【番外編】フェロニアス号の航海日誌


迷子になったオットーを見つけてくれた、麦わらの一味の4人。特にルフィの強い希望で、私は彼らを他のミニオンたちにも会わせることにした。好奇心旺盛なルフィが、こんな不思議生物を見て引き下がるわけが無いもんな。


「あ、あの旗もしかして……!お前、最近ウワサになってる賞金稼ぎか!? おれたちのこと捕まえないよな!?」
「抵抗できない人から搾取でもしない限り、私は捕まえないよ。それに、オットーを見つけてくれた人たちを攻撃したりしないよ」

フェロニアス号の旗を見た瞬間、チョッパーと抱き合って怯えるウソップをなだめる。ルフィはというと、たくさんいるミニオンたちを見て大はしゃぎしていた。無邪気か。

「ベロー」
「可愛いわね」
「そうでしょうそうでしょう」

ぬいぐるみのティムの片手を動かしながら、挨拶をしてきたボブを、ロビンさんが微笑みを浮かべながら撫でる。可愛いもの好きな一面を持つ彼女の、お気に召したようだ。

「ゴムゴムの……風船っ!」
「ワーーーー!」

向こうでは、まん丸に膨らんだルフィの体を使って、ミニオンたちがトランポリンのごとく飛び跳ねて遊んでいた。「ぼいん、ぼぉいんっ」と声が聞こえてくる。めっちゃ楽しそう。打ち解けるの早いな。

「こいつら全員名前あるのか?」
「あるよ。この子はケビン、あの子はボブ。向こうで飛び跳ね過ぎて落っこちてるのは、デイブとノーバート」
「よく覚えてんなー」

ウソップが1体1体の特徴を探すように、目を細めてじっと見つめる。目の数や髪型以外はほぼ同じだから、最初は見分けるのが大変だろう。

「体がすっごく柔らかいんだな! ルフィみたいに自分から伸ばせるわけじゃないみたいだけど、思ってたより伸びる!」
「オーソレミーオ」

ジェリーとふれあっていたチョッパーは、新しい発見を楽しむような声を上げていた。お医者さんらしく、しっかり観察してるなあ。確かにミニオンたちは、引き伸ばすタイプの拷問器具にかけられても、体がびよんと伸びただけでけろりとしていた。

「ᑫ$Щ□〇#☆♪◇」
「独特の言葉を話すのね。まるで複数の言語を組み合わせたみたいだわ」

ロビンさんはオットーのおしゃべりに耳を傾けながら、学者さんらしく分析している。察しが良いな。ミニオンたちの言葉は、実在する言語――例えば英語や韓国語、イタリア語や日本語等――がもとになったり混ざり合ったりしてるらしい。たまに聞き取れるのはそのおかげ。

「お前らおもしれーな! 仲間になれよ!!」
「いやさすがに無理だろ! こんな大所帯、メリー号に収まらねーよ!!」
「お誘いは嬉しいけど、ウソップの言う通りなんだよなぁ。あと私が賞金稼ぎだって忘れてるね?」

