2人で迎える穏やかな時間
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じゅう……っと火が通る音とともに、香ばしい匂いがふわりと鼻をくすぐった。
フライパンの中に並んだ2つのハムエッグに口元を綻ばせ、十分に焼き上げてから火を消して蓋を閉める。
支度が整い、私はいったんクリオネのアップリケがついたエプロンを解いた。
「今日も起こしに行かなきゃな」
少し前から一緒に暮らし始めた、幼なじみ兼恋人のことを思い出して苦笑する。
大学がある平日は何とか自力で起きられるものの、朝が弱い真琴は休みの日は睡魔に負けてしまうのだ。
寝かせてあげたい気持ちもあるが、生活リズムが崩れるのはなるべく避けたい。
それに2人で、毎日やると決めた小さな約束がある。
寝室に入りダブルベッドに近づく。
本人は案の定、規則正しい寝息を立てていた。
昔と変わらない寝顔に小さく笑みをこぼしてから、私はゆさゆさと真琴の肩に手を添えて揺らした。
「真琴、真琴。朝ごはんできたぞ」
「ん〜〜……」
寝起きの子供がするような小さなうなり声を出して、布団がもぞもぞと動く。
私は、ふう、とため息をついてから。まぶたを閉じてカーテンを掴み、一気に左右に開いた。
遮られていた朝日が室内を満たす。
「?!」
「よし」
ベッドは窓に近いところに置いてある。
目をこすりながら緩慢な動きで起き上がった彼に、私は手を差し伸べた。
いつも真琴が、ハルや私にしていたように。
「おはよう、真琴」
「んん……おはよ、アオちゃん……」
寝ぼけ眼でふにゃりと笑い、真琴が私の手を握る。
次の瞬間、ぐいと強い力で引っ張られた。勢いに逆らえず、私の体はベッドに倒れ込む。
「っ!? ちょっ、真琴っ」
「今日は土曜日だよね……? 一緒に寝よ……?」
「だめだぞ。朝ごはんが冷めるぞ」
……最近の悩みはこれかもしれない。
私が起こすとき、真琴はいつもより甘えたになる上にやや強引になる。
じたばたと抵抗するも、ぎゅっと強く抱き込まれて動けない。
「寝ちゃだめだ真琴、一緒に朝ごはん食べよう」
ぺちぺちとあちこち叩いてそう言うと、真琴は名残惜しそうに私を腕の中から解放した。
「そうだね、約束だもんね」
あくびを1つしてベッドから降りた真琴が着替え始め、私はキッチンへ戻った。
今日は洋風メニュー。ハムエッグとフレンチトースト、プチトマトのサラダとココア。
お皿やフォークを出していたとき、ラフなTシャツとジーンズに着替えた真琴が入ってきた。
「目はちゃんと覚めたか?」
「もう大丈夫だよ。あ、今日フレンチトースト?」
照れくさそうに笑ってから、真琴が食器を並べるのを手伝ってくれる。
優しさがさりげなくて、胸のあたりがきゅんとした。
「アオのごはん、美味しいんだよね」
「ありがと。明日は真琴の当番だからちゃんと起きるんだぞ」
「う。頑張るね……」
笑いながら椅子に座り、2人で手を合わせた。
毎朝恒例になった、私たちの約束。
『いただきます』