エレジアの危機は回避したのに、別の戦争が起こりそうなんですが
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別々の道を進むとき、何かあったら連絡しやすいように、シャンクスには電伝虫を渡していた。でも、"一人前の海賊になったら、また会おうね"という約束を律儀に守っているようで、連絡は来ない。
私が30歳になるときまでは。
「プルプルプル、プルプルプル」
「あれ、珍しい。はい、こちらキャロル、」
「キャロルーー! 頼む助けてくれ!!」
「うわびっくりした。シャンクスが私に助けを求めてくるなんて、ただ事じゃないね。何があったの?」
慌てたような大声が聞こえたため、急いで受話器を耳から離す。最近活躍しているルーキー海賊が、旅の音楽家にSOSを出すなんて、一体全体何が起きたんだ。
「実は、他の海賊から奪った宝箱のうちの1つに、赤ん坊が入ってたんだ」
「あらまぁ懐かしい。シャンクスと似てるね」
「うちで育てようと思うんだが、子どもを育てた経験があるやつが少なくて……」
「ふんふん」
「キャロル、うちの船に乗って、おれたちに色々教えてください。お願いします」
「分かった。今どの辺りにいるの?」
詳しく話を聞き、お互いの現在地の中間辺りにある島で、合流することを決める。それにしても、ちゃんとシャンクスが連絡してくれてよかった。子育て経験が無い人たちだけで育てるとか言い出したら、「舐めちょるんかおどれは」って言ってたわ。
***
「わぁー、可愛い。シャンクス、名前はつけた?」
「つけたぞ。ウタだ」
「名前も可愛いね」
レッド・フォース号の倉庫に、箱舟を置かせてもらい、赤ちゃんと対面する。船医のホンゴウさんに聞いてみると、2歳くらいらしい。歯は大体生え揃っていた。
「2歳児なら、ご飯は薄味がいいね。生魚や生卵、塩分や刺激物が多いものは控えて。この船の料理担当って誰かな?」
「あそこにいるぞ」
「遠いな」
甲板の端の方に置かれた木箱。その影に、恰幅のいい体がはみ出ているのが見える。ほとんど隠れてないけど大丈夫かな。心なしか、骨付き肉を持つ手が震えているような気がする。
「あいつはラッキー・ルウ。女が苦手なんだ」
「だから離れてるのか。ご飯関係は後で紙にまとめて渡すね」
ご飯の他にも、必要なものはたくさんある。ウタの服や靴。家具に食器。スタイエプロンやおむつもまだ欲しいかな。おもちゃや絵本も大事だ。紙とペンを貸してもらい、さらさらと必要な物と数を書き込んでいく。
「これが買い物リスト。食材班と衣料班、道具班に分かれて買い物してもらいます。あと数名残ってウタの見守りね」
テキパキと指示を出すと、シャンクスを筆頭に全員が動き出してくれた。意欲的なのは本当にありがたいな。
***
キャロルが来て数日後。むずかるウタを腕に抱き、優しい声でキャロルが子守唄を歌う。すると、ウタはだんだん落ち着いて、すやすやと眠り始めた。
"いつでも温かく あなたを見守る"と、母親の愛と大切さが込められたような歌を紡ぐ彼女の姿は、まるで聖母子像のようだ。
「なんつー清らかさ」
「ここが聖域か」
「汚れた心が浄化されそう」
「眩しすぎて目が焼ける」
離れたところで2人を見守りながら、赤髪海賊団のメンバーの何人かは顔を手で覆っていた。時に優しく時に厳しく、子育てについて説いていた彼女の本領発揮である。
「酒瓶や酒樽は、ウタの手が届かないところに片付けてね。間違ってウタが飲んじゃったら危ないから。お酒好きな人は特に気をつけて。シャンクス、目を逸らさない」
この前そう叱られたシャンクスもほろりと泣いた。おれが赤ん坊の頃も、こんな感じで、宝みたいに扱ってくれたんだろうか。自分が物心ついた時から、母や姉のような役割を務め、陽だまりのような温かさでくるんでくれたことを思い出す。
ウタのつやつやしたバラ色の頬に、そっとキスを落とすキャロル。海賊船に乗っているとは思えない光景を、柄にもなく守りたいと思いながら、ベックマンは紫煙をくゆらせた。