【IF】自作自演の悪党と囚われの歌姫〜ヒーローは海賊団〜
その日、事件は起こった。
「あれ? ここに置いてた写真、誰か知らない?」
シャンクスさんたちに会うために、作戦を立てたものの。ウタにめちゃくちゃ止められたので、脅迫状計画はとりあえず無しになった。手っ取り早さとリスクを天秤にかけて、手っ取り早さを取った作戦だけど、当のウタが嫌がるなら仕方ない。
なので、ごっこ遊びのネタにしようと思いつき、男物の服を着た私を首謀者に見立てて、何枚か写真を撮った。
両手首を黄色いリボンで結ばれたウタとミニオンたちが、並んで座ってるもの。色っぽい敵キャラのように、男装した私がウタの腰を抱いて引き寄せているもの。「彼女は今俺の隣で寝てるよ」と言いたげなもの。私を含め、皆ノリノリである。
最後の1枚が見つからないので聞いてみると、ウタや一部のミニオンたちは首を傾げている。でもデイブとジョージが、誇らしげな顔で近づいてきた。
「∀$$#*☆§!」
やってやりましたよと言わんばかりに、その子たちは胸をそらす。その内容を聞いて、私は言葉をしばらく失った。
「…………"手紙に同封して、赤髪海賊団に送った"!?」
「ええええええっ!!??」
ウタがひっくり返った声で叫ぶ。明日、世界が終わるよと言われたかのような驚きっぷり。バタバタと転びそうになりながらも駆け寄ってきた。
「海上でどうやって手紙を!?」
「Щ$☆◇♪▲△〇」
「ニュース・クーと仲良くなって、新聞と一緒に届けてもらったって!? そんなことある!?」
「ЪЁ§☆♡★●?」
ひと仕事したよ、褒めて! と言うように、2人はワクワクした目を私に向けてくる。でも今回は諸手を挙げて喜べる状況じゃない。聞きたくないけど、知らなきゃいけない。
「……ちなみに、手紙の内容は?」
絞り出すような声で問いかけると、2人は手紙を持ってきてくれた。タイプライターを打ち間違えたのか、誤字が見られるのが5枚くらいあった。
***
「……『歌姫は、いただいた。返してほしければ、×日に××の無人島へ来い。怪盗F』……」
新聞と共に、レッド・フォース号に届いた一通の手紙。海の上で、船に乗って暮らす生活の中で、手紙が来ることなど極めて稀だ。好奇心を隠さず、中身を読んだシャンクスの足元に、ひらりと1枚の写真が落ちる。
そこには、男物の服を着た人物と、目を閉じてベッドに横たわる少女が写っていた。人物の顔は、首から上が写っていないために分からないが、少女の顔ははっきりと分かる。
ポピーレッドとピンクホワイトの、左右で色が違う髪。色白の肌に長いまつ毛。昔よりも大人に、そして綺麗に成長しているが、忘れたり間違えたりするはずが無い。
「……ウタ……!」
拾い上げられた写真が、手紙もろとも、ぐしゃりと握りつぶされる。
――どうして、こんなことになった?
――彼女の輝かしい未来を潰さないように、守るために、あの日別れを決めたのに。
進路変更を告げるために、シャンクスは航海士のスネイクの元へ向かう。その目は、ナイフのように鋭く冷たい光を宿していた。
***
「ん゛〜〜……」
「何でそんなことしたの〜〜!! 勝手にやらないでよ! まだ別の作戦も思いついてないのに〜〜!!!」
「ア゛ア゛アアアア」
頭を抱える私の横で、ウタは手紙を送ったデイブを抱えて遠慮なく揺さぶっている。がくがく上下に振られて変な声を上げている仲間を、ジョージは怯えたように見上げていた。
月を盗んだ大怪盗と、フェロニアス号をかけたのは分かるけど、怪盗Fって何だよ。ミステリー風味のボカロ曲かよ。
「…………仕方ない。やろうウタ。やるしかない」
「ナナ!?」
「……意図してないとはいえ、こっちが仕掛けたのは覆せない。間違えましたごめんなさいで済ませられない。だったら腹を決めて向き合うしかない」
「で、でもそれじゃあナナが……」
「私が死んだら骨は拾ってね。できれば粉にして海に撒いてほしい」
「縁起でもないこと言わないでよ!!!」
ウタにぎゅううっと抱きしめられる。肩の辺りが湿っていくのを感じながら、私は吸い込まれそうな程に広い空をぼんやり眺めていた。今日のおそらきれいだなぁ。覇王色の覇気を浴びる覚悟をし直さないと。
ウタとシャンクスさんが再会したら、話をして、皆でエレジアに行って……。その後は、どうなるんだろう。ウタはエレジアに残るかもしれないし、シャンクスさんたちと一緒に行くかもしれない。どちらにしろ、別れは近い。
とりあえず、報告連絡相談を怠ったデイブとジョージは、1週間バナナ禁止の刑に処した。
***
突如開かれた、赤髪海賊団の大頭と大幹部による会議。部屋の中は重苦しい空気に包まれており、テーブルの中央にはくしゃくしゃになった手紙と写真が置かれている。
「……新聞を見る限り、ウタがさらわれた情報は出てない。わざわざおれたちに送ってくるってことは、おれたちとウタの関係を知ってる奴だろう」
「……最近、あちこちの島でゲリラライブをやってる話は小耳に挟んだが、何でこんなことに……」
「……後悔しても仕方ねェ。宝を奪われたら奪い返す。それがおれたち海賊だろ」
仲間の会話を聞きながら、船医のホンゴウは写真を手に取る。副船長のベックマンも横から覗き込んだ。忌々しい写真だが、犯人の様子が分かるものはこれしか無い。怒りを押さえながらよく観察しているうちに、1つの違和感を覚えた。
「……この人物……、男にしては手首が細ェような……?」