少女たちは水辺で出会う
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「泳ぎ方、キレイだね!」
少女はそう言って、花が咲いたように笑った。
***
小学校3年生のとき。近所の公園で、ハルと真琴と一緒に遊んでいた日のことだ。
「ねぇハルちゃん、アオちゃん。スイミングクラブ、一緒に入ろうよ」
滑り台のはしごを登りながら、真琴が私たちにそう提案した。
ブランコに腰掛けてゆらゆら揺れていた私は、立ち上がって滑り台に近づく。
「スイミングクラブって、泳ぐとこ?」
「うん。透青くんも通ってたんだって」
透兄が泳ぐところを、私は何回も見てきた。
青くて透明で、キラキラした世界。そこで誰よりも速く泳ぎ、1番になるその光景。
密かに憧れていた景色を思い浮かべてドキドキしていたとき、滑り台に座っていたハルがすーっと降りていった。
「いやだ。めんどくさい」
「でもハルちゃん、泳ぐの好きでしょ?」
不思議そうに真琴がたずねる。
その通りだ。ハルは泳ぐときや水にふれてるとき、とても嬉しそうな顔をしてるのに。
「別に好きじゃない。入りたいなら真琴と蒼だけで入ればいいだろ」
「……だったら僕も入らない」
「え……」
スイミングクラブには行ってみたい。
でも、2人がいない場所でうまくやっていく自信は無い。
眉を下げて情けない声を出した私を見て、真琴はびっくりしたように目を丸くし、元気づけるように笑いかけた。
そして、ハルと私をしっかりと見つめて、こう言ったのだ。
「ハルちゃんとアオちゃんも一緒じゃなきゃ、意味ないよ」
***
こうして私たちは、3人そろって岩鳶スイミングクラブに入った。
挨拶をした後。準備運動をしてから、水の中にゆっくりと入る。ひんやりしてて、気持ちいい。
私はプールの壁を蹴り、クロールを泳ぎ始めた。
足で水を蹴って、腕で水をかいて。前に、前に、進んでいく。
ハルは誰にも教えられてないのに、クロールを25mも泳いだことがある。
透兄はいつの間にか、誰よりも速く25m以上先のゴールにたどり着くようになった。
2人は、どんな気持ちで泳いでたのかな。
思いを巡らせながら、水の中に体を滑り込ませていく。青くて透明で、静かな世界。ここが好きだと、そう感じた。
壁に手をつき、水から顔を出す。
酸素が肺に入ってくる。
「ねぇ!」
そのとき、朗らかな声が降ってきた。
驚いて見上げると、1人の女の子が飛び込み台の側にしゃがみ込んでいた。
「泳ぎ方、キレイだね」
「え、」
おひさまの光を浴びた黄色いヒマワリみたいな、温かい笑顔でそう言われた。
思わず頬が熱くなる。
そんなこと初めて言われた。
近所に同い年の女の子がいなかったからか、私はこういう時に何て言ったらいいのか分からなかった。
おろおろする私をきょとんと見つめたあと、その子は笑って私に手を差し伸べてきた。
手を取ったほうがいいかな。
そう思ってその手を恐る恐る握ると、その子は私をプールサイドに引き上げてくれた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして。私、矢崎 亜紀。君は?」
アキと名乗った女の子は、夏の青空のようにカラッと笑う。
その笑顔に惹き込まれ、私も自分の名前を伝えた。
「蒼。向日 蒼」
これが彼女……亜紀との出会い。
私に初めて、女の子の友達ができた日の出来事だった。