一応立場的には敵同士なんだけどなぁ。そんなの知ったことかと言わんばかりに、垣根を飛び越えるのがルフィらしい。

「私には私の船と仲間があるから、君の船には乗れないよ。でも友達になりたいな」
「じゃあ友達な!」
「分かってくれてよかった〜」

ほっと胸を撫で下ろすと、オットーを抱っこしたロビンさんが話しかけてきた。

「あなたの爪の欠片か、髪の毛を1本貰えるかしら」
「爪と髪、ですか?」

一瞬頭をよぎったのは、遊女の心中立てのかなり軽いバージョン。もしくは呪いのための必要なもの。でも冷静なロビンさんがわざわざ人を傷つけるとは思えない。

「あなたのビブルカードがあれば、また会えるでしょう?」
「なるほど。ビブルカードって、そういうのを混ぜて作られるんですね」

納得してぽんと手を打つ。ビブルカードの存在は知ってたけど、詳しい作り方は知らなかった。爪ならそろそろ切ろうと思ってたし、丁度いいタイミングだ。渡してもいいかな。

爪切りで伸びた分をぱちんと切り、空の小瓶にいくつか入れて渡す。ロビンさんはそれを受け取り、大切そうにカバンに仕舞った。

「おれたち、そろそろ行かないと」
「待たな、ナナ! 今度会ったら、他の仲間も紹介するからな!」
「楽しみにしてる。気をつけてねー」

ミニオンたちと一緒に、彼らに向かって手を振る。ビブルカードができ次第、会いに来てくれるのかな。それは楽しみだな。

***

可愛いライオンの顔がある船が見えたと思ったら、ゴム状のものが体にグルグルと巻き付き、そのまま攫われた。

「のわーーーっ!?」
「「「ボスーーーーッ!!」」」

ミニオンたちの悲鳴が遠ざかる。前髪がひっくり返るほどの勢い。足が宙に浮く感覚。暴れようにも下は海だし、棒立ちの状態で拘束されてるからそもそも動けない。されるがままでいたところ、細いけどしっかりした体に抱きとめられた。

「しししっ、久しぶりだな! ナナ!」
「……ルフィ!? びっっくりした! 誘拐しないで普通に来なよ!」

悪びれる様子もなく、ルフィは白い歯を見せてニカッと笑っている。その無邪気な顔に、毒気も怒る気も抜かれていたところ、ルフィが体勢を崩した。背後からサンジさんが、ルフィの背中を蹴ったらしい。

「おいルフィてめぇ。か弱いレディを無理やり連れてきた挙句、何抱きしめてやがんだ羨ましい!」
「サンジお前本音出てるぞ」

ウソップが呆れたような顔で突っ込む。私を芝生の上に下ろしてから、ルフィは私の肩を抱き寄せた。

「前に話したけど、もっかい紹介する! こいつはおれの友達のナナ! おもしれー仲間をたくさん連れてんだ!」
「こんにちは。ナナです。賞金稼ぎしてますが、ルフィとは友達なので手出しはしません。なので戦闘は無しでお願いします」

そう言うと、ゾロが刀にかけた手を引っ込めた。よかった。こっちは丸腰だから優しく扱ってほしい。

「初めまして、おれはサンジです。会えて嬉しいよ。マドモアゼル」
「ひぇ」

サンジさん(一応私の方が歳上だけど、彼の方が大人っぽいから)に恭しく片手を握られ、礼儀正しい挨拶をされる。王子様みたいにきらりとした微笑みを浮かべ、守るべきものを見つめるような瞳を向けてくる彼に、私は小さく悲鳴をあげた。

「こんな華奢なレディが賞金稼ぎをしているなんて驚いたよ。怖くはないのかい?」
「いやその、慣れたので大丈夫です。仲間もいますし」
「勇敢なレディだね! 君みたいな子を守れる仲間たちが羨ましいよ……!」
「あ、あの……。そんなあからさまに女の子扱いされるの、慣れてないので……はずかしい、です。普通に接して、くれませんか」

振りまくったホッカイロみたいに、頬が熱い。今絶対に赤面してる。目を伏せつつ、片腕で顔を隠すようにしながら訴えると、サンジさんがぽつりと呟く。

「な……」
「……?」
「なんって、純粋なレディなんだ……!」

逆効果になってしまった。彼の目がピンク色のハートになってる。サンジさんの対応って、ホストみたいだから落ち着かないんだよな。色男こわい。おろおろしていると、ナミが私の肩に手を置いて引き離してくれた。

「この子が困ってるでしょうが!」
「あ、ありがとう」
「いいのよ。あんたも海を渡ってくなら、あれくらい軽くあしらえなきゃダメよ!」

さすが、あえて見せる必殺技で男性陣を瞬殺したお色気担当。レベルが違う。歳下なのにお姉さんみたい。かっこいい。サンジさんやナミに続いて、まだ話したことがなかったフランキーやブルック、ゾロも挨拶をしてくれた。


この後、駆けつけたミニオンたちと一緒に宴をすることになった。サンジさんが作るご飯と、デザートのバナナマフィン。それからブルックさんのバイオリン演奏を、思い切り満喫した。
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