祭囃子と君の温度
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お囃子の音色。
幻想的な提灯の列。
屋台の香りと賑わう人々。
「お? ハルと真琴と郁弥は?」
「……はぐれた……」
イカ焼きをかじりながら言う旭をしっかり捕まえ、うなだれる。
今日は岩鳶町で開催されるイカ祭りの日。
引っ越してきて日が浅い旭が楽しみにしていたこともあり、私たち5人で遊びに来た。
……のだけど。
「ホントにイカばっかだなー。あ! あそこのイカ焼き美味そう!」
「旭! はぐれるぞ……!」
辺りをきょろきょろしていたかと思えば、急に向こうへ行ってしまった旭を追って。
気がついたら他の3人の姿を見失っていた。
「どうしよう……。皆きっと心配してる……」
「まあ、こうなっちまったら仕方ねえな。祭り楽しみながら探そうぜ」
この人ごみの中で見つけられるのか。
そう考えて頭の中がこんがらがりそうだったとき、旭がアッサリ言った。
「"いっせきにとう"だろ!」
「……"一石二鳥"じゃないか?」
思わず言葉を直すと、旭はからりと笑って手を差し出した。
「?」と首をかしげると、旭が私の片手をぎゅっと握る。
「!?」
「お前とはぐれないようにな」
内心慌てている私をよそに、旭は人の間をぬって進んでいく。私も手を引かれながらついていく。
そっと旭の手を握り返しながら、頬と手が熱くなったのを感じた。
今までハルや真琴、透兄や紺以外の男子と手をつないだことなんて無かったから。
「アオ、何か食いたいのあるかー?」
「え、と……はし巻き」
「はし巻き好きなのか?」
「……うん」
はし巻きは、薄くしたお好み焼きを割り箸に巻いたもの。お祭りに行くたび買っている、好きな食べ物を言う。
さらっと甚平を着ている旭はいつもと違った雰囲気に見えて、少しドキドキしてきた。
浴衣や甚平を着て来るのは旭の提案。
私も今日は爽やかな水色の浴衣にして、髪には白い花の髪飾りをつけた。歩く度に袖や裾が揺れ、描かれた赤やオレンジの金魚たちが泳いでいるように見える。
「おぉ、このお面かっけー!」
歩いていたとき、お面屋さんのところで旭が立ち止まった。
超絶合体ドッペルゲンガーのお面を手に取り、キラキラした目で見つめている。
「おっちゃーん、コレくれ!」
「500円な。坊主、姉ちゃん連れ回して困らすなよ?」
「なっ!? ちちちちげーよ友達だ!」
からかうような笑顔でおじさんが硬貨を受け取る。
旭はどもり、顔はその髪と同じ赤色になっていた。
「……何かその、オレたち、周りから見たらそう見えてんだな」
お面を斜めにして頭につけ、むくれたように口を尖らせる。
繋ぎ直した手は、ちょっと汗ばんでる気がした。私のか、旭のかは、分からない。
その後も色んな夜店を旭と回った。
イカスミ焼きそば、綿アメ、ヨーヨーすくい。
たこ焼き、はし巻き、イカバーガー。
りんご飴、射的、輪なげ。
「んー、ハルたち見っかんねーな……。どこ行ったんだろうな?」
「どこかですれ違ったのかもな……」
いったん2人で休憩。
高い位置にある神社の石段に座り、買ってきたものを食べる。
とは言っても私は手に持ってるはし巻きだけで、ほとんど旭のだけど。
「旭、ソースとマヨネーズついてる」
「えっマジか!?」
ポケットティッシュを手提げから取り出し、たこ焼きを食べていた旭の口元に当てる。
「……うちの姉ちゃん、こんなに面倒見よくねーかも」
「そうなのか?」
そういえば、よく絞め技をかけられてるんだっけ。
男勝りなお姉さんなのかな、と想像して小さく笑う。
プラスチックのパックや割り箸と一緒に、ティッシュを丸めてビニール袋に入れる。
旭はその間、また恥ずかしそうなひょっとこ口になっていた。
「……なあ、アオ」
「?」
「あのさ、オレのこと、」
突然名前を呼ばれて小首をかしげると、旭が私の近くに手をついた。
そのせいで顔の距離が縮まる。
旭の顔がやけに赤いのが、暗がりの中でも分かった。
(え……)
一瞬だけ、時間が止まったような気がした。
「あ! 旭ー! アオー!」
そのとき真琴の声が響き、私たちは同時に体を離した。
真琴を先頭に、ハルと郁弥も駆け寄ってくる。
「や、やっと見つけられた〜……。良かった〜……」
「もう……! あちこち探したんだからね?!」
「勝手にどっか行くな」
真琴はへなへなとしゃがみこみ、郁弥は拳を作ってお説教モード。
ハルはいつもの無表情に見えて、ムスッとしていた。
「3人とも、ごめん……」
「わ、悪ぃ……」
申し訳なさに頭が上がらなくて、2人で深々と頭を下げる。
郁弥がけっこう大きめのため息をついた。
「アオは旭を追う前にひとこと言うこと。旭は……言っても無理だけどもうウロウロしないで」
「はい……」
「言っても無理ってなんだよ! バカにしてんのか!?」
旭が郁弥に反論するのを何とかなだめた後、5人で帰ることになった。
その道の途中、私たちをどうやって探したかをハルたちが教えてくれた。
「真琴が色んな人に聞いて回った」
「特に屋台の人が情報教えてくれたんだ」
あちこちの屋台行ってて良かったのかも……。
でもお祭り返上で探してくれた3人に悪いな……。
そう思ったとき、真琴がほんわり笑って私の肩に手を置いた。
「秋にはカニ祭りがあるし、そのときはちゃんと5人で回ろう?」
「! うん……!」
「カニ祭り!? 今度はカニ食い放題!?」
「誰か旭を捕まえてたほうが良さそうだね」
皆でわいわいしながら歩いて行く。
そのとき旭が私の隣に並んだ。
ふと思いだしたことを聞いてみる。
「……そういえば旭、神社で何か言いかけてなかったか?」
「へ?! あ、そーだったか?」
「……うん」
どうしたんだろう。
慌ててる様子にそう思ったとき。
旭は照れくさそうに後頭部をかいた後、私の手を取って何かを乗せた。
「これ……」
「オレが輪なげで取ったやつ。やるよ」
それは大きめの球体がついたストラップだった。
透明な球体の中に水みたいなものが入っていて、青や水色、黄緑色のビーズが揺れている。
「ありがとう」
両手で包んで胸に当て、微笑む。
すると旭は鼻の下を指でこすって、にっと笑った。
「あとさ、」
「?」
「オレ、弟みたいなやつで終わんねーからな!」
私に人差し指を向けて宣言する。
どうして旭がいきなりそんなことを言ったのか。
その言葉の背景にどんな思いがあったのか。
私が知るのは、また別の未来の話。