本が好きなお二人さん
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赤、緑、青、黄色、紫。
キューブ状のカラフルなゼリーが、透明なサイダーの中でぷかぷか浮いている。
人魚の
本当に読書が好きなんだなぁと、コーヒーを飲みながら改めて思う。
テーブルの上に積み重ねられているのは、ミヒャエル・エンデの『モモ』、メアリー・ノートンの『床下の小人たち』、エーリヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』に、グリム童話集。
ちなみに彼女が今、熱心にページをめくっているのは、アンデルセン童話集。
外国の児童文学作品が好きなのかな。
「ねぇ、向日さん」
集中してるところ悪いけど、思い切って声をかける。本から顔を上げた向日さんに、「炭酸抜けちゃうよ」とゼリーポンチが入ったグラスを指さすと、彼女は「あ」と小さく声をもらした。
「……忘れてた」
「集中してたもんね」
本に栞を挟んで脇に置き、向日さんがグラスとスプーンを手に取って、ゼリーをすくう。
宝石みたいに綺麗なゼリーを目で楽しみながら、彼女はそれを美味しそうに食べた。
「向日さんは、『人魚姫』って好き?」
アンデルセン童話集をちらりと見て、そんな質問を投げかける。サイダーを少しずつ飲んでいた向日さんは、ぱちりと瞬きをした。
「『人魚姫』……か?」
「うん」
「……好きか嫌いかで聞かれたら、好きだ。大勢が認めるハッピーエンドではないけど、切なくて綺麗な話だから。ただ、人魚姫は読み書きを覚えた方が良かったと思う」
物語について話す向日さんは、いつもより言葉数が増える。いつもは少しツンとしてる顔も柔らかくなって、彼女の本来素直なところが見えてくる。
初対面の印象が最悪だった自覚はある。彼女に警戒するような目を向けられていた時と比べると、ずいぶん距離を縮められたと思う。
さりげなくフォローしてくれた、橘くんと鴫野くんのおかげだな。
「アンデルセンなら、私は『最後の真珠』の方が好きだな」
「『最後の真珠』? 結構マイナーなの好きなんだね」
お金持ちの家に産まれた跡取り息子のために、妖精たちから贈られた幸福の真珠。
その中に1つだけ足りない真珠があった。
家の守護霊と赤ちゃんの守護天使は、まだその真珠を持ってきていない妖精を見つけに行く。
その妖精には決まった場所が無く、どんな人間のところにも訪れて、贈り物を届けていくという。
2人がたどり着いたのは、母親を亡くして悲しむ夫と子どもたちがいる家だった。
その部屋の隅には、母親の代わりに、悲しみの妖精が座っていた。
悲しみの妖精がこぼした燃えるような涙は、虹色に輝く真珠に変わり、それを手に取った守護天使は言う。
"これが悲しみの真珠、人生になければならない最後の真珠です。"
「あの話からは、悲しみも人間にとって、必要な感情だっていうことが分かるから」
「そっか」
その言葉は、僕の心にじんわりと染みていった。
友達を悲しみから遠ざけようとして、気持ちがすれ違った経験があったから、だろうか。
「やっぱり、向日さんと本の話をするのは良いな」
嘘偽りない気持ちを伝えると、彼女は照れたように頬を染めた。分かりやすい反応に、つい目尻を下げる。
「……呼び方」
「え?」
「……呼び方、名前でいい」
親しい人以外には愛称や名前で呼ばせない彼女に、そう言われて目を見張る。
「いいの?」
「うん」
また少し、僕らの距離が近づいた。
「次はどこのブックカフェに行こうか」
「少し遠出してみるか?」
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