トリップしたら海賊の世界にいたので、黄色い子分たちとバナナ代を稼ぎます。


1つ目と、交差した2本のバナナを描いた黄色い旗。
子どもが筆を握り、自由に絵の具を塗りつけたような、カラフルな帆。


「救いようのない悪人で良かった〜。なんの気兼ねもなくやれるわ〜」

ここはとある海賊船。涙と鼻水とヨダレを垂れ流しながら、甲板の上でのたうち回る屈強な男たち。戦闘不能になっている海の荒くれ者を見下ろしながら、ガスマスクをつけた人物がほっとしたように言う。

「なっ、何なんだこいつらァ!?」
「ちくしょう! チョコマカすばしっこく動きやがって……ギャアアアアア!」

小さな影が、海賊たちの脇や足の間をすり抜け、次々に卵をぶつけていく。殻が割れると、中に詰まっていた赤茶色の粉が、海賊の顔や体にぶちまけられた。

顔をべちゃべちゃにしながらも向かってくる者は、ホウキ、トンカチ、ピッチフォーク、モルゲンステルン(殴打用棍棒の一種。トゲが突き出た球が付いている)などで蹴散らしていく。

赤ん坊のような背丈の彼らも、頭や顔をすっぽりとガスマスクで覆っていた。

「殺しちゃだめだよー! 金額が3割下がっちゃうらしいからねー!」
「「「オーケイオーケイ!」」」

若い女性の声に答えるのは、子どものようなあどけない声。海賊たちは驚愕しながらも、1人また1人と縄で縛られていった。


幼子の落書きのような帆と、どことなく愛嬌を感じる旗を掲げているにも関わらず、用意周到な策で徹底的に相手を追い詰める賞金稼ぎ。

船長は若い女性が1人。乗組員クルーもとい子分ミニオンは、人語を話さない謎めいた生物たち。

彼女らに襲撃された海賊船は、金銀財宝も女も、食料も燃料も、根こそぎ持っていかれるという。まるで今まで、人の命や尊厳を踏みにじって奪ってきたものを、奪い返されるように。

島や村で穏やかに暮らす人々は言う。自分たちの暮らしを荒らす海賊を倒し、さらわれた人を帰してくれるヒーローだ、と。

財宝を奪い、人を殺し、家を焼き払う海賊は言う。あいつは俺たちの生き方を邪魔する悪党だ、と。

正義を愛し、世界の秩序を重んじる海軍は言う。彼女は自分たちの理解を越えている諸刃の剣だ、と。

船の名前はフェロニアス号。
船長の名前は、不思議なことに、誰も知らない。

***

船の名前は、ミニオンたちの本来のボスの名前からいただいた。リスペクトは大切に。

「いやー今回の収穫も大きかったね」

コアザ海賊団。懸賞金は合計2500万ベリー。全員簀巻きにして、海軍がいる施設に引き渡す度に、海軍の人にドン引きされるのも慣れた。なかには動じなくなってきた人もいるけど。

「ボス、プェデナ?」
「そうだね。パーティー始めよっか!」

マストにくくりつけられたミラーボールが回り、甲板にキラキラした虹色の光を散りばめる。ミニオンたちはお酒じゃなくバナナを片手に、大勢で歌ったり踊ったり、とても楽しそうだ。

ミニオンたちが仕えたくなる悪党が、自分に務まるか自信は無かったけど、手紙の通り問題は無かった。

それよりこの世界、悪党というか海賊がやたら多い。石を投げたら海賊に当たるんじゃないかってくらい多い。もしかしたら知らないうちに、カリブ海まで来てたのかもしれないな。

小学校か中学校かは忘れたけど、音楽の教科書に載っていた合唱曲を口ずさむ。この世界にもキャプテン・キッドはいるんだろうか。手すりにもたれて夜空を見上げると、かすかに星が見えた。

「ボスー」

振り返ると、とてとてとボブが寄ってきた。右が深い緑、左が明るい茶色のオッドアイで、背は皆の中でもけっこう小さい。小脇にテディベアのティムを抱えて、両手にはグラスを1つずつ持っていた。

「パラトゥ!」
「くれるの? ありがとう、ボブ」

しゃがんでグラスを受け取ると、ボブは嬉しそうにニコッと笑って、私の足に体をくっつけてきた。口元を緩めながらボブの頭を撫でて、グラスを傾ける。ひんやりした濃厚なバナナと優しい牛乳の甘さが、口いっぱいに広がって、とろっと喉を滑り降りていった。

「バナナスムージーだね。美味しいよ」

もう1つのグラスを両手で持って、スムージーをごくごく飲んでいたボブは、こちらを見上げてパアッと顔を輝かせる。口の周りにうっすらできていたヒゲを、ティッシュで拭いてあげると、ボブはくすぐったそうに体をよじった。
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