トリップしたら海賊の世界にいたので、黄色い子分たちとバナナ代を稼ぎます。



「そろそろ買い物行きたいな」

日々の生活や戦いの中で、すり切れが目立ち始めた服を見下ろして、私は呟く。
燃料や食料はまだたっぷりある。どういう仕組みか分からないけど、バナナを置いている部屋に入れておけば、水も野菜も果物も新鮮なまま保たれているから問題なし。

でも衣類やら肌のケア用品やらは、そろそろ欲しい。新しい本を探してみるのもいいな。ついでに、この世界の街を改めて見てみるのもいいかも。

「島も近いし、休憩していこうか」

地図を広げながらミニオンたちに言うと、何人か外を指さして訴えかけてくる。外に出たがっているみたいだ。

「君たち目立つから、あんまり出歩くのはだめだよ」
「ペッパポー?」
「ングゥ……」

1人が両手を合わせて、うるうるしたおめめで見上げてくる。すると、他のミニオンたちも一斉に真似をした。思わず胸を押さえて耐える。こんな可愛いおねだりの仕方、どこで覚えたんだろう。

だめだめ。私はボスでリーダー。甘やかさずに毅然とした態度を取らないと……。

「……全員で行くのは周りの迷惑になるから、3人までね」
「クンバーヤー!」

街を見たいミニオンたちのジャンケン大会を眺めながら、私は必要そうな金額をお財布に詰め込むことにした。

***

薬屋さんでケア用品と、傷薬や風邪薬の補充。服屋さんで、動きやすい服を数枚とオシャレな服も少し。下着もいくつか購入。本屋さんを覗きながら、ミニオンたちが気になったものにも付き合う。

可愛いもの好きなフィルと、ショーウィンドウのぬいぐるみを眺めたり。「ジェラトー!」とアイス屋さんを指さしたケンに、バナナ味のアイスクリームを買ったりしていたとき。

「あれ? フィル、オットー知らない?」

歯の矯正器具をはめていて、ボールみたいにまん丸の体のオットーがいなくなっていた。フィルに聞くと首を横に振っていて、ケンもキョロキョロ辺りを見回している。

何かに気を取られて、ついて行っちゃったのかもしれない。探さなきゃ。

***

一方その頃。店先のおもちゃに吸い寄せられたり、お菓子の甘い匂いにつられたり、オットーはふらふらと自分の好奇心に従って行動していた。

そのとき、オットーの目に新たに留まったものがあった。ピンク色の雲のようにふわふわのお菓子を持った、角の生えた生き物である。ボスや仲間たちが、自分を探していることを知らないまま、オットーはとことこ後を追いかけていった。


「ベロー」
「うおおお!? 誰だおまえ!?」
「オットー」
「1人なのか? 仲間はいないのか?」
「〇╳△□#ᑫ」
「えっ、はぐれたのか?!」

角の生えた生き物――チョッパーは、自分より少しだけ背の低い黄色い生き物が放っておけなくなった。船では皆の弟分のような存在だが、彼も人間に換算すれば10代半ば。お兄ちゃん風を吹かせてみたい年頃なのである。

「じゃあ、おれもいっしょに探すよ。おれの仲間も近くにいるから、きっと手伝ってくれると思うんだ」
「タンキュー!」


「すっげー! 何だこの黄色いはげちゃびん!」

合流したルフィは、初めて見る生き物に目を輝かせ、オットーの両脇に手を入れて掲げた。高くなった視界が面白いのか、オットーはきゃらきゃらと笑う。

「こいつはオットーっていって、仲間とはぐれちゃったみたいなんだ」
「それは大変ね。手がかりはあるの?」
「☆§&ヤキトリ$♡□」
「待て待て待て何話してんだ?」

ロビンの質問に答えたオットーに、ウソップはストップをかけた。ヤキトリとか何とか聞き取れる単語は少しあったものの、何を言っているのか理解できなかったからだ。

「えーと、オットーの他に似たような仲間が2人。あとはボスが1人らしい」
「そうなの。ボスさんてどんな人かしら」
「若い女の人って言ってる!」

チョッパーの説明を聞きながら、ルフィはオットーを自分の肩の上に座らせるように担ぐ。

「つまり、こいつと似たようなの連れたヤツを探せばいーんだな! おーい! こいつのボスどこだー?」
「ボスー!」
「ふふ、何だか兄弟みたいね」
「ルフィのことだから、あいつのボスが見つからなかったら、船に乗せるとか言いそうだな……。誘拐にならねえように早く見つけようぜ。……そもそもあれ何の生き物だ?」

***

「オットー? オットー!」
「すみません、全体的に黄色くてボールみたいに丸い子を探してるんですけど、見ませんでしたか? オットーっていうんですけど」
「さあ、見てないねえ」
「力になれなくてごめんよ」

フィルやケンと探してるけど、なかなか目撃情報が集まらない。ミニオンって小さいから、見落とされてる可能性が高くなってきたかも……。

「黄色くてボールみたいな子? 確か、この辺りのおもちゃとか眺めてたけど」
「その後どっちに行きました?!」
「向こうの方かな」
「ありがとうございます!」

おもちゃやお菓子の店が並ぶ場所で、やっとオットーについての話が出てきた。人の波をすり抜けながら、懸命に行方を聞いて回る。そのとき、少し離れた場所から大きな声が響いた。

「今オットーって聞こえたぞ!」
「あっちか!」
「ボス!」

人の波の中で、頭1つ分飛び出た黄色い生き物が、私を見つけて手を振る。

「オットー!」

フィルやケンがはぐれていないか確認してから、私はオットーを目指して急ぎ足で近づいた。距離が縮まるにつれて、彼らの全貌が少しずつ見えていく。

オットーを肩車しているのは、麦わら帽子を被った元気そうな青年。こちらを見て安心したように肩の力を抜いているのは、ピノキオみたいに鼻が長い青年。ミステリアスな笑みを浮かべているのは、黒髪のクールビューティーなお姉さん。存在をアピールするように、両手をブンブン振って飛び跳ねているのは、二足歩行の小さなトナカイ。

何かすっごく見覚えある。

「オットーのボスっておまえだよな? 見つかってよかった!」
「うん。こちらこそ、オットーを見つけてくれてありがとう。トナカイくん」
「えっ、おれがトナカイって分かるのか!?」
「? そのショベルみたいな角はトナカイじゃないの?」
「おれ、今までタヌキとか鹿に間違われてきたから、びっくりした!」

トナカイくんと視線を合わせて話していると、ぴょんと肩から降りてきたオットーが、私に抱きつく。彼をぎゅっと抱きしめ返してから、私は立ち上がり、4人に深々と頭を下げた。

「オットーと一緒にいてくれて、ありがとうございました! 助かりました!」

「いいってことよ」と長い鼻の下を指でこする彼の隣で、麦わら帽子の彼が目を爛々とさせている。視線は私やフィルたちを真っ直ぐ見つめていた。

「なあなあ! そいつらどんなヤツなんだ? そいつらの他にもいんのか?」
「それは私も聞きたいわ。初めて見る生き物だもの」
「この子たちはミニオンっていって、私の仲間です。この子たちの他にも数百人くらいいます」
「数百人!? 多すぎだろ!」



トナカイくんは、トニートニー・チョッパー。ミニオンの数に目をむいた、長鼻の彼はウソップ。クールビューティーお姉さんはニコ・ロビン。そして麦わら帽子の彼は、モンキー・D・ルフィと名乗った。

ミニオンの世界だと思い込んでたけど、どうやら、ひとつなぎの大秘宝を探す世界に来てしまっていたみたいです。
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