トリップしたら海賊の世界にいたので、黄色い子分たちとバナナ代を稼ぎます。


ザザーーン……
ザザーーン……

ずっと聞いていたくなるような波の音。鼻腔に流れ込んでくる潮の香り。瞼を閉じていても伝わってくる、日差しの眩しさ。

ごろんと横に寝返りを打ち、ゆっくり目を開ける。柔らかいクッションが頭の下にあり、タオルケットが体の下に敷いてあった。上半身を起こして辺りを見回すと、どうやらここは船の甲板らしい。上を見上げると、真っ白な帆が風を受けて膨らんでいる。

「……何で船の上……?」

おかしい。私は内陸生まれ内陸育ちで、海を見たり船に乗ったりするのは、旅行の時くらいしか経験していない。船旅に行く計画なんか立てていないし、客船の甲板でこんな無防備に眠るわけがなかった。

ここはどこなのか。自分はどうしてここにいるのか。何も思い出せない。もしかしてこれは夢なのでは。もう1回寝てみよう。次に目が覚めたときは、きっと自室のベッドの上だ。

そう思って目を閉じ、体を丸める。

「……ス? ボス?」

小さい子みたいな声が聞こえる。誰だろう? まあ、これも夢だし、気にしない気にしない。

「ボスー」
「ルカミー」
「☆∀$□▲●§」
「オキテー」
「&Щ〇◇◎∥★♪」

待って何か増えてる。さすがに無視できなくて、また瞼を開くと、周りを黄色い何かが囲んでいた。

熟れたバナナみたいな、少しだけ赤みがかった黄色の体。青いデニム製のオーバーオール。60cm〜80cmくらいの小さな背丈。ゴーグルに覆われた、1つか2つの丸い目が、こちらを覗き込んでいる。

「………………何でミ〇オン!?」

アメリカのアニメーション映画会社で作られた、千葉じゃなくて大阪の方のテーマパークにいるマスコットたちが、そこにいた。


船の内部が知りたくて、あちこちを見て回る。
その後ろを楽しそうにおしゃべりしながら、ミニオンたちがわらわら着いてくるため、何やら賑やか御一行様みたいな感じになっていた。
私が笛を吹いていたら、ハーメルンの笛吹き男か、海鮮系の名前を持つ一家のエンディングテーマみたいになってただろう。

広い食堂にキッチン。操舵そうだ室。図書室。ミニオンたち用と思われる、パーティーでも開けそうなくらい広々とした船室。モニターが並んだ、機械やハッキングに強いキャラが使っていそうな部屋。

食料庫の隣を開けてみると、山を作るくらいのバナナが置いてあった。どれも食べ頃のままで時を止めているように見える。呆気に取られていると、冷蔵庫の開けっ放しをたしなめるように腕を引かれた。2つ目にやや高い背丈、頭に毛が生えているところを見ると、ケビンかな?

「ごめん、ケビン。今閉めるよ」

他にも燃料室、医務室、武器らしいアイテムが詰まった倉庫などがある。最後に"船長室"と書かれたドアを開けると、そこは一人部屋らしく、ベッドや机、椅子やソファ、本棚などが並んでいた。どれも大事に使い込まれたアンティークのようなデザインで、小さい頃見ていた理想が現実になったみたい。

「何だろう、これ……」

机の上に置かれた封筒が目に留まる。膨らんでいるそれを手に取ってみると、それなりに重い。赤い封蝋を外して中身を取り出せば、予想通り何枚もの手紙が入っていた。

書かれていた内容は以下の通り。
・ここは、私がいた場所とは別の世界であること。
・この船に名前をつけてほしいこと。
・この船に住む生き物たちの面倒を見てほしいこと。
・生き物たちは私の味方であり、何かあれば力になってくれること。
・この世界で冒険を楽しんでほしいこと。
他にはこの船についての説明書。

周りを見てみると、ミニオンたちが丸い目をキラキラ輝かせながら見つめ返してくる。

「私は悪党でも、世界一の大怪盗でもないけど、それでもいいの?」

ミニオンたちは、最強最悪のボスに仕えることが生きがいだったはず。不思議に思いながら問いかけると、この世界のミニオンたちは問題ないようで、笑顔でバンザイをしていた。

「分かった。今日からよろしくね」

どうして、ミニオンたちがいる世界に来ることになったのかは分からない。でも、手紙にあった冒険とやらを続けていれば、その理由や元いた世界に帰る方法も見つかるかもしれない。

こうして、異世界での変わった船長生活が始まった。
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