懐かしい声
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
スマホが震えているのに気づいて画面を見ると、ハルから電話が来ていた。通話ボタンを押して耳に当てる。
「もしもし」
『蒼か?オレだ』
思わず小首をかしげた。
いつも聞いている、クリアで精悍なハルの声と違う。
「……ハルの、友達か?」
『すげぇ!こっちも速攻でバレた!』
電話の向こうの誰かは、いたずらがバレた子供みたいに笑っている。
"こっちも"という言い方で、真琴とかにも試したんだろうと察した。
ちょっとやんちゃさが残ってる、男らしい低い声。どこかで似たような声を聞いたような……。
誰だったか、と考えていたとき、別の声が聞こえてきた。
『やっほ、アオ〜』
「貴澄。ハルと一緒の大学だったのか?」
『さすがアオ!察しが良いね〜。びっくりするだろうけど、一緒なのは僕だけじゃないよ』
「?」
怪訝に思っていると、さっきの声がまた私の名前を呼んだ。
親しげな気持ちが滲み出てるような、そんな優しい声音で。
『よっ、アオ。5年ぶりくらいだな。オレのこと覚えてるか?』
5年ぶり。
"アオ"という呼び方。
どこか懐かしい声。
それらを照らし合わせたとき、1人の男の子が、電話の彼と結びついた。
「旭……!?」
***
旭のお姉さんの、茜さんが経営している『純喫茶まろん』。
そこで、私たちは再会を果たした。
暖色の明かりがぼんやり灯った、レトロで大人な雰囲気で、気持ちがほっと落ち着く。
「蒼ちゃん、中学のときから更に磨きがかかったんじゃない?彼氏できた?」
「いいえ。あ、ミルクティーいただきます」
後半のからかうような口調に、くすりと笑ってティーカップに口をつける。
すると茜さんは意外そうに目を丸くした。
「うそー、絶対世の中の男が放っておかないわよ。うちの旭とか」
「おい姉貴!」
旭が赤い顔で茜さんに突っ込む。
茜さんはいたずらっぽく笑い、「まあ頑張りなさいよー」と手を振ってカウンターの方へ行ってしまった。
旭が顔に手を当てて「あー……」と小さく唸る。
耳までほんのり赤くなっているのが見えて、私も少し気恥ずかしい気持ちになった。
「……何か不思議だな」
「お、何がだ?」
空気を変えようと思ってから、ふと気づいたことを口にする。
5年ぶりに見る旭は、中学のときより体が大きくて、声も低くなっていた。
顔つきも大人びてて、すっかり大学生になった感じ。
「今の旭、別人みたいに見える」
「そうだろ?俺もオトナの男に成長したからな!」
自信があふれるような、得意げな笑顔。
そこは昔と変わっていなくて、私はふわりと微笑む。
それを真正面から見ていた旭は、ちょっと目を丸くした。
「何か、アオも昔と比べると、表情柔らかくなったな」
「そうか?」
「おう。あと、……髪伸びてるから大人っぽいっつーか、"カワイイ"から"綺麗"に変わったっつーか……」
「え」
「……あ。あーいやその、さ、さっきのは心の声だ!」
顎に手を当てながらストレートな感想を伝えてくると思いきや、ハッとしたように慌てふためく旭。
顔も耳も首も真っ赤だ。
つられて頬を熱くしながら「あ、ありがとう……?」と呟くように返すと、旭はポカンとした後可笑しそうに吹き出した。
「褒めるとすぐ顔赤くなるとこ、変わってねーんだな」
「……からかうな……」
カップで顔を隠すように飲んだ、ミルクティーの優しい甘さが舌の上に残る。
こうして言葉を交わしていると、あの頃に戻ったようで、胸がぬくもった。
「またよろしくな、アオ」
「こちらこそ、旭」
懐かしい時間を、もう一度。