だろ!」
「え? おう」
「何!? キャロルに酒を飲ませたのか!? 今すぐそこから逃げろ! 可愛がられるぞ!!」
「なんて??」
血相を変えて飛んできたイゾウとサッチに、エースが首をひねる。こいつそんなに酒癖悪いのか? とエースが思ったとき、なでなでと柔らかな手に頭を撫でられた。
「エースはかわいいねえ〜」
だんだん手つきに遠慮が無くなってくる。わしゃわしゃ、うりうりと、大型犬を愛でるように両手で髪を撫で回される。更に細い腕に抱かれ、胸に引き寄せられた。
「……!?!?!?」
「ふふ、よーしよし。いい子いい子〜」
「あー言わんこっちゃねぇ〜!」
「マルコ、お前の女だろ。何とかしてくれ」
「キャロルは昔から年下の面倒を見てたからな。年下を見ると、可愛がりたくて仕方ねえんだろうよい」
「冷静に分析してないで止めろ! うちの純情な末っ子があんなに真っ赤っかだぞ!」
腕組みをしているマルコは、"まあ一番愛されてるのは自分ですが"と言いたげな表情をしている。
飲み過ぎたわけでもないのに、赤ら顔になりながら、ぽんぽんと小さな火を出しているエース。そんな彼を指さしながら叫ぶサッチ。前に新入りの1人が、酒に酔ったキャロルの被害にあい、それを止めに入ったサッチも巻き込まれたことがある。見かねて水を持ってきたイゾウでさえも可愛がられた。
蜂蜜のようにとろりとした甘い目。日々の行動や頑張りを褒める、優しい言葉。頭を撫でる柔らかい手と細い指。清潔な石けんと、仄かに漂う甘い匂い。全てを受け入れ、包み込んでくれるような包容力。
あの時は、オヤジの両手に包まれたキャロルが寝落ちたことで、その場が落ち着いた。
ちなみにその後。「おれはこの人から産まれたのだろうか」と、新入りは錯乱しており、マルコから治療という名の蹴りを食らっていた。
「その辺にしとけよい」
「マルコ〜。よしよーし」
マルコがエースとキャロルを引き離す。2番隊隊長の勇ましさはどこへやら、エースは涙目になりながらサッチの所に避難していた。あんなのされたらオギャりそうになっちまうよな。分かるぜ。サッチはぽんと末っ子の背中を叩いた。
ふにゃんとした笑みを浮かべながら、キャロルがマルコの頭を撫で回す。そして、彼の額に軽く口付けをした。愛しくてたまらないといった表情で。
どれだけ酔っても、どれだけ船員の頭を撫でたとしても、彼女がキスをするのはマルコだけだった。
「すきだよ〜、マルコ」
「素面のときも、これくらい素直になってくれると嬉しいんだけどな」
「えへへへ」
小鳥が花をついばむようなキスが、マルコの頬やまぶたにも落ちる。ちゃっかりマルコもキャロルの腰に手を回していた。ラブシーンは自室でやってくれ。
「ねえ、マルコもキスして?」
彼女の細い指が、マルコの頬から顎のラインをなぞるように動く。甘さの中に色気を含んだような瞳が、彼を見上げていた。
「キスしてやれよ。恥ずかしがり屋の男の子」
「もじもじしてたら女の子は逃げちまうぜ」
「お前ら他人事だからって煽んじゃねえよい」
ここまで堂々と見せつけられるなら、いっそ酒の肴代わりにしてやれ。そんな思いで、前にキャロルが物語と共に聞かせてくれた歌のサビを、サッチたちはもじる。案の定マルコに睨まれたが、そんなことで怯む海賊ではない。
「見せんのはここまでだよい」
「わぁ」
マルコがキャロルを横抱きにする。彼の首に腕を回し、キャロルは警戒心なんて欠片も見えない顔で笑っていた。
「おいおいどこ連れてく気だよ」
「おれの部屋で介抱するだけだよい」
「それだけで終わんのかあ〜?」
「好きに言ってろ」
バタンと船室に続くドアが閉まる。ありゃキスで済まねえだろうな。いや意外と世話して終わりかもしれねーぞ。やいのやいのと騒ぎながら、宴は夜遅くまで続いた。