おそろいの匂い
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「ハル、お風呂上がったぞ」
部屋で気に入りの雑誌をめくっていたとき、かけられた声に顔を上げた。
今日は久しぶりに蒼が泊まりに来た。
蒼の家は両親が共働きだから、たまにこうして俺や真琴の家に泊まる。
透青さんや紺は、それぞれの友達の家に泊まりに行ったらしい。
肩にタオルをかけた蒼が、俺の隣に腰を下ろす。
普段1つに結わえてる黒髪はほどかれ、背中や胸に流れていた。
「『月刊 日本の名水と私』……?」
蒼がひょこりと背表紙をのぞき込み、不思議そうな声でタイトルを読み上げる。
「DVDもあるぞ。見るか?」
「ハルがお風呂上がったら見る」
そう答え、蒼がくすりと小さく顔をほころばせた。
「……じゃあ、風呂入ってくる」
見てていいぞ。と言う代わりに雑誌を手渡す。
部屋を出る前に蒼を見ると、ぱらぱらと興味深そうにページをめくっていた。
***
もう少し浸かっていたい気持ちを抑え、いつもより少し早めに風呂から上がる。
部屋に戻ると蒼が雑誌を床に置き、タオルで俺の髪を拭き始めた。
「濡れたままは風邪引くぞ」
「そんなヤワじゃない」
少し爪先立ちになっている蒼に頭を傾けてされるがままになる間、俺は蒼の髪を指ですいた。
しっとりと柔らかな髪はさらさらで、心地がいい。
指なじみのよいそれに無心でふれる。
その感覚は水に似ていた。
「……伸びたな、お前の髪」
「伸ばしてるからな。……けっこう前から」
そうつぶやくと、蒼の穏やかな声が耳元をくすぐった。
「小さい頃、"お前の髪って水みたいだ"って、ハルが言ってくれたから」
それは子供の頃。
さらさらの髪を撫でて、俺が言った言葉。
「……そうだったな」
腕を伸ばして蒼を囲うように抱きしめ、蒼の髪に顔をよせた。
ふわりと長い髪から漂うのは、使い馴染んだエッセンシャル入りシャンプーの香り。
「……俺の匂いがする」
俺のTシャツにゆるく包まれた華奢な体を感じながら、つぶやいた。
「……は、ハル、DVDはいいのか……?」
「……明日でいい」
蒼を腕に抱いたまま、ベッドに転がる。
ぼすんと沈む2人分の体。船のように微かに軋む音。慌てたように、「わ、」と小さく上がる声。
「……寝るか」
「い、一緒に、か?」
「……昔はよく一緒に寝てただろ」
「……うん」
頬を染めたものの、安心したように目を閉じた蒼。
布団に潜りながら、俺も睡魔に誘われるようにまぶたを閉じた。