エレジアの危機は回避したのに、別の戦争が起こりそうなんですが
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「ウタ」
音楽の島 エレジアにある、お城の広間。長椅子にぽつんと置かれた楽譜に、手を伸ばそうとしていた彼女の名前を呼ぶ。振り返り、駆け寄ってきたウタの手を、私はそっと握った。
「私と君の歌を、聞かせてほしいって言われたの。一緒にこっちで歌わない?」
「うん!」
笑顔でうなずく彼女の頭を撫でる。それから、後ろにある楽譜に視線を移した。古いものらしく、紙が黄ばんでいて、端が少し欠けている。
「これは落し物かな。後で私が、持ち主を探しておくね」
「分かった。ねえお母さん、何歌う? 楽しい歌がいいな!」
「じゃあ、『ホール・ニュー・ワールド』にしようか。お姫様のパート、ウタにお願いしていい?」
「任せて!」
楽譜を懐にしまい、私はウタと手を繋いで、ステージの中央に歩いていった。
***
「ウタは、私たちの大事な娘なんだ」
会場の外。星明かりの中で、私は呟く。
「だからね、あの子に、余計な罪の十字架を背負わせるわけにはいかないの」
握りこぶし程の大きさの石を、楽譜に乗せて、風で飛ばないように押さえる。マッチを擦ると、シュッと小さな音を立てて、オレンジ色の火が灯った。
ぽとんとそれを楽譜の上に落とす。火が楽譜を舐めるように移り、古ぼけた紙がみるみるうちに黒く染まっていった。やがて白い灰になり、ほろほろと崩れていく様を、静かに見守る。
「さようなら。"トットムジカ"」
知っているのは、私と、物言わぬ天上の目撃者たちだけ。全てが燃え尽きたのを見届け、私はウタたちが待っている会場へと戻った。