溺れる人魚
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手足を動かすこともできず、浮上することもできず。ゆっくりと、でも着実に、僕は沈んでいく。
呼吸が詰まるような閉塞感。
胸にぽっかり穴が空いて、そこから風が吹き抜けていくような心細さ。
水泡だけが、上へ上へと昇っていく。
(……誰も、助けてくれない……)
諦めにも似た孤独感を抱えて、目を閉じる。
そのとき、まぶたの向こうが明るくなった気がした。
深海に光が届くはずがないのに……。
不思議に思って目を開けると、一筋の光が差し込んでいた。温かくて柔らかな、薄明光線。
それはまるで、地獄に下ろされた蜘蛛の糸のように見えた。
そこから僕に向かって、1つの手が差し伸べられる。細くて華奢な、白い腕。
掴まったら折れてしまうのではないか。
ふれたら幻のように消えてしまうのではないか。
そんな不安で手を伸ばすことをためらったとき、その手が僕の手をそっと取った。
水の中に居すぎたせいか感覚はない。
でもその光景は、僕の中に安らぎと温もりを呼び起こした。
ゆるりと体が浮上していく。
(誰……?)
逆光でその人の顔は見えない。
ほっそりした小柄な体つきは、中学生くらいの少女のようだった。
光を背に、長い髪や尾ひれのようなシルエットが幻想的にゆらめく。
目を凝らすと、ターコイズブルーの瞳が僕を見つめていた。
優しく透き通ったその色が、ひどく懐かしかった。
もう1度目を開ける。
そこは、自室のベッドの上だった。
「…………夢……?」
余韻がやけに強く残っていて、しばらくぼうっとしていた。
自分が沈む夢は最近よく見ていたけど、助けられたのは初めてだった。
澄んだターコイズブルーの瞳。
あれは、もしかしたら……。
「…………アオ」
中学生の姿のままで、記憶の中に留まっている彼女。
セーラー服や岩中水泳部のジャージを着て、白いヒマワリのように笑う姿。
胸がツキンと痛む。
中学のときに近くで見ていた色んな表情が、ページをめくるように次々と思い出される。
酸素が薄くなったみたいに、息がしづらい。
彼女に会いたい。
言葉を交わしたい。
自分の心を覗いてほしい。
どうしようもないほど強く思いながら、僕はベッドに沈んでいた